身長も胸もケツも太ももだって太いのに要所が細いTS聖女の日給15万円暮らし(なお、蛮族)

葛城2号

プロローグ

 ※ こういうのが好きなんです、はい

 ※ 聖女要素はまだない



――――――――――――――




 ──いくら何でも手を抜き過ぎじゃないのか? 



 そう思ったのは、暗闇の中。直感的に、『あっ、ここってもしかして死後の世界?』と思って3分後であった。


 ……まあ、あまりに唐突なのでちょっと時間を戻そう。


 まず、彼がフッと目覚めた時、世界は真っ暗だった。兎にも角にも真っ暗で、正直自分が立っているのかすら分からなかった。



『……俺、転んで頭をぶつけたんだ』



 けれども、分かる事はある。


 それは、己が死んだということ。


 夢でも何でもなく、非常に痛い思いをしたからこそ余計に……というか、どうしてか、はっきりとソレが事実である事を受け入れていた。


 まあ、アレだ。本当に痛かったし。死因が、バナナに足を滑らせて死ぬという冗談のようなアレだけれども。


 なんというか、バキンって頭の骨が折れる音を聞いたのだ。あの瞬間、彼は理解した。



 あ、これ死ぬ、と。



 そこから、出ちゃいけないナニカが出た感覚の後──スーッと意識が遠のいたのを覚えて──っと? 



『──お待たせ、私が神様です』



 唐突に……暗闇の向こうから現れた光の玉が、彼の眼前にて静止した。


 それは何だと思う前に、光の玉はいきなりそんな事を言ってきた。意外とダンディーな声色に、ちょっと面食らう。



 ……ていうか、神様? 



 そうなると、ここは死後の世界か……そう思っていると、『そういうのはいいから、はよう決めて!』なにやら怒られた。


 決めてと言われても、何を決めろというのだろうか。



『成りたい自分とか、色々だよ。ほら、時間押しているんだから、あと30秒以内に決めないと、ダンゴ虫だよ』



 そんな不服そうな感情が顔に出たのか、自称神様のライトボールは情報を追加してくれた。



 ──いや、ていうか、30秒って。



 本当に何がなんやらという気持ちだったが、とりあえず、30秒なので……そうだな。



 ──背が高くて、スタイル抜群で。


『背が高くて、スタイル抜群で』


 ──顔も良くて、なんかモテるフェロモン出してて


『顔も良くて、なんかモテるフェロモン出してて』 


 ──超人みたいな身体能力持ってて、なんか強そうで、病気とかにはならなくて


『超人みたいな身体能力持ってて、なんか強そうで、病気とかにはならなくて』


 ──後はまあ、周囲に敵対心を抱かせないような見た目で。


『周囲に敵対心を抱かせないような見た目──はい、時間切れです』


 ──え? 



 30秒は冗談かと思っていたが、冗談ではなかったようだ。



 ──いや、あの、手早いというか、これはもう手抜きってレベルでは


『それじゃあ、来世で頑張ってね』


 ──え、あの、ちょ



 他にも色々言いたい事はあったが、ライトボールは一方的に話を打ち切ると、カッと目も眩むような光を発し──。




 …………。


 ……。


 ……。


 ……。


 ……。


 …………そうして、次に彼が自分というものを思い出した時……彼は、いや、彼は彼女になっていた。




 ──いや、なんでやねん。



 フッと、唐突に前世の記憶を思い出した彼女が、思わずここにはいないライトボール(自称神様)にツッコミを入れたのは、約4歳になった頃ぐらいである。



 思い出した瞬間、特に何かしらの異常が現れることはなかった。



 熱は出なかったし、前世の記憶が邪魔してチグハグな感じになることもなかったし、『女の子になってるぅぅぅ!!!!』みたいな動揺もなかった。


 なんというか、上手い具合に混ざったのだろう。感覚としては、『前世は男だったよ』と軽く言える感じ、だろうか。


 さすがに、ボッと突風が吹きつけられるかのような記憶の走馬灯が走った時は、ちょっと立ちくらみを覚えたが……まあ、それだけであった。



 ……そんな事よりも、だ。正直に言おう。



 怒りとか悲しみなんかよりも最初に彼女が覚えたのは、困惑。


 その次に覚えたのは……己の境遇というか、環境を冷静に顧みたから分かる……詰み具合であった。



 いったいどういうことか? 



