第4話 ゴブリン が 現れた ! ×5

「もう状況が絶望的すぎてぇ……全然動けなくてぇ……」



屋上から校舎に戻る出入口。さっきブチ殺したゴブリンによって扉を吹き飛ばされたそこで、俺は立ち往生していた。


電気もついていない校舎内は暗く、出入口の先は見通せないほどの闇が広がっている。


このまま屋上で籠城していても、俺に活路はない。


人が生きるには水と食料が必要で、今の俺はそのどちらも所有していない。


ゴブリンの死体? あんな汚い、しかも可食部分が少なそうなもん食いたいか? 


ドブ川攫ってアメリカザリガニ捕まえた方がよっぽど衛生的だぞ。


そもそも、タクティカルアドバンテージのビジョンからして、屋上というマウントポジションはなんとしても維持すべきベストなホームであるからして、わざわざデンジャラスゾーンな校舎に足を踏み入れるのは極めてワーストなチョイスなのでは……なんて、頭の悪い言葉選びで現実逃避をしている場合ではない。


屋上にとどまっていても、向かう先は餓死か魔物に殺されるかだ。


多分屍肉を漁られるので、結局の結末は魔物の餌である。


ひーん、絶対に嫌だよう。老衰で死ぬって言ってんだろうがふざけんな。


ええい、運よく異能力に目覚めて、襲ってきたゴブリンも難なく撃破して。


順調そのものだと思ったらコレだよ。なーにが【幸運】だ全力バットラックじゃねぇか。


ガシガシと頭を掻いて、なんかいい考えでも浮かばないかなぁと思ったが、そんな甘い展開がある筈もなく。


結局のところ、俺に残された選択肢は一つだけだった。



「ああもう、行くしかねぇか……。チクショウ、こうなりゃ自棄だ! ゴブリンだろうがわんわんおだろうが、かかってきやがれ! 野郎オブクラッシャーァ!!」



俺は 校舎に 入った !


ゴブリンの群れが お出ましだ !



「ぬおおおおおおおっ!! エンカウント率がクソすぎるだろおおおぉぉっ!」


「「「「「グギャーッ!!!」」」」」



校舎に一歩足を踏み入れた途端、『welcome!!』とばりに歓迎してくれたのは、廊下にたむろしていたゴブリンども。その数はなんと五匹。


屋上に向かっていたであろう奴らは、俺の姿を見るや否や、一斉に襲い掛かって来た。数の有利を遺憾なく発揮した連携攻撃。


『戦いは数だよ兄貴!』という言葉の意味をこの身で体験するとは思わなかったぜ……。


落ち着け、慌ててヘタな行動を取れば、速攻で死神とランデブーしちまう。冷静に状況を判断し、最適解を叩きだせ。


まずは、相手の行動を封じる。または行動を阻害しなくてはいけない。


先制攻撃で戦いの流れを持って行かれたら確実に不利だ。相手の出鼻を挫き、戦況をフラットな状態に戻さなくては。そのために俺が取るべき行動は……。



「コレだ! 【石垣】!」



選んだのは、【土魔法】、Lv2で覚える魔法。【石垣】。


正直、もうちょっといい名前はなかったのかと思うが、重要なのは性能だ。


魔法名を叫んだ瞬間、俺の眼前に大きめの石が幾つも降ってくる。その石は瞬く間に積み上がっていき、廊下を埋め尽くすほど大きな壁になった。


石の群れを降らし、一瞬で石垣を形成し防壁とするのがこの魔法の効果である。


さて、思いっきり飛び掛かろうとしたときに、突然遮るように壁が現れたらどうなるのか。その答えを、ゴブリンさんたちが教えてくれます。



「グギャ!?」


「グアァ!?」


「ギャンッ!」


「ブベェ!?」


「ヒギャッ!?」



はい、みんな仲良く大激突。壁の向こうからゴロゴロと床を転がるような音と、苦悶に喘ぐ声が聞こえるから、それなりにダメージがあったのだろう。


まぁ、硬い物に思いっきりぶつかったら痛いわな。


だが、ここで満足するのは愚策。せっかくゴブリンが痛みに動きを止めているんだから、このまま勢いで押し切ってしまおう。


現在、俺とゴブリンファイブとの間には【石垣】で出来た壁がある。廊下の幅、高さとほぼ同じ大きさなので、このままじゃ俺も手出しができない。


話は変わるが、この【石垣】という魔法。どうやら石と石を魔法的な力でくっつけており、その強度は使用者の『魔』のステータスで決まるらしい。


そして、この石をくっつけている魔法的な力は使用者が任意で強度を調整できる。


……なんでそんなことがわかるかって? いや、なんか魔法の使い方を意識すると、魔法の威力とか効果範囲とか性質とかが、大まかにわかるんよ。


ステータスの時と同じ機能が、スキルや魔法にも働いているとみえる。


俺は【石垣】の強度を思いっきり下げる。それこそ、今の形を維持できないほどに。すると、堅固に聳え立っていた壁がグラつき始めた。


準備完了。それじゃあ、【石垣】に向かって膝を上げて、思いっきり。



「オラァ!! 崩れやがれッ!」



ヤクザキックをぶちかます! 


