第13話 スキルの使い方

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名前:綾部玲士

Lv:23

能力傾向:魔寄り平均型

スキル:【土魔法LvMAX】【魔素吸収】【水魔法Lv7】【身体強化Lv2】

SP:0

称号:【幸運】

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名前:蒼咲小猫

Lv:7

能力傾向:魔体型

スキル:【アイテムボックスLv5】【索敵Lv1】【鑑定】【身体強化Lv1】

SP:0

称号:なし

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「……改めて、先輩の規格外っぷりがよく分かりますね」



ジト目の蒼咲が、そんなことを言ってくる。

 

ゴブリンの群れを退けた俺たちは、休憩がてら近くの教室で、ステータスの確認をしていた。


レベルアップでたまったSPの振り分けも行い、最終的なステータスを紙に書き出して、互いに見せあった結果がこれである。


規格外って……いやいや。


俺はただ、運がよかっただけ。


たまたま魔物を倒せて、たまたま戦える手段が手に入って、敵にそれがたまたまかみ合っていた。本当に、それだけでしかないのだ。


もし仮に、学校に出てくる魔物が全員【土魔法無効】みたいなスキルを持っていたら、俺は今頃アイツらの腹の中に納まっていたはずだ。


俺と同じ能力を得て、俺と同じ状況にいれば、誰だってこのくらい、普通にできるだろう。それこそ、蒼咲にだって。



「いやいや、無理無理。ぜーったいに無理です!」


「そうかぁ?」


「そうですよ!」



そういうことらしい。


あんまり納得できないが、まあいいだろう。


蒼咲の現在のレベルは7。【身体強化】もあることだし、複数のゴブリン程度なら軽くあしらえるようになっただろう。


だが、攻撃手段が乏しいのが少し引っかかる。バールで殴りかかるだけってのはな……。


俺が使っている剣(ホブゴブリンから奪ったヤツ)を使うか? と聞いてみたけど、ブンブンと首を勢いよく振って拒否されてしまった。


あんまりにも全力の否定だったので、ちょっと悲しくなってしまう。



「そんなしょんぼりされましても……わたし、体育の成績、2ですよ? 特別運動神経が言い訳でもない、実家が古流剣術の道場だったりもしない普通のJKですから。剣なんて振り回しても、自分の脚とか切っちゃいますって」


「うーん、そういうもんなのか。結構簡単だぞ? 剣ってのはモノを斬るために作られているんだ。振ったら斬れるモノを振れば、斬れる。普通の事だろう?」



少なくとも、俺に軽く剣を教えてくれたヤツはそう言っていたんだがなぁ……。


『よく、アクション漫画とかで、日本刀と西洋剣はまったく別物だっていうでしょう? けど、それは間違いよ。どっちも振って斬る、ただそれだけの道具なのよ。難しく考えすぎなの、みんな』って言って、目の前で実演までしてくれたぞ。


右手に日本刀、左手に西洋剣を持って、両方を同時に振ってまったく同じように巻き藁を両断していたのをこの目で見たのだ。


俺が感心していると、『このくらいは普通よ』って軽く言ってきたし、教えて貰ったら確かに結構簡単にできたから、そういうモンだと思っていたが、違うのか?


そう、蒼咲に聞いてみたところ、何故か頭を抱えてしまった。



「……先輩に剣を教えたのって、もしかしなくても刃藤先輩ですよね」


「おう、そうだぞ」


「『令和剣聖』の理論を、普通だと思わないでください!!」



蒼咲の渾身の叫びに、俺はちょっと身を引いた。


『令和剣聖』ってのは、俺に剣を教えたヤツ……刃藤綾萌じんどうあやめの異名の一つだ。


剣道大会だとかで優秀な成績を収めているのに加えて、本人の容姿がいいもんで、ポンポンとそういうあだ名がつけられるんだよなぁ。


『刀神剣神』、『妖刀艶剣』、『月華美刃』、『現代の巴御前』など……本人はあんまり好きじゃなかったみたいで、名前が付けられるたびに難しい顔をしていたっけ。


まぁ、俺の周りにいた尖った奴らは、大体そんな感じの異名が付いていたんだけど。


そう言えば刃藤のヤツ、昨日は県外に道場破りに行くとかで学校に来てなかったな。


刃藤は壊れてしまった世界で、どう生きているのやら。心配……は、しなくてよさそうだな、うん。


元気に魔物を巻き藁扱いしている姿が容易に想像できる。


アイツ、刀がないならないで手刀で普通に物をぶった切るんだぞ。どうやって心配しろって言うんだ。


他の友人共も、なんだかんだで昨日は学校に来てなかったことを思い出す。安否がわからないから不安……にはならない。


全員、冗談みたいな技能を持ったヤツらだしな。もはやフィクションの住人だよ。


けど、前に『漫画のキャラみたいだな』ってアイツらに冗談で言ったら、凄まじく微妙な顔をされたのはなんだったのだろうか? 


