第8話

「そんな子いたかしら…。森の、どのあたり?」

「…わかんない…」

わ、わからない…。それはなんとも…。

「えっと…森に住んでることはわかるのよね?」

「うん…おともだちだから。」

「家、どのあたりかも教えてもらってないの?」

「ううん、遊びに行ったことあるよ。」

じゃあなんでわかんないのかなあー!!!

すると、それまで黙っていたメリが口を開いた。

「あのこは、わたしたちが住んでるこの辺りとは別のとこに住んでるの。」

「そう!だから、森が広がるたびに家の場所が変わっちゃうの…」

それ詰んでない?だって、探せば探すほど場所変わるんでしょ?詰んでるじゃん。

すると、後ろから声がした。

「そういうことでしたら、ここにその子を連れてきてもらいましょうか?」

そんな突拍子もないことを言ったのはバル。

「え…、え…?どういうこと?」

「大守護聖獣の私と、大精霊のオミ様の願いなら、森林はなんでも聞いてくれます。そうでしょう?カレイド様。」

(うむ、いかにも。…して、何が望みじゃ)

「ここにいるエリーシア様の前に、森林に住まう精霊を連れてきてほしいのです。」

「私からもおねがーい。」

いつの間にか出てきていたオミも言う。

(ほう。そのエリー…?とかいう奴は何者なのじゃ。)

「私は精霊姫です。いろいろありまして、今はこの森にいます。」

(精霊姫か…よかろう、連れてきてやろう)


トンッ


「う…」

瞬きをした瞬間に、そこにはかわいい女の子が座っていた。

「な、なに…ここはどこ…?なんで…?」

「えーと、急に呼び出しちゃってごめんね。私はエリーシア。精霊姫だよ。」

その瞬間、女の子の目が大きく見開かれる。

「え…せいれいひめさま?ど、どうされたのでしょうか…。」

「じつはかくかくしかじかで…」

私はその子に、マリとメリが旅立つことを話した。

「ということなんだけど、一緒に来ない?」

「ここにいたらひとりだよ!」

「いっしょにいこうよ!」

マリとメリも一緒に来てほしいみたいだ。

「えと…はい…行きたいです…」

「「ほんと!?やったあ!」」

「わかったわ。なにか荷物はいいの?」

「あ…大切なものがいくつかあるので、それを持ってきたいんですけど…」

女の子は周りを見回すと、

「ここがどこかわからないので、おうちに帰れそうにはないですね…。」

…かわいそう!とっても!

「カレイド様、おうちも持ってきてもらうわけには…」

(よかろう、どの家かな?)

「あ、えと…。桜の木の…。」

(ああ、あのかわいらしい家か。桜は珍しくて、この国には一本しかないからわかりやすいわい。ほれ。)


ポン!


「あ…私の家…よかった…」

ほっとしたように笑うこの子はとってもかわいい。

しばらく待っていると、両手に二つ、荷物を抱えて出てきた。

「お待たせしてすみません。」

「全然大丈夫よ。ていうか、あなた…名前ってあるかしら?」

「名前…ですか?」

「ええ。名前がないと、わかりにくいから。」

「とくにないです…。エリーシア様のお好きにお呼びください…。」

やっぱり私が名付けるのね…。えっと…。

考えていると、この子が住んでいた家が目に入った。桜の木の中に埋まる、白い木の小屋。控えめに言って超かわいい。

「じゃあ、あなたは…サクラ、でどうかしら?」

「サクラ…素敵です。ありがとうございます。」

「よし!じゃあサクラ、行こっか。…歩く?それとも、指輪入る?」

「指輪…?」

「あ、私と一緒にいるミーラたちは、みんな指輪の中で暮らしてるんだよ!なんか、新しい子が来たら部屋も増えるらしいし…一度入ったら?」

「じゃあ、荷ほどきもかねて、一度指輪のほうに入らせていただこうと思います…。」

「了解!どうぞー。」

サクラが指輪に消えたのを見届けて、私は歩き出した。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る