第3話 初戦闘&初魔法!
おお、これがゴブリンか。いや、【鑑定】スキルとかで確認したわけじゃないから本当にゴブリンかどうかはわかんないけど、この見た目でゴブリンじゃなかったらそれはもう詐欺だろう。
それにしても、もう屋上まで魔物が入り込んできているとは。コンクリ片がジャストミートしてわんわんおを倒せてなかったら危なかったな。マジで【幸運】だった。
さて、屋上にダイナミックエントリーしてきたゴブリンはすでに臨戦態勢。俺という獲物をどうやって殺そうかと思考を巡らせている雰囲気がひしひしと伝わって来た。
ごめん、嘘。そんな雰囲気とかよくわからんわ。なんか棍棒振り回してこっち来ようとしてるから言ってみただけである。
つーか、ゴブリン(仮)の振り回している棍棒、よく見ればすでに誰かの血が付いているじゃねぇか。
ここに来るまでにすでに誰かを殺っているというわけか。生徒か教師か知らないが、見知らぬ誰かさんよ。俺が仇を取ってやるぜ。
まぁ、ゴブリンがどれくらい強いかわかんないんで、無理そうだったら逃げるんですけどね。
大切なのはあくまで自分の命だし、ぶっちゃけ顔も知らんヤツのために義憤を燃やせるような熱血漢ではないので……。
家族や親友、恋人のために命をかけるってならわかる。その激しい感情は普通だし、むしろ人としてそうあるべき姿だと思う。
だけど、見知らぬ他人に対しては仮に悲惨な死に方をしていたとしても『へぇ、可哀想』で終わるのが普通だろう。
と、いけないいけない。敵を目の前にして悠長に考え事なんて、慢心が過ぎるな。慢心していいのはどっかの王様だけ。
俺みたいなパンピーは油断も隙もなく、目の前のヤツをどうやってブチ殺せるかだけを考えていればいい。
夕暮れに照らされた屋上でゴブリンと対峙する。互いの間には約20メートルほどの距離があった。
遮蔽物はなし。ゴブリンの身体能力は不明だが、屋上のドアを蹴破れる程度にはフィジカルがあるのだから、一般的な成人男性よりもちょい上ってところかな?
なら、数秒もなく詰められてしまう距離だ。
ゴブリンの攻撃手段は手に持った棍棒と徒手空拳と見ていいだろう。
遠距離攻撃を警戒しないわけではないが、弓やスリングショットといった道具は見当たらないし、あの見た目で口から火を噴くとかはないと思われる。
というか、なしにしてくれ。ファイアブレスなんていかにもファンタジーな攻撃手段を、ゴブリンなんかで見たくない。初見はドラゴン系統で頼む。
まぁ、んなアホな話は置いといて、ゴブリンの攻撃手段が近接オンリーというのは攻撃態勢に入っているヤツを見ればある程度分かる。
棍棒を構えて、腰を低くしてというのは突進の構えだ。あそこからテクニカルに遠距離攻撃をしてくるとかだったら、それはもう諦めるしかない。
つまり、ゴブリンは俺に近づかないと攻撃できないってわけだ。
さて、翻って俺はどうだろうか。武器はなし。防具は学校の制服。持ち物はスマホ。
どこぞの主人公みたく、家が古武術の道場をやっていたりもしないので武道経験は授業の体育のみ。近接戦闘能力は笑っちゃうくらいに低い。
だけど、その代わり――。
「近づかれたらヤバいってことはよ」
ゴブリンがぐっと脚に力を入れたのを見て、俺は手のひらをヤツに向けて突き出す。
――――ステータスを開き、その情報を頭に叩き込まれた時点で、この身に宿った特殊能力の使い方も刻まれている。
地味だなんだと言ったけど、そこは俺も男の子。
魔法が実際に使えるっていうシチュエーションに、テンションが上がらないと言ったら嘘になる。
少しだけ口角を吊り上げながら、俺はこちらに飛び掛かろうとしているゴブリンへと力を解放した。
「近づかれる前に倒せばいいってことだよなァ! 【礫牙】!」
