第7話: 聖女は形から(装備:女神像……の予定)

※暴力描写あり、注意要

 いよいよ聖女要素第二弾です



――――――――――――――――――――――




 ──走って追いかけていたのだが、町に来てから日が浅いせいで、普通に迷った。



 これが町の外、森の中とかだったら明らかに臭いが違うので、それを辿って追いかける事が可能だが、町中だとそうはいかなかった。


 自然の中も相応に様々な臭いがあるわけだが、やはり、人の生活圏に比べて明らかに臭いの種類が少ないので、そもそも比べるのが間違いだが……で、だ。


 そうしてウロチョロしているうちにようやく教会を見付けたわけなのだが、その時にはもう、ポッチャリ神官はいなかった。



 ……先に、結論を述べておこう。



 どうやら、ポッチャリは、一部の護衛の者たちを引き連れて本部(?)みたいな場所へ向かったらしい。



 理由は、正式に彼女を『神敵』として認定するためらしい。



 なんのこっちゃという話だが、詳しく話を聞くと、『神敵』として認定されると、この世界に邪悪をもたらす存在として扱われるようになるらしい。


 現代の言葉で言い直すならば、あらゆる人権が剥奪されるだけでなく、その者に対するあらゆる迫害を善行としてカウントされるようになる。


 つまり、何をどうされようが(それこそ、殺されようが)誰も助けず、むしろ、如何なる方法でも痛めつけるのが正義……と、教会が太鼓判を押す。


 それが、『神敵認定』……というわけなのだが。



「ごめんなさい! ごめんなさい! ごめ──おあびょ」


「やめて許して折れる折れるヤメテ許し──げぇべ」


「ち、違う! 俺は命令されただけで、何も──ぶぁ」



 神敵だろうが何だろうが、彼女は襲い掛かって来た相手の命乞いに耳を貸すことなくトドメを差した。


 武器を構えて立ちはだかるばかりか、攻撃してきた時点で……彼女にとっては、如何なる理由があろうと仕留める対象である。



 ……いちおう弁明しておくが、彼女の方からは攻撃などしていない。



 最初、彼女は困惑した。


 どうしてかって、逃げたポッチャリの行方を探る為に教会に来ただけで、ポッチャリ以外とは戦うつもりなどなかったからだ。


 つまり、ポッチャリ以外は教会という群れに属している部外者であり、何もしてこないのであれば、放っておけばよい……その程度の認識であった。


 なので、ポッチャリの居場所さえ教えてくれるならば、それで良かった……のだが。



 ──どういうわけか、待ち構えていた騎士たちは誰一人彼女の言い分に耳を貸さなかった。



 それどころか、まるで彼女を強盗か何かのように罵倒すると、一斉に剣を抜いたのだ。これには、彼女も驚いた。


 居場所が分からないのであれば、自室等を調べるだけだし、本当に危害を加えるつもりはなかった。



 ……なのに、騎士たちは問答無用と言わんばかりに襲い掛かって来たのだ。



 こうなってしまえば、戦うほかない。


 ポッチャリから命令されているのか、それとも、別の理由があるのか……それは定かではないが、襲い掛かって来た以上は情けを掛けるつもりはなかった。



 その結果──騎士たちは、彼女の手で順当に殺されていった。



 一般人を相手にしていたのならばまだしも、彼女は違う。


 実際、彼女の感覚で見れば……御馳走と称している空飛ぶ蜥蜴(羽根付き)に比べたら、か弱過ぎて話にならない……である。


 1人1人確実に頭を握りつぶし、拳で骨や内臓を粉砕し、逃げようとした者へは仕留めたやつを投げつけて足止めして……まあ、残すようなことはしなかった。


 先程も述べたが、途中で何度も命乞いをされたけれども、そんなのは彼女に対しては無意味であった。



 何故なら、騎士たちは己を……彼女を殺そうとしたからだ。



 ただ、近づかせないように剣を構えただけならば、ギリギリセーフ。戦わない為に威嚇をして、争いを避けるのはよくあることだ。


 だが、牙を突き立て、爪で引き裂こうとした時点でアウトだ。


 脅しだろうが何だろうが、相手を殺せる武器を構えて向かってきた。そこに、絶望的な力の差があったとしても、そんなのは関係ない。


 教会の中へと押し入った彼女は、そのまましらみつぶしに中を見回る。


 もちろん、その途中でも駐在していたっぽい騎士たちと何度か遭遇したが、1人も残さず全員殴り殺し、締め殺し、蹴り殺し……ものの20分と経たないうちに、騎士と鉢合わせすることがなくなった。



