第12話 レベル上げと新スキル

「バールの錆になれぇぇぇっ!!」



学校から脱出するために移動しながら、魔物を倒してレベル上げをしながら進み、しばらく。


俺の目の前では、ゴブリン相手にバールをフルスイングする蒼咲がいた。


曲がり尖ったバールの先端がゴブリンの側頭部を捉え、鈍い音が響いてその矮躯を吹き飛ばす。


腰の入ったいいスイングだ。野球部に入ってもやっていけそう。



「グガアアアアアアアアッ!!!」


「おっと、よそ見して悪かったな」



蒼咲の活躍を横目で見ていた俺に、ホブゴブリンが剣を振り降ろしてくる。


それを半身になって避けつつ、握った剣で反撃。ホブゴブリンの横腹を切り裂き、痛みで動きが鈍ったところに下段蹴りを叩き込む。


膝を真横から蹴り抜き、ホブゴブリンは体勢を崩す。


剣を構え直し、斬撃一閃。横一文字の軌道を描いた斬閃は、ホブゴブリンの首を跳ね飛ばした。



《綾部玲士は[ホブゴブリンLv16]を倒した!》

《綾部玲士のレベルが上がった!》

《綾部玲士はLv21になった!》

《綾部玲士はSPを2獲得!》

《称号:幸運の効果で獲得SPが倍になった!》



おっ、レベルアップ。


やっぱりレベルも20まで上がると、経験値効率が下がっているのだろうか? レベル差で獲得経験値が下がったり?


