第2話 能力覚醒!
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名前:綾部玲士
Lv:5
能力傾向:魔寄り平均型
スキル:【土魔法Lv1】
SP:20
称号:【幸運】
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そんな、手抜きされたゲームのステータス画面のような内容が書かれた半透明の板の前で、俺は蹲ってプルプルと震えていた。
胸の中で荒れ狂う感情の正体。それは――羞恥ッ!!
うん、なんかテンションに任せてカッコつけたのはいいけど、よくわかんねぇレベルアップで出鼻をくじかれて冷静になったというか。自分のイタい言動を思い返して死にたくなっているというか。
老衰で死ぬとかもうどうでもいいから、このまま墓穴を掘って埋まってしまおうか。
――なんて考えに陥りそうになるのを寸前で止め、深呼吸をして気を取り直す。
「さて」
声に出して気持ちを切り替えた俺は、改めて目の前に現れた半透明の板みたいなもんを眺める。
で、なんなのコレ?
書かれている内容的に、俺をゲームキャラにした場合の能力値がだいぶ大雑把に表記されているって感じなのだが……残念ながらこれはゲームなんかじゃない。
つまり、ここに書かれていることは現実に即していると考えるのが普通だろう。
そういやさっき、なんかを倒しただのレベルが上がっただの声が聞こえたな。
幻聴にしてははっきりとしていたし、このステータス画面の内容とも一致する。
そっかぁ、魔物が出てくるだけじゃなくて、ステータスなんてものまで実装されたんだな、世界。大規模アップデートにも程があるぞ。つーか、告知をしてくれ告知を。
報連相の出来ない世界への愚痴はさておき、俺はどうやら魔物を倒して特殊能力に覚醒したらしいことがわかった。
もしかしなくても、さっきぶん投げたコンクリ片が下にいたわんわんおに当たったのか? そんなことってあるぅ?
本当に運が良かったのだろう。それこそ、ステータスに【幸運】なんて称号が刻まれるくらいに、確率の低い現象を引き当てたのだ。今、ソシャゲのガチャを引いたら最高レア五枚抜きとかできそう。
そして、覚醒した能力が【土魔法】と……うん、なんだろう。ちょっとホッとしている自分がいる。
ここまで、異常事態続きで普通な俺のアイデンティティが崩壊気味だったからな。
それがここにきて【土魔法】。
いやー、これがメインキャラなら【空間魔法】とか【勇者】とか、そんな感じの強そうなスキルに覚醒するだろうに【土魔法】。
炎とか氷とか雷とか、そういうカッコイイ属性もあるのに、【土魔法】!
これぞ、『普通』の俺に相応しい普通なスキルと言えるだろう。
うん、世界がこんな感じになっても俺自身は変わっていないようで何よりだ。
さて、己の地味具合に満足するのはさておき、まずは獲得した力を把握しようじゃないか。己を知り、敵を知ればなんとやらと言うように、戦いとは己の実力を把握するところから始まるのだ。
どうやらスキルやステータスの詳細は、意識を向けると自然に頭に入ってくる仕様になっているらしい。
なにこれ便利。でも、頭の中にいきなり情報が流れ込んでくる感覚はあんまり好きになれないな。慣れないといけないんだろうけど。
「ふむふむ……レベルはまんまRPGだな。敵を倒すと経験値が溜まってレベルアップ。レベルは上がれば上がるほど上がりにくくなる。倒した敵との実力差で経験値は変動する。んで、レベルアップする事にSP……スキルポイントがもらえて、それを使って新しいスキルを獲得したり、今あるスキルを強化できる。スキルのレベル上限は10で、上限に到達したスキルは進化したり派生スキルが生えたりする、と。スキルレベルを上げる時に必要なSPは、次のレベルと同じ数、ね」
つまり、Lv1のスキルをLv2にするにはSPが2。Lv9をLv10にするにはSPが10必要ってことだな。
レベルアップで2しかもらえないから、カツカツになりそう……って、あれ?