 それはひとえに、生まれ変わったこの世界が、いわゆる『ファンタジー世界』である事から説明しよう。


 まず、彼女が生まれ変わった世界は、剣と魔法が日常生活にて当たり前のように出て来る中世ファンタジー世界である。



 しかも、ほのぼの系ファンタジーではない。ちょっとエロもグロもインモラルも入り混じる、ちょいダークなファンタジー世界だ。



 ちょいダークなファンタジー世界なので、モンスターという『人間=餌』という怪物が居る。


 ドラゴンだっているし、ゴブリンとかいう本能に全てを注ぎ込んだ猿モドキみたいなやつもいる。


 そんな世界だから、普通にあるわけだ……何がって、モンスターの襲来で、住んでいる町が壊滅するって話が。


 もちろん、そんな話は極々稀だし、実際はモンスターに襲われて町から町へと移動している馬車の者たちが消息を絶ったとか……まあ、うん。



 なので、治安は悪い。



 おまけに、倫理観もファンタジー世界基準だから、野盗とか山賊とか普通にいる。


 おかげで、ちょいと隣の村になってのが危なくて出来ない。


 だから……という言い方もなんだが、その影響からか、だいたいが年寄りになる前に死ぬ。



 もう、彼女は色々と察した。



 そういうのを前世の歴史(けっこう成績は良かった)で勉強していた彼女には、嫌でもこの世界においての命の安さが想像できた。


 さらに、世界がファンタジー倫理だから、上に立っている貴族とか領主とかの中には誇張抜きでヤバいやつがいる。


 何がヤバいって、ガチで平民がそこらの雑草のように、放って置けば勝手に増えると本気で思っていて、増えないのは平民の怠慢だと……で、だ。



 ……当時4歳の彼女は、農民の娘であった。



 そう、娘だ。


 しかも、3女。


 そのうえ、大して裕福でもない農民の娘であり……住んでいる場所を治めている貴族に、あまり恵まれていなかった。



 ……いや、まあ、いちおう言っておくが、それはあくまでも、高等教育を受けた前世の記憶があってこその視点だ。



 ぶっちゃけてしまうと、この世界の一般的な基準で考えれば、悪くはないのだ。


 かといって良いわけでもないが、悪いわけでもない。上を見ればキリがないが、下を見てもキリがない……そう、コレなのだ。



 ──悪くはない。



 言い換えればそれは、死ぬまでズタボロに使い潰されて、ゴミ屑と一緒に捨てられるよりはマシ……という、この世界の最底辺に比べたら、の話なのだ。



(……え、マジ? 医療どころか衛生観念すら危ういこの状況で、俺ってば生きていけるのか?)