 ……で、だ。



 いくつかある部屋の中でも一番豪奢な部屋へと入った彼女は……待ち構えていた魔法使いたちより、攻撃を受けた。


 どういう攻撃かって、それは……まあ、アレだ。


 ファイアーとか、アイスニードルとか、そういうファンタジーでは御馴染みの、誰が見ても一目で『おっ、魔法じゃん!!』っと目を輝かせてしまうような、アレだ。


 それを、彼女は真正面から受けた。


 その瞬間、待ち構えていた魔法使いたち(ポッチャリとは別の神官も混じっていた)は、満面の笑みを浮かべた。


 まあ、そうなるのも当然である。


 なにせ、放たれたファイアーは扉を瞬時に炭化させるほどの高音であり、アイスニードルも壁に大穴を開けるほどの貫通力があり……その二つを、まともに直撃させたのだ。


 常識的に考えて、『やったか!? (確信)』みたいに浮かれるのは当たり前であった。



 ……。



 ……。



 …………だが、しかし。



 魔法使いたちは、見誤っていた。


 彼女は確かに人間だが、彼女を標準的な人間と同じレベルで考えてはならない。


 なにせ、彼女はそれこそ、古来より伝わり続けている、人々の恐怖の化身である『ドラゴン』すら捕食してしまう人間なのだ。


 そんな人間に、対人間(あるいは、一部のモンスター)を想定した攻撃魔法など、通じるのだろうか? 



「──ガァアア!!!!」



 その答えは……叩きつけられた炎を物ともせず、直撃した氷の氷柱が逆に砕けながら……一瞬にして眼前に迫って来た、彼女の拳であった。



「え?」



 まず、1人目。


 炎を放った妙齢の女は、『え?』という言葉を最後に、首から上が床に落とされたスイカのように弾け……いや、砕かれた。



「──っ」



 次に、初老の男。


 そいつに至っては、遺言すら残せなかった。


 傍の女の頭が砕かれた事を理解し、目を見開いた──瞬間、真横から迫る裏拳によって壁に叩きつけられ──そのまま絶命した。



「──ひ、ぃ」



 そして、最後の一人……おそらく、神官。


 そいつは、なんというかゴテゴテとした格好をしていた。たぶん、偉い役職なのだろうと彼女は思った。


 けれども、そんなのは彼女にとっては意味がない。


 指一本動かせず、声一つまともに発せなくなった男の顔面を両手で掴み──ギリギリと力を入れれば、ピキッと男の頭が軋む音がした。



「か、神よ、お助けください!!」



 直後、男は……彼女の背後にてフワフワと宙を漂っている少女天使へと助けを求めた。



『……都合の良い時にだけ助けを求める者を、どうして神が助けようと思うのか』



 けれども、天使は無情にも首を横に振った。



『神は見守る者、寄り添う者、待ち続ける者。悔い改めた先に居る者……貴方は、貴方の都合の良い神に縋りなさい』

「そ、そんな……神よ、私を見捨てるのですか!?」

『初めから神を蔑ろにしている貴方が、よくもまあ……』



 なにやら、言い合いを始める男と天使。



 ──フラさん、なんかちょっと怒っているっぽいなあ。



 そう思いつつも、このままダラダラと喧嘩するのを眺めるのは嫌だなあ……と判断した彼女は、指に力を入れ始め……途端、青色を通り越して真っ白になった男は、急に饒舌になった。