【石垣】の壁は俺の蹴りの衝撃を受け、壁の形を完全に崩壊させる。


ガラガラと崩れる石の大半が、俺とは反対側に勢いよく転がっていった。


おやおや? そう言えば、そっちには丁度……。



「「「「「グギャアアアアアアアッ!!?」」」」」



ゴブリンどもがいましたねぇ! いやぁ、偶然偶然。


マサカカベノムコウニゴブリンガイルナンテー。


壁を構成していた大量の石がこんもりと山を作り、その中にゴブリンが埋め立てられている。


足とか腕とか、頭だけが出ている個体もいるが、五体ともすでに動けないようだ。


こうなってしまえば、もうコイツらは脅威でも何でもない。俺は石に埋もれたゴブリンどもに広げた手の平を翳し、振り下ろす。



「【石柱】」



天井から、勢いよく巨大な石の柱が突き出て、石の小山を直撃した。


床が抜けるんじゃないかってくらいの衝撃を生みながら、小山もろともゴブリンを押しつぶす。



《綾部玲士は[ゴブリンLv6]を倒した!》

《綾部玲士は[ゴブリンLv5]を倒した!》

《綾部玲士は[ゴブリンLv4]を倒した!》

《綾部玲士は[ゴブリンLv6]を倒した!》

《綾部玲士は[ゴブリンLv9]を倒した!》

《綾部玲士のレベルが上がった!》

《綾部玲士はLv9になった!》

《綾部玲士はSPを6獲得!》

《称号:幸運の効果で獲得SPが倍になった!》



戦闘終了を知らせるアナウンスを聞いて、わずかに強張っていた身体から力を抜く。ふぅ、と無意識に吐いた息は思いのほか大きく廊下に響いた。


複数戦も危なげなく切り抜けることができた。最初、突発的な遭遇になったことで慌ててしまったのが反省点。


人間のパフォーマンスは、精神状態に大きく左右される。常に冷静にを心掛けよう。


だが、自分の力に少し自信を持てたのはプラスだな。数の差が五倍で、俺よりもレベルの高い個体がいたにも関わらず、終わってみれば俺はまったくの無傷。


【土魔法】を上手く使えば……そうだな、十体くらいのゴブリンなら封殺できるだろう。まだ使っていない魔法もあることだし。


やっぱり、SPを全ツッパしたのは正解だったなー。


よし、今の戦闘で手に入れたSPも全部【土魔法】に突っ込んじゃえ。


ええと、今はSPが16あるから……おっ、【土魔法】がレベル8になった。新しい魔法が二つ。いやぁ、順調順調。このままカンストまでいっちゃおう。


なにはともあれ、学校から出るには魔物蔓延る校舎を抜けて、わんわんお天国と化している校庭を突破せにゃならんのだから、強くなるに越したことない。


レベルをガンガン上げて、スキルもガンガン強くして、目指せ美味しいご飯! つーか、もう夕飯の時間が近いから、けっこう腹ペコなんだよなぁ。



「クソ、意識したらマジで辛くなってきた……胃がなんか入れろってうるせぇな」



グゥグゥと鳴り始めた腹に手を当てながら、俺は校舎の外に目をやる。


すっかり日は落ちて、夜の帳が町を覆っていた。


所々で上がる火の手のせいで、静けさみたいなもんは皆無なんだけど。


こんな地獄のような状況でも、腹は減る。そんな『普通』にわずかながらの安堵を覚えつつ、俺は廊下を歩き始めた。


目の前にあった石の柱に、思いっきり額をぶつけた。




「ッッッッッた! ええい、邪魔だな【石柱】!? これって消せねぇのか……あっ、消えた。……って、うわ。ゴブリンぺっちゃんこじゃん。自分でやっといてアレだけど、汚ぇたこせんべいみてぇでグロいな。きっしょ」



なんとなく、『前途多難』の四文字が頭に浮かんだのだった。







《プロローグ終了時点の綾部玲士のステータス》

====================

名前:綾部玲士

Lv:9

能力傾向:魔寄り平均型

スキル:【土魔法Lv8】

SP:1

称号:【幸運】


使用可能魔法

【礫牙】

【石垣】

【??】

【??】

【石柱】

【??】

【??】

【??】

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