そんなことを考えつつ、崩れ落ちるホブゴブリンの腕を掴み、ぶん投げる。


俺の方に向かって来ようとしていた複数体のゴブリンが、ホブゴブリンの死体に巻き込まれて倒れた。


死体にのしかかられてジタバタしているゴブリンたちを天井を起点に発動した【石柱】で叩き潰しながら、ホブゴブリンをぶん投げた手をグッグッと開閉する。


ふむ、蒼咲に言われて習得した【身体能力強化】だけど、大当たりだな。


習得するだけで、『力』、『速』、『体』が上昇するというお得仕様。


明らかに身体のキレが良くなっているし、筋力も上がっているので金属の塊である剣を振り回すのも楽になっている。


蒼咲が『これはオススメです!! めっちゃいいですから!!』と押しまくってきたのも納得である。


彼女自身も、レベルアップで入手したSPでさっそく獲得したらしく、バール捌きに磨きがかかっていた。ゴブリンをボコす速度が確実に上がってるし。



「せ、先輩! 追加きてます! おかわりいっぱいです!」



おっと、蒼咲の【索敵】に反応があったらしいな。



「数と方向!」


「左の廊下の突き当りから! うわ、二十匹くらいいます!」


「さんきゅ。蒼咲、どのくらい相手できる?」


「うぅ……よ、四匹くらいなら、なんとか……」


「無理はするなよ」


「そこは頑張れって言ってください!」


「おっけ、頑張れ」


「はいっ!」



力強い返事に、口元が緩む。


ははっ、イイもんだな。背中を預けられる誰かがいるってのは。


頼もしさに身体を動かされながら、追加で現れるゴブリンの群れに向かっていく。


廊下の角からわらわらと、ゴブリンとホブゴブリンの混成群が姿を見せる。


おっ、ホブゴブリンが三匹もいるじゃないか。これはレベルアップのチャンスだな。



「グギャギャギャギャッ!!」



きったねぇ声を上げながら、ゴブリンが数匹、先行して接近してくる。


複数の棍棒が俺の身体を打ち据えようとするのを、跳躍して回避。


そのまま空中で身体を捻って、先行してきたゴブリンの頭上を飛び越え、そいつらの背後に着地。



「――――【石垣】」



後続のゴブリンとホブゴブリンどもの前に石の壁を創り出し、分断。


そして、先行のゴブリンどもの背中に回し蹴りを繰り出し、蒼咲の方にぶっ飛ばす。


その数、丁度四匹。



「蒼咲、頼むぞ」


「――――任せてください!」



肩越しに振り返りつつ笑みを送ると、蒼咲も力強い笑みを返してくれる。


さて、あの四匹は任せても大丈夫だろう。


残りを俺を殲滅すればいい。


【石垣】の向こうで、ガンガンと壁を壊そうとしている音が聞こえる。


また、結合を緩めて蹴り飛ばしてもいいが……ここは、新しく獲得したスキルを試してみよう。



「【石垣】、解除――――いけ、【水砲】」



ガラガラと石壁が崩れ、ゴブリンとホブゴブリンの姿が露になり――そこに、俺の手のひらから放たれた、円柱状の水流が突き刺さった。


壁が急になくなり、勢い余って転びかけていたゴブとホブゴブどもは、水流によって押し流されていく。



「「「「「グギャアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!??」」」」」



悲鳴が重なり、ゴブとホブゴブどもは廊下の突き当りで団子状態になる。


――――俺が獲得した新たなスキル、【水魔法】。


その名の通り、水属性の魔法が使えるようになるスキルだ。なんの説明にもなってないが、それ以上に言いようがねぇんだわ。


水魔法を選んだのは、土魔法との相性が良さそうだったから。


ほら、水と土ってなんか親和性高そうじゃない? ようするに、フィーリングだ。


それに、火は火事が怖いし、風は火力も補助も微妙っぽいからな。


それに、飲み水を確保できるのがデカい。食料は我慢できるが、水分がないと人間はたちまち弱ってしまうからな。


魔法で作った水が飲めるかどうかは、蒼咲の【鑑定】によって確認済みである。


水魔法の水は、自然に湧き出る水と大差ないという鑑定結果だった。


SPを使ってレベルを上げて、いくつか魔法を獲得した結果、【土魔法】と組み合わせて使えそうな魔法を幾つか覚えている。


足し算以上の戦力の強化に、ウハウハである。強くなるってのはいいものだ。



「先輩、わたしのほうは片づけました!」


「おっ、やるじゃん。怪我は?」


「へへ、かすり傷です。どんなもんですか!」


「ランクAってところだな。Sランク評価が欲しかったら無傷で勝ってみせな」


「ス、スパルタだぁ……」



元気のいい声で勝利報告をしてくる蒼咲に軽口を返し、俺は【水砲】で押し流したゴブ&ホブゴブどもを見やる。


蒼咲に偉そうなことを言った手前、無傷で勝たなきゃなぁ。


ゴブ&ホブゴブは、びしょ濡れになっているが一匹も死んではいない。


水魔法は威力がそんなにだな。まぁ、それなら、別の魔法を使えばいいんだが。


【水砲】を使ったのは、敵と距離を取る目的だけじゃない。


真の目的は、二つ。


一つは、敵を一か所に集めること。


そして、もう一つは――――。



「さぁ、一網打尽だ――――【石爆】」




俺の魔力がたっぷりと宿った石を、な。


ゴブ&ホブゴブのあたりに散らばった石が轟音と共に弾け飛び、周囲に衝撃波と破片をまき散らした。



《綾部玲士は[ホブゴブリンLv17]を倒した!》

《綾部玲士は[ホブゴブリンLv18]を倒した!》

《綾部玲士は[ホブゴブリンLv17]を倒した!》

《綾部玲士は[ゴブリンLv6]を倒した!》

《綾部玲士は[ゴブリンLv9]を倒した!》

《綾部玲士は[ゴブリンLv7]を倒した!》

 ・

 ・

 ・

 ・

 ・

 ・

 ・

《綾部玲士は[ゴブリンLv6]を倒した!》

《綾部玲士は[ゴブリンLv9]を倒した!》

《綾部玲士のレベルが上がった!》

《綾部玲士はLv23になった!》

《綾部玲士はSPを4獲得!》

《称号:幸運の効果で獲得SPが倍になった!》



うげっ、二十も連続すると、アナウンスさんもちょっとうるさく感じるな。


まぁ、無事に傷一つ負わずに倒せたので、ヨシッ!


くるりと振り向き、蒼咲に向かって笑顔を向ける。



「どうだ、蒼咲。無傷だぞ無傷」


「……魔法を使うのはズルですよ! ズル!」


「はっはっは、聞こえんなぁ」


「むぅ~~……やっぱり、先輩は先輩です」



なんだか引っかかる言い方だなぁ。


蒼咲は一体、先輩という言葉にどんな意味を持たせているのだろうか?

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る