 ……後はまあ、よくある流れだ。



 どうやら、真の意味で己の状況を理解したその男は、それはもう、聞いてもいないのにペラペラとポッチャリ神官の事を話し始めた。



 曰く、アイツは神官の立場を悪用して様々な悪事に手を染めている。


 曰く、アイツに弱みを握られている者が多く、誰も手出し出来ていない。


 曰く、上とも繋がりがあるらしく、のらりくらりと監視の目をかわしてきた、とか。



 正直、そんな事よりもポッチャリの居場所を知りたかった。


 だが、あまりに必死な形相で話し続けるので……結局、最後になってようやくポッチャリの居場所を教えてくれるまで、しばらくそのままだった。



「どうした? リーゲル、来ない?」



 で、だ。



「……いや、バレているのに迂闊に接近する馬鹿はいないだろ」

「??? 近づく、私、殺せない」

「俺だって自分の命は惜しいんだけど? そんな不思議そうな顔されても近付かねえからな、死にたくねえんだよ、こっちはよ!」



 そうしてペラペラと男が話し続けている最中……当然ながら、彼女は気付いていた。


 己の背後に居る者たち。正確には、教会の中に入って来た冒険者……というか、衛兵と思われる者たちの気配に。


 その中で、焦げた扉(今は、枠しかないけど)よりそーっと顔を覗かせていたリーゲルの姿に、彼女は首を傾げた。



 ……まあ、リーゲルの言い分はもっともだろう。



 噂もそうだが、オーガを単身でなぶり殺しにするような女だ。


 しかも、痕跡から推測した限りだが、魔法の直撃を受けても服が焦げ、痕がわずかに残るだけで、ほぼほぼ無傷なスッポンポン女を……誰が、相手にしたいと思うだろうか。



 少なくとも、リーゲルは御免こうむると思った。



 いや、リーゲルだけでなく、現場に居る誰もが、御免こうむると本気で思って……そっと、視線を逸らした。



「あ~、その、今さらこんな事を聞くのもなんだが……おまえさん、自分が何をしているかは分かっているよな?」

「分かる、町は出る」

「そうか、とはいえ、俺たちとしても、はいそうですかとおまえさんを通すわけにはいかないのだが……」

「ならば、戦う」



 そう告げた瞬間、ゴキリ、と。


 掴んだままの男の頭が割れ、絶命した。「あっ、おまっ……」それを見て、いよいよリーゲルは顔色を青ざめたが……だが、構わない。



「ここで死ぬ、わたし、弱いだけ。わたし、悪い、弱いから」



 ダン、と床を踏みこめば、少しばかり陥没した。



「だから、戦う。死ぬまで、戦う。どちらが餌、決める!!」



 怒りを込めて傍のテーブルを叩けば、テーブルは二つに分かれて砕けた。破片が飛び散り、シーンと静まり返ってしまった。



「……あ~、その、これは提案なんだが……いちおう、聞いておく必要があってな……その、降伏は、しないよな?」



 なので、嫌々……本当に嫌そうな顔をしていたが、この場で一番地位の高いリーゲルが代表する形で、交渉を持ちかけてきた。


 当然ながら、彼女はそれに対してNoと拒否した。


 既に、男は己に対して攻撃をした。攻撃するという事は、逆に攻撃されてもよいということ。


 やるのは良いが、やられるのは御免こうむる……そんな都合の良い話は通らない。というか、通るのだとしても、彼女はソレを通すつもりは全くなかった。



「……それじゃあ、俺たち含めて町の者を襲わないなら、町の外に出ても追いかけない……それを呑んでくれるか?」

「リーゲルさん、いいんすか!?」



 リーゲルのその提案に、一緒に来ていた者たちが困惑の声をあげた。


