《side ???》

「早く、エリーシアを見つけ出してっ!」

目の前で地団駄を踏みながら話す、我が国の“表向きの”聖女、ミナーシャ様。ミナーシャ様のお陰で、この国の平穏は守られている…と、民は信じている。

…そんなこと、あるはずがないだろう。

金で神殿長をそそのかし、自分が真の聖女だと捏造し、王太子妃の座を手に入れた、こんなものが。

正直、関わりたくもない。こんな穢れた者が我が国の聖女など、嘘でも吐き気がする。

…しかし、これも仕事だ。

生きていくためには、必要なことなのだ。自分に嘘をついてでも、任務を遂行する。それが、闇に生きる者の宿命。我らの生きる術。

「エリーシアが居ないとっ!私の嘘が見破られてしまうでしょうっ!そしたら、王太子に…王太子に、嫌われてしまう…蔑まれてしまう…。平民には戻りたくないのよっ!あんな暮らし…うぅ…。」

「大丈夫ですよ。貴方様はお美しい方です。平民などと比べるのもおこがましい。貴方の嘘のひとつやふたつ、我らが隠し通して差し上げます。」

「でも…貴方達もいなくなってしまうかもしれない…。」

「大丈夫ですよ。我らは裏切りません。」

泣き喚く聖女に慰めの言葉を投げかけるのは、黒いドレスに身を包んだ、我らの仲間。彼女は女性の感情の機微に寄り添うことができるため、このような依頼主との話し合いの場には必須の存在である。

…一体、どこでそんな能力を身に着けたのか。

彼女はメンバーの中で一番謎多き存在だ。元平民だということしか知らない。まあ、謎を暴こうとは思わないが。我らは仕事仲間。互いの素性などに干渉する気はない。


干渉してほしくない事情を抱える者も、いるやもしれないのだから。


「ミナーシャ様、我らは貴方様への忠誠を誓っております。1度交わした、“エリーシア様を見つけ出す”というご命令を遂行しない限りは、貴方様を裏切るような真似はいたしません。この中の誰一人も。」

聖女の前にひざまずき、目を見て誓いをたてる。精霊姫の祈りの言葉は、何よりも強い誓いの言葉だ。

「大地に咲く花々にまします麗しき精霊姫様。貴方様の名のもとに、今、ここにひとつの誓いをたてましょう。」

一言に言うと、右手に水魔法、左手に草魔法を発動させる。この祈りの最中に2つを触れ合わせると…

シャンッ

…我が国特有の、「精霊姫の誓い」という小さな水の渦に草の葉と花びらが舞うという、なんとも幻想的な相殺魔法ができる。相殺魔法、というのは、異なる属性の魔法を触れ合わせた際、視覚的な魔法は残るが攻撃や癒しなど実用的な面では一切の効力を持たなくなってしまうという、俗にいう娯楽魔法だ。

この見惚れてしまうほどの魔法に、精霊姫と呼ばれる方々は実用的な効力も付与して使えるらしい。

風のように舞い、氷のようにするどく、悪人を退治する…まさに、正義の味方そのものだ。精霊姫様の戦う場面は、さぞきれいだったのだろう。


ああ、こんな偽聖女じゃなくて、本物の聖女様の…エリーシア様の聖魔法が見たい…

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