俺はレベルが5つ上がったんだから、SPは10のはずだよな? なんで20?
ああ、これが称号の効果なのか。【幸運】の称号は、SPの獲得量が倍になり、良いことが起きやすくなる、と。
前半はともかく、後半の曖昧さよ。なんだよ良いことって。宝くじでも当たんのか?
まー、お守り程度に思っておくか。SP獲得量が倍ってだけで、この称号が神なのはわかるし。
能力傾向は、某ポケットにファンタジーなモンスターバトルRPGの『せいかく』みたいなもんか。
物理攻撃力が上がりやすいなら力型、生命力が高くなりやすいなら体型、敏捷がめっちゃ成長するなら速型、みたいに、どの能力値が成長しやすいのかわかる。
俺はどうやら若干『魔』……要するに、魔法攻撃力が上がりやすくて、それ以外の能力も平均的に上がっていくらしい。
うむ、俺らしいコメントに困る普通さだ。極振りみたいなピーキーな性能してなくてよかったと安心できるからヨシッ。
そういや、レベルアップの影響を確認してなかったな。なにかしら身体に変化は……うん、ちょっと動きが軽快になったかな?
力も湧いてくる感じが若干あるし、身体の中に感じる謎パワー的なサムシングはアレか。魔力的な?
軽く身体を動かしてみて、それなりにレベルアップした感を確かめたら、後はSPの使い道を考えなきゃな。
「新しいスキルを覚えるか、今あるスキルを強化するべきか……」
新しいスキルを覚えれば、それだけできることが増える。スキルを覚えたいと意識すれば、習得可能スキルが頭の中に浮かんできた。
20SPもあれば結構な種類のスキルから選べそうだな。
【鑑定】や【索敵】といった便利そうなスキルもあるし、【身体強化】という腐らなそうなスキルもある。土以外の属性魔法も並んでいた。
けど、変にやれることを増やしてもなぁ。手札を必死にため込むのはいいけど、その大量の手札を使いこなせるのかって話だ。
それに、スキルレベルが低いスキルはそれ相応に効果が低い。あんまり数を取っても器用貧乏に成り下がることが十分あり得るのだ。
逆に、今ある【土魔法】を集中的に強化した場合。上位の魔法を使えるようになって戦力アップにつながるし、一つしかないのだから使いこなすもクソもない。
しかし、【土魔法】が効かない相手が出てきた時はなにも出来なくなってしまう。
どっちも一長一短だが……さて、どうするか。
ステータス画面を眺めながらうんうん唸ること数分。何とか答えを出した俺のステータスはこうなっていた。
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名前:綾部玲士
Lv:5
能力傾向:魔寄り平均型
スキル:【土魔法Lv6】
SP:0
称号:【幸運】
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はい、【土魔法】に全ツッパです。
べ、別に、大量にあるスキルから有用そうな物を探すのが面倒だったとかじゃないんだからね!
まぁ、最初に手に入れたスキルだからね。微妙に愛着のような物を感じないでもないから。この選択が吉と出る事を祈ろう。
「よし、後は実際に魔法を使ってみて……おん?」
ガタガタッ! と大きな音が屋上の出入り口から聞こえてくる。俺がそちらに視線を向けると同時にドアが吹き飛び、そこから何かが飛び出してきた。
緑色の肌、子どもくらいの身長、やせ細ったきったねぇ身体、鉤鼻とデカい耳の付いたクッソブサイクな顔。腰にぼろ布を巻いただけという原始人ファッション。
手には木でできた棍棒のような物を持っているソイツは、黄ばんだ目をぎろぎろと動かして屋上を見渡している。
そして、俺を見つけるや否や、わけのわからん叫び声を上げて、棍棒をブンブンと振り回し始めた。どうやら威嚇をしているらしい。若干迫力に欠けるけど。
それにしても、俺、あの魔物は見たことあるぞ。ファンタジーRPGにゃ大体出てくる有名雑魚モンスターの代表格……。
――――ゴブリン が あらわれた !
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