 まあ、そんな反応を示すのも当然だろう。


 なにせ、リーゲルの提案は、教会に押し入った凶悪犯を事実上見逃す代わりに、自分たちには危害を加えるなと言っているも同じだからだ。


 常識的に考えて、リーゲルのやろうとしていることは凶悪犯の逃亡に協力しているも同然であり、『それはマズイのでは?』と声が上がるのも当然であった。



「いや、だってよ……おまえら、アイツと真正面からやり合って生き残れる自信あるか?」



 けれども、この場で一番の実力者であるリーゲルより、真顔でそんなことを尋ねられた誰も彼もが……無言のままに視線を逸らした。



「おまけに、アイツには天使様まで付いているんだぞ……俺は金を積まれたって嫌だぞ」



 続けられた追撃の言葉に、誰もが視線どころか沈黙を持って答えた。



 ……そう、そうなのだ。



 これがモンスター相手ならば、リーゲルたちも命がけで挑んだだろう。自分たちの大切な者たちを守るためにも、決死の覚悟を固めていただろう。


 だが、今回は……モンスターじゃなくて、教会だ。


 それも、教会側からちょっかいを掛けた。


 ぶっちゃけ、神の教えとやらは知っているし、多少なり信心はあっても、教会のために命を捨てるつもりは欠片もなかった。


 加えて、事の発端はポッチャリ神官。


 襲撃を掛けた彼女は知る由も無いことなのだが、実はポッチャリ神官……かなり評判が悪い。


 致命的な話こそ露見してはいないが、色々ときな臭い話はある。あくまでも噂だが、お偉方と密接な関係があるとかで、もみ消しているというのも。


 同様に、そんなポッチャリ神官に追従する騎士たちもだいたい評判が悪い。


 事あるごとに『俺たちに手を出したら、教会が黙っていないぞ?』


 といった感じで言外の脅しを掛けてくるのは日常茶飯事……そりゃあ、ヤル気が出ないのも当たり前である。



「──で? 条件は呑んでくれるのかい?」

「かまわない、来ない、何もしない」

「よし、交渉成立。おまえらも聞いたな? 余計なことして殺されても、名誉も金も与えられないからな、何もするなよ」

「……ういーっす!!!」



 そして、この場に居る者たちの誰もが、リーゲルと同じ感覚だったので……リーゲルよりそう宣言をされてしまえばもう、誰もがほうっと気を抜いたのであった。



 ……。



 ……。



 …………とまあ、そんな感じで仄暗い契約が成された後。



『……あの、さすがにそんな恰好で外に出るつもりではありませんよね?』



 そんな発言が、呆れた様子の天使の口から出たのを受けて。



「それは……そうだな」



 子供の目もあるし、素直に忠告を聞きいれた彼女は、ひとまず、己が着ることが可能な服を探すことにした。


 いくらそういう感覚が薄いとはいえ、さすがに、自らの裸体が子供にとって刺激が強いことぐらいは理解していた。



 ……ちなみに、だ。



 実のところ、リーゲルたちもチラ見(一部、ギラギラとした目で)しつつ。




 ──マジでコイツ、デカい点を除けばすげぇ身体しているんだよなあ……。




 と、こっそり思われていたが、彼女は裸で生きてきた年月も相応に長いし、人生2度目な分だけ今さら裸がどうしたっていう感覚なので、羞恥心などは感じていなかった。


 まあ、この町の人間を『ドワーフの類』と思っている部分があるのも理由の一つだが……それもまあ、この町の人達にとっては知る由も無いことである。



 とりあえず、服だ。



 スッポンポンのまま追いかけても良いのだが、それは最終手段。


