第10話 理由
「先輩って非常識ですよね」
「どうした急に」
ジトォ……とした目をした蒼咲が、唇を尖らせながら言う。
いや本当に、急に非常識扱いをされるなんて困惑でしかないんだが。
俺はただ、蒼咲と遭遇するまでの出来事を、時系列順に話しただけなんだが……。
なお、最後にレベルアップしたところまで話終わった後、「ちょっとお時間いただきますね」と言って、蒼咲は保健室のすみっこでスマホをポチポチしだした。
少しして、表情を少しすっきりさせて戻って来たけど、あれは何だったのだろうか。
首をかしげていると、蒼咲はこれ見よがしにため息を零す。
先輩と言いつつ、コイツあんまり俺のこと敬ってないよな。
いや、変に持ち上げられたいとかじゃないんだけど、なんでこんなナチュラルにアホを見る目で見られているんだろうか。
それに、非常識なんて俺に一番似合わない言葉じゃないか。
普通の男子高校生やぞ。そうじゃないというなら、俺を説き伏せてみるがいい!
「いいですか、先輩。まず、昼休みから放課後まで寝てるのがおかしいです」
「ぐぅ」
「ぐぅの音は出た、じゃないんですよ」
いや、それはズルいじゃん……禁止カードじゃん……。
自分でもアホなことしたなぁって自覚してるから……許してクレメンス。
「それに、投げた石が偶然当たってレベルアップ? 手に入れた力がスキルガチャ大当たりの魔法スキル? その力を速攻で使いこなして魔物を撃破? 屋上から出るまで、普通なところが一切ないんですが???」
「いや、自分の命を狙っている敵がいて、戦う力があるなら抗うだろ、普通」
「そこであっさり戦えるのが普通じゃないって言ってるんです!! はぁ……もうやだこの先輩。掲示板で先輩の話をしただけで、ひとりの心がへし折れたんですからね? 反省してください」
「理不尽……」
「先輩の存在のほうがよっぽど理不尽です」
『魔ch』に俺の愚痴を書き込んでいたのね……それで顔も知らない誰かさんが心を折られたってどういうこと? ちょっと意味が分からんのだが。
蒼咲は大きくため息を吐くと、パン、と手を叩いて場の空気をリセットした。
「先輩の奇行はさておき、これからの事を話しましょうか。時間は有限ですし、てきぱきといきましょう、てきぱきと」
「奇行……」
「客観的に見てその通りなのですが? 掲示板の反応も、九割九分先輩が非常識で統一されていましたから。数は正義。民主主義の勝利です」
「ちょっと口が強すぎないかお前?」
「はいはい。で、どうしますか? 学校からの脱出を目指すのが最終目標なのは決まっていますけど」
抗議をさらりスルーされたことに若干の不満を感じつつも、俺は蒼咲の言葉にふむ、と思考を回す。
蒼咲の言う通り、俺たちがまずしなくてはならないのは、この魔物だらけの学校を脱出することだ。
インフラもほぼ死にかけた今現在、校内で生活必需品を手に入れるのは不可能に近い。水だけなら何とかなるが、食料がな……家庭科室とかに調理実習用の食材があるかもだけど、それだって量は限られる。
コンビニやスーパーなどに向かって、漁れるだけの食糧を漁っておいたほうがいい。
そしてこれは、時間との勝負だ。俺たち以外の生存者が、すでに同じことを行っていた場合、苦労してコンビニに向かっても無駄足になってしまう。
迅速に、最短で――と、言いたいところなのだが。
食糧調達と同じくらい大切な、やらなければいけないことが存在する。
「早めに学校から脱出するのはその通りだが……その前に、蒼咲のレベルアップをしなくちゃな」
「え? わたしの……レベルアップ?」
「ああ、見る限り町中に魔物がわんさかいるんだ。ある程度は戦えるようになっておいた方がいいだろ? 一緒に行動している間は、俺が守るつもりだけどさ」
「うぇあ!?」
蒼咲が奇声を上げる。なんだ、俺今、なんか変なこといったか?
パクパクと口を動かし、頬を赤くしている蒼咲を見て、俺は首を傾げる。
「どうした?」
「……先輩って、いろんな意味で心臓に悪いですよね。CERO『C』くらいはありそうです」
「誰が十五歳以下に見せられない存在だよ」
「そのくらい刺激的ってことですよ! あーもう、顔が熱い……」
パタパタと頬を冷ますように手を動かした蒼咲。
うーん、変なことを言ったつもりはないんだけどな。
レベルアップした方がいいっていうのはマジだ。そもそも、戦う気がないヤツから死んでいくのが今の世界だと思っている。
誰かの庇護下にいたとして、それで安心できるか? 暴力はより強い暴力によって淘汰されるのが常識だ。誰かに守ってもらえるからと言って、その守ってくれる誰かが絶対無敵のヒーローだなんて保障はない。
なら、生存確率を上げるために、自分自身が強くならないといけない。
全ての暴力の頂点に立てば、少なくとも力でどうこうされることは無くなる。
それに……敵は魔物だけとは限らないしな。
けど、この話に顔を赤くする要素は皆無よな? とすれば……ああ、『守ってやる』って言葉か。
思えば確かにこっぱずかしい言葉ではあるが、本心だからなぁ。
実利の面でも、感情の面でも。蒼咲を守らないという選択肢は存在しない。
【アイテムボックス】という破格のスキルに、生き残るための選択を迷いなくできる決断力の高さ。
そして何より。
「蒼咲はいいヤツだからな。守りたいって思うのは普通だろ」
「…………やっぱり、CERO『Z』ですよ、この先輩はっ!!」
おい、誰が十八禁だ。
さっきよりも顔を赤くした蒼咲の言葉に、俺は憮然とするのだった。
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