俺が叫ぶと同時に、突き出した手のひらに身体中から熱が集まっていく。これが魔力か。スキルを使うための燃料であり、俺の身に宿った異能の力。
体外に放出された魔力は形を作り、拳大の尖った石の塊が複数生成される。
石と言う割に黒光りしたソレは見るだけで硬そうで、ぶつかればかなりのダメージになるのは想像に難くない。
そんな石塊が六つ。この魔法はスキルレベルと同じ数だけ、石弾が生み出される。
「グギャッ!?」
突っ込んで俺の頭をカチ割る気満々だったゴブリンは、突如として現れた石弾に反応が遅れている。
慌てて回避行動を取ろうとしているが……残念、すでにキルゾーンに入っている。
ゴブリンが方向を横にずらすよりも先に、浮遊していた石弾が発射される。
全力でぶん投げた時の投擲速度よりも素早く放たれた六つの弾丸の内、四発がゴブリンの矮躯に突き刺さり、ヤツを吹き飛ばした。
外れた二発はそのまま空中を突き進み、ゴブリンが入って来た屋上の入り口付近の壁に直撃。壁材を削り取りながら砕け散る。
わぁお、思ったより威力あんな。
俺に飛び掛かろうとしていたのとは真逆の結果になったゴブリンは哀れ、屋上の床材であるコンクリで全身を強打し、そのままぴくぴくと痙攣しながら動かなくなった。
《綾部玲士は[ゴブリンLv7]を倒した!》
《綾部玲士のレベルが上がった!》
《綾部玲士はLv6になった!》
《綾部玲士はSPを2獲得!》
《称号:幸運の効果で獲得SPが倍になった!》
頭に響く謎の声が、俺の勝利とゴブリンの死をお知らせしてくれる。機械的で温かみのない声だが、便利ではあるな。
この声が聞こえたってことは確実に敵を殺せたってことになるから、定番の『やったか!? → やってなかった……』みたいなお約束を封殺できる。
ま、なにはともあれ。
「完全勝利……ってな」
ぶっ倒れたゴブリンの死体を見ながら、小さく呟く。
内容だけ見ればワンサイドゲームで余裕しゃくしゃくだったけれど、やっぱり初戦闘ということで緊張していたらしい。
無駄に強張った肩から力が抜け、俺は大きく息を吐いた。
終わってみるとあっという間だったが、それでも俺が生きてきて最も濃密な数瞬だったかもしれない。
自分の意思で、生き物の命を奪った。罪悪感のような、高揚感のような、不思議な感覚が胸に湧き上がってくる。
ふと顔を上げると、太陽がすでに沈みかけていた。じきに夜が来るだろう。
なんとなく感傷に浸りながら、屋上の手すりに近づいた。
校庭を見下ろせば…………わぁお。わんわんおめっちゃ増えてない?
校庭に五十匹以上いるんじゃない? あんまりにもうじゃうじゃいるもんで、感傷なんざ吹っ飛んじまったわ。
ていうか、これ。もしかしなくても学校から出られないのでは?
校庭にあんだけいるなら、裏庭とかにも……なんて、屋上から確認できる場所を全部見れば、学校の敷地内にはわんわんおがわんさかいた。
もうわんさかである。わんさか。犬だけに。
どうやら俺は、学校に閉じ込められてしまったらしい。おそらく生徒の代わりに魔物が闊歩しているであろう学校に、これから夜になるというのに、なんなら食糧とか水とかのライフラインも怪しい状態なのに。
おいおい、なーんかハードモードになってきてんじゃない? やめてくれよ、ゲームはノーマルでしか遊ばない主義なんだ。
現実とゲームは違う? はは、正論はやめてくれ。ロジハラは人を殺すんだゾ。
「はっはっは……これから、どうしよう」
乾いた笑みを浮かべる。
俺の行く先を示すように、太陽が完全に隠れ、夕暮れが藍に染まる。
黄昏が、訪れた。
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