 最悪、大きな布の束でもよいから肌を隠せるモノはないかと、彼女を先頭にゾロゾロと教会内を歩き回っていた……その時。



「……声か? 気配、感じる」



 唐突に、彼女は足を止めた。


 足を止めた場所は、教会の奥深く……普段は祭事の時ぐらいにしか使われない神具などを安置しておく、物置部屋の前だった。


 そして、止めた理由は発言のとおりだが、「……声?」彼女を除いた誰もが首を傾げ、何かの聞き間違いではと思った。



 だが……彼女だけは、聞き間違いではないと断言して一方的に物置部屋の中へと入る。



 その際、扉に掛けられていた厳重な鍵が、まるで飴細工のようにポキンと音を立てて折れ曲がったが……気に留める者は誰も居なかった。


 そうして、入った物置部屋は……続けて入ったリーゲルの説明通り、日常生活では使わないような物が、上から埃よけのシーツが被せられた状態で所狭しに置かれていた。



「あ~、いちおう言っておくが、そこに置いてあるやつもあまり壊さないでくれよ」

「なぜ?」

「壊すと、新しく作るために追加で金をお偉方から要求されるから」

「そうか、わかった」



 キョロキョロ、と。


 室内を見回しつつ、彼女は奥へと進む。


 まあ、奥といっても部屋自体がそこまで大きいわけじゃないので、すぐにシーツが被せられた神具……リーゲル曰く、『女神像』の前に来るわけだが。



 ……しばし、女神像の前で立っていた彼女は……唐突に、シーツごと女神像を持ち上げて動かした。



 いちおう先に述べておくが、女神像は台座を除いても2m強ある。離れていても見えるよう、若干大きめに作られている。


 当然ながら、重さも相当である。なにせ、『女神像』の材質は石であり、重さは軽く見積もっても1~2000kgは有るだろう。


 それを軽々と持ち上げる筋力に目を見張るべきか、そんなヤツの相手を交渉で避けたリーゲルの手腕を褒め称えるべきか、些か迷うところだが……っと。



「……ここ、下がある」

「え?」



 その言葉に、リーゲルたちが困惑するのを他所に、彼女は。



「──ふん!!」



 拳を床に打ち込み、そのままグイッと持ち上げれば……外された分厚い床の下より、地下へと続く階段が露わになった。



「こ、これは!?」



 それを見て、リーゲルたちが一斉に騒ぎ出す。


 なにやら、噂がどうとか話し合っているが……正直、噂ってなんのこっちゃという感覚でしかない彼女からすれば、どうでもよいことであった。



「この先、服、ある?」



 なので、たった今欲しいと思っている物がそこにあるのかだけ、彼女はリーゲルたちに尋ねたのであった。






 ……。



 ……。



 …………結論から言おう。地下に、彼女が着られる服などなかったらしい。



 顔を真っ赤にして、地下へと駆け下りていったリーゲルたちの剣幕に気圧された彼女は、なんだか部外者っぽい気がしたので、その場で待機すること15分。


 怒髪天を突いていると言わんばかりに怒りを露わにしているリーゲルたちの剣幕に、おおっと思わず一歩引いた彼女は……続けられた彼らの話を聞いて、納得した。



 地下に有ったのは……ありきたりな言葉で言えば、悪行の数々であった。



 牢に閉じ込められた若い男と女(明らかに、初潮前、精通前の子もいたとか)は裸のままで、その身体は例外なく擦り傷だらけ。


 特有の臭いもそうだが、明らかに、そういう行為をするための部屋があって、そういう目的のための道具が置かれていて、その部屋には行為を終えたまま放置されている女がいた。


