追放された聖女は、田舎でスローライフを満喫する。 【PV6000ありがとう】

風花こおり

第1話

「エリーシア・シャイレッタ、お前は本当の聖女ではない!」

「…は?」

ビシッと効果音のつく勢いで私を指さし、勝ち誇ったように言う目の前の男は、このアルネッタ王国の王子、タミナ・アルネッタだ。

「お前はただの平民の身でありながら、権力欲しさに聖女を騙り、俺の婚約者の座を手にしたな!」

平民…?権力…?

…いろいろとツッコミどころが多いわね。

私はエリーシア。シャイレッタ侯爵家の長女であり、王国で最も強力とすら言われる聖力を持っている。聖力とは、魔法を使うときに欠かせない力である。普通の人は、魔法を使うときは「ミーラ」という聖力を生み出す精霊のような存在から力を分け与えてもらい、その力で簡単な五級魔法を使う。主に回復魔法などの、サポート系だ。しかし、まれに生まれる聖女は、そのミーラを無限に生み出し、使役することができる。ちなみに私は「千年に一度の精霊姫」らしく、5歳…だったかな?そのあたりですでに100ほどのミーラを使役していた。まあ。当時自覚はなく、友達感覚でミーラを使役し、大家族おままごとをやっていた。…百人って、家族ってレベルじゃないでしょ。まあ、そんなこんなで幼少期はのんびり遊んですごしていたところ、いろいろあって聖女となり、好きでもない浮気性の王子と婚約させられ、そうこうしてる間に仕事が増え、いつのまにか王子の仕事までやって、でも国民をおろそかにはできないから各地の教会を周って無償治癒をし、さっきやっと帰ってきたところで、ヘトヘト。なのにこいつは…

「…つまり、お前のような冷たい噓つきの人間を王女にするのは国としても恥であり、外交にも害が及ぶ可能性がある。それに、俺は真実の愛を見つけたのだ。」

…真実の愛?…まさか

「おいで、ミナーシャ。」

「はあい♡タミナ様♡」

…ミナーシャ・シャイレッタ。私の妹。私の母の死と、それに伴う父の再婚によってできた。もともと父と母の間に愛はなく、貴族どうしの政略結婚だったと聞いている。母の死をこれ幸いと受け取った父は、私が15歳の時、もともと愛し合っていたミナーシャの母親と再婚した。…再婚後、母似だった私は家族から虐げられていたため、ミーラに手伝ってもらって逃げだし、神殿の近くで途方に暮れていたところを神殿の孤児院に保護され、「え、こいつ、聖力強っ。」ってな感じで聖女になった感じである。私はミナーシャから、いつも奪われてきた。服、食べ物、文房具、家、家族、愛。ぜんぶぜんぶ、ミナーシャがとっていった。お母さまからもらった宝石も、ドレスも、かわいいものは全部ミナーシャがとって、私は時代遅れの古いものばかり。

「タミナ様。それはつまり、私はこの国から追放、あなたはミナーシャと結婚、ついでに私は偽聖女ということですか?」

「いや、もうひとつある。…ミナーシャ、この子こそが聖女だ!」

「はあ?」

ミナーシャが、聖女?聖力のかけらも感じたことのないこの子が?そんなわけないじゃない。王子も聖女鑑定係の神殿も、ついている目は偽物なのかしら?…ああ、神殿は大丈夫みたいね。だって、あんなにも気まずそうな顔で、こちらに何度も目くばせしているもの。きっと上を買収したのね。かわいそうに。何人か顔見知りもいるわ。神殿の神官たちはいい人ばかりだもの。まあ、神殿長はすぐ金につられるクズだけど。ほんと、なんであの人が神殿長なんかやってるのかしら。

「…聞いているか?お前は即刻、俺の婚約者と聖女の座をミナーシャに明け渡すのだ!」

…これは、生まれて初めてミナーシャに感謝しないといけないようですね。こんなクズ男から逃げられるなんて、ミナーシャもたまには人助けをするのですね、お姉ちゃんは感動です…。

「わかりました。」

「ちなみに、国外追放はかわいそうだというミナーシャの慈悲から、お前をミナーシャつきの侍女にするという提案が出ているぞ。もちろん受け…」

「断固拒否いたします。どうか、私を国外追放してくださいませ。」

一生ミナーシャの奴隷なんて、やってられないわ。国外でミーラと一緒に自由に生きたほうがよっぽど楽しい。

「お前、ミナーシャの慈悲を無下に…!この、今すぐに出ていけ!偽聖女め!」

「そうだぞ、エリーシア。せっかく慈悲深いミナーシャがああ言ったのに。もうお前とは、侯爵家は縁を切るからな。」

「…そうですか、お父様。今まで育ててくださってありがとうございました。ミナーシャ、お父様とこの国を、よろしくね。」

「ふん。あんたに言われなくたって。」

「そう。では、ごきげんよう。さようなら、みなさん。」

悲しそうな神官たちと、不思議そうな貴族、私が出ていくことへの喜びを隠せず、笑顔のお父様とミナーシャ。

…私はここでは、いいえ、この世界のどこでも、愛されないのね。


さようなら、私の好きだったアルネッタ王国。

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