全員が全員、ジトォとした目を俺に向けてきて、無言でため息を吐いて肩を竦めて……まるで、『なにもわかってねぇなコイツ』って言っている感じだった。


なんでアイツらがあんな反応をしたのかは、今でもわかっていない。


蒼咲ならわかるかな? と思い、そのことをちらりと話してみた。



「………………」



結果、アイツらと同じような表情で、ため息&肩竦めをされただけだった。


誠に遺憾である。



「はぁ、この先輩はまったく……それより、わたしの攻撃手段ですよね? なら、一つ考えていたのがありまして」


「さらっと話戻したな……どんなだ?」



そう聞くと、蒼咲はどこか得意げな顔をして、ぴんと人差し指を立てた。


小憎たらしい感じと微笑ましさが半々な表情のまま、蒼咲は不敵に微笑む。



「ふふふ……ズバリ、『物理法則の暴力』です!」


「物理法則の……暴力? なんだそれ」



俺が小首をかしげると、蒼咲はちっちっちと指を左右に揺らした。小憎たらしさがちょっと上がった。



「わたしのメインスキル、【アイテムボックス】はレベルを上げる事によって、いくつかの機能が解放されていきます。そして、レベルを5にしたことによって、自分から離れた場所に出入り口を開くことができるようになったんです!」


「……ああ、なるほど」



蒼咲の言いたい事は大体わかった。


それで『物理法則の暴力』なのね。ちょっと大げさな気もするけど……まぁ、本人が楽しそうだからいいか。


それに、なかなか強力な攻撃手段であることは確かだ。バール一本で戦うより、よっぽど安定するだろう。



「ふっふっふ、オタクやっててよかったです。ただの収納スキルでも攻撃手段に変えられるのは、間違いなく先人の知恵があってこそ。ありがとう、小〇家にな〇う! わたしのチート無双はここから始まるんで、あ痛ぁ!?」



取り合えず、小憎たらしさが微笑ましさを超えて来たので、デコピンを一つ。


それに、調子に乗りすぎである。慢心、ダメ、絶対。



「うぅ……はぁい」


「素直でよろしい。ま、試してみないことはにはハッキリと言えないけど、強そうなのは確かだな。適当にゴブリンでも探して、試してみるか?」


「っ、はい!」



俺の言葉に、蒼咲が顔を綻ばせる。


なんだか思ったよりもうれしそうで、少しだけ面食らう。



「そうと決まれば、休憩は終わりです! さ、いきましょう、先輩!」


「そんなに慌てなくたって、ゴブリンは逃げないぞ」


「いや、先輩にあれだけボッコボコにされてますし、そのうち先輩を見ただけで逃げるようになるんじゃないですか?」


「真顔でなんてこというんだ……」



ガックリと肩を落とす俺を置いて、蒼咲は教室のドアをガラリと開ける。


こちらに背を向けていて、その表情はうかがえない。



「………………わたしだって、いつまでも守られているばかりじゃないんですから」


「うん? なんか言ったか?」



小さく声が聞こえた気がして聞き返すが、蒼咲はくるりと振り返って、ペロリと舌を出した。



「いいえー? 先輩より先にゴブリンを見つけなきゃなって思っただけですー」


「オイ待て、まだゴブリンが俺を見て逃げると決まったわけじゃ……」


「ふふ、どうですかねー?」



クスクスと笑いながら教室を出る蒼咲の後を追い、俺も廊下に出た。


……いや、本当に逃げないよな? ゴブリン。


なんだかちょっと不安になって来たぞ……と、とにかく、探そう。そうしよう。


若干の嫌な予感と共に、蒼咲の実験台にするゴブリンを探して廊下を進むこと……約、10分。



「あ、あれ~? いませんねぇ、ゴブリン」


「……ああ、いないな。ゴブリン」



あれほど出てきていたゴブリンの姿が、ぱったりと見えなくなっていた。


……え? これ、マジで俺のせいなのか?




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自称『普通』は魔物だらけの崩壊世界でも普通を貫く 〜ただし、彼の辞書には『普通』の二文字がありません〜 原初 @omegaarufa

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