 地下はどうやら教会の外に繋がっていて、その行き先は教会から少しばかり離れた場所にある一軒家……その家は、教会が保有している建物であった。


 ちなみに、その家へと続いている地下の通路の途中に、違法薬物を始めとして、流通が禁じられている違法な物がゴロゴロと……まあ、つまりは、だ。



「教会のクソッタレ! なにが善行を積み重ねろ、だ! てめえらの方が極悪人じゃねえか!!!!」



 教会が隠してきた悪事を目にしたリーゲルたちは、そりゃあもう義憤に駆られて凄まじい形相になっていた。


 こうなるともう、彼女は完全に部外者である。


 なにせ、彼女はこの町に来てから一ヶ月と経っていないのだ。暗部とも言える部分を見たとしても、『うへぇ』と顔をしかめるだけであった。



 ……とはいえ、だ。



 そうなると困るのは、服が探せなくなった彼女である。


 だって、誰も彼もが地下と地上を行き来しており、医者を呼べだの何だの大忙し、みんな頭に血が上っているせいで、裸のまま突っ立っている彼女に目をくれる者すらいない。


 他の場所を探そうにも、『他にも隠し部屋があるかもしれない!』といった感じで大勢の人達が右に左にと出入りしており、なんだか話しかけられる雰囲気じゃない。



「……フラさん、どうする?」

『フラさん違います、天使です』



 とりあえず、どうしたものかと思って傍の天使に話しかければ、天使は即座に否定した後で……チラリと、傍の『天使像』を見やった。



『……ソレを着ればいいんじゃないですか?』



 ソレ、と指差したのは、『天使像』に着せられていた……修道服である。


 ちなみに、石像に被せられていたシーツは、地下の人達の身体を隠すのに使われている。


 で、どうして石像に服が着せられているのかといえば、だ。


 さすがに黙って使うわけにもいかないので、傍を通りかかった男を無理やり引きずり込み、説明を求め……そうして、簡潔にまとめると、だ。



 ──どうも、かなり前のことで……この天使像が作られた時にこの町に居た、とある神官のせいであるらしい。



 真偽は不明だが、この神官……相当に熱心な教徒だったらしく、従来の女神像では足りぬと常々周囲に愚痴を零していたらしく。


 ついには、自費にて従来よりも一回り大きな『女神像』を制作するばかりか、その像に合わせた服まで自費で特注したらしいのだ。


 つまり、服を着せられるようにとわざわざ裸婦像にしたうえで、その像のサイズに合わせた衣服というのだから、いかに熱狂的だったかが窺い知れるだろう。


 ただ、サイズこそ大き過ぎるものの、使われている衣服の生地が上質なこともあって、一部切り取られてしまう事件が多発し……いつしか、外に出される事はなくなったのだとか。



『とりあえず、服の弁償替わりに使えばよろしいかと』

「いいの?」



 せっかくだしと、説明してくれた男にも聞けば、「別に、いいんじゃないっすか?」と軽い感じでOKが出た。



『燃やしたのは教会の者ですし、因果応報というやつでしょう』



 そこまで言われてしまえば、拒否するのも変な話かと思った彼女は、促されるがまま『女神像』の修道服を手に取った。



 ……。



 ……。



 …………そうして、約15分後。




『……これ、許されるんでしょうかね?』




 なんとか着替え終えた彼女を改めて確認した天使は……修道服によって醸し出されたソレを前に、思わず頬を引き吊らせていた。


 なんだかデジャヴュな感想だが、あえて言おう。



 具体的には……エロいのだ。



 2m強の石像に合わせて作られた修道服のおかげか、ちょっとばかり小さくはあるが、これまで彼女が着ていた衣服の中では一番体形に合っている。


 そう、合っているのだ。言い換えれば、身体のラインを無理やり抑え付けるような状態ではなくなっているというわけで。



 ……ぶっちゃけると、逆に強調されてしまっている。



 どこがって、それはお胸の辺りが、だ。


 腰回りの細さに比べて明らかにデカいせいで、バーンと前に張り出ている。肌の露出面積はこれまでで最少な分だけ、余計であった。


 そう、ある意味、隠されている分だけ余計に酷くなっていた。


 手首まできっちり袖があるし、スカート部分は脛の辺りまである。背丈さえ除けば、ちゃんと修行中の女性に見えるだろう。


 けれども、それでも、子供の頭よりも大きいかもしれない双子山や、遠目にも分かるぐらいに肉付きの良さを想起させる、スカートに浮き出た尻の形を前にすれば、だ。


 本当に神官なのかなと大半の男性はちょっと視線が釘付けにされていた……それぐらいのインパクトが、そこにあった。



『許されると思います?』

「よく分からないっすけど、天罰が下っていないのならば許されるんじゃないっすかね?」

『……う~ん、ギリセーフ?』

「娼館でこのレベルが出て来たら大当たりなんて話じゃないっすね」

『それはアウトなので、少しばかり慎んだ方が良いでしょう』

「うっす、気を付けるっす!」



 何一つセクシーな恰好ではないが、見た目が色気の暴力な部分がある彼女を前に、天使と男がコソコソと感想を述べ合っている最中。



「……これ、いい」



 上質な生地のおかげか、意外な着心地の良さに笑顔になっている彼女は……棍棒替わりになるかなと、『女神像』を眺めていた。




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