 だからこそ、グルリと己が住まう村の中を見回り、暮らしている人たちの生活ぶりを観察し終えた彼女は……軽く、絶望した。


 何故なら……この世界のビギナーである彼女の目から見ても、農民たちの生活は半ば自転車操業みたいな暮らしぶりだったのだ。


 具体的には、どこかで何かが失敗すると、村人が1人死んだりする。理由は、栄養失調から病を発症しての、病死である。



 なんでそうなるかって、それは単純に栄養が足りていないからだ。



 ある程度の蓄えこそやってはいたが、そもそも保存技術が確立されていないので、現代に比べて明らかに劣化が早い。


 さらに、現代のように種類もない。


 固く固く、とにかく保存を効かせるために水分を抜いて硬くしたパンと、乾燥させた豆を粉末にした物ぐらいだ。


 もちろん、現代のように冷蔵庫なんてモノはない。


 いちおう地下に氷室(というか、物置?)があるのだが、正直、そこまで大した代物でもない。


 だから、普通にカビが生える。もちろん、カビが生えたところは捨てて他の部分は食べる。


 正直、マズイ。文字通り、腹を満たす為の食事……菌がどうとか言っていたら餓死してしまうから、他に選択肢はない。



 そして、スープ。



 まあ、現代感覚でいえば、スープというよりは香りと色を付けた水ぐらいに薄いので、それをスープと呼ぶべきか迷うところだが……とにかく、スープが出る。


 これが、毎日だ。もちろん、一日3食なんて食べられるわけがないし、毎回お腹いっぱいに食べられるわけではない。



 そんな状況で、栄養が偏るなんて当たり前だ。



 さらに、満足な量を取れていないときた……そりゃあ、いかな慣れた身体とはいえ、限度があるというものだ。




 ──だから、なんとか協力して状況を改善しようと思ったが……上手くはいかなかった。




 だって、彼女は4歳。子供も子供で、実の親ですらまともに取り合ってはくれなかったのだ。


 まあ、当たり前だろう。


 生まれた時から他とは違うぞと一目置かれるような神童だったならばまだしも、記憶を思い出す前は普通の4歳児だった。


 つまり、甘えん坊だし、オネショだってしていたし、転ぶと泣き出す……そんな、普通の女の子。


 そんな子が、いきなりあ~だこ~だと言い始めたら、どうなるか……そんなのは、火を見るよりも明らかだった。



 ……とはいえ、ただの考えなしと一概に彼女ばかりに非があるわけではない。



 先ほどのを否定するわけではないが、仮に記憶を思い出す前の彼女が神童だったとしても、村の者たちは耳を貸さなかった可能性は高い。


 何故なら、彼女の両親もそうだが、村の者たちには、彼女の言わんとしていることを理解出来るだけの知識がなくて。


 そして、彼女には、前提の知識すら全くない者たちに教えられるほどに、言語や知識に精通しているわけではなかったからだ。



 ……仕方がないのだ。



 なにせ、村人たちは教育をまともに受けていない。


 いや、というより、貴族や商人の子供でもないのに、読み書き以外の勉強をさせるという考えと余裕を誰も持ち合わせてはいなかったのだ。


 そんな者たちが、何よりも判断の基準とするのは他でもない……経験則だ。


 つまり、経験せずとも結果が分かっている知識を受け入れられる土壌が、村人たちの頭にはなくて……それが、この状況においては致命的であったのだ。



(せめて、俺に魔法の才能でもあったら……いや、無いモノ強請りか)



 そう、無いモノ強請りである。


 いちおう、まだ4歳の彼女は魔法が使えた。だが、それは指先に軽く火を灯す程度で、しかも30秒ぐらいしか持続出来ない。


 そして、その程度の魔法なら、村人の誰もが使える。


 いわゆる、『生活魔法』と呼ばれるモノらしいが……彼女には、生まれ持った魔法的なチートなど無かった。



(駄目だ……せめて、俺があと10歳ぐらい歳を取っていたら……いや、無理か、結果は変わらんな)



 おかげで、彼女は記憶が蘇った1年後の5歳の秋ごろ。


 その頃になればもう、色々と諦めた。説得するだけ労力の無駄だと、自分の力ではどうにもならないことだと受け入れた。


 その際、『やっと素直になったか』、『ようやく変な事を言うのを止めたか』と、村人たちもそうだが、家族も似たような反応を見せたことで踏ん切りが付いたのは……っと、話を戻そう。



(このままではイカン! このままボーっと過ごしていると、何かあった時、真っ先に俺が命を落としてしまう!)



 結局、彼女は他人を頼るのは止めた。


 けして、村人たちが悪いわけではない。むしろ、彼ら彼女らは、この世界の常識で考えれば善人に当たる方なのだ。


 だが、村人たちの頭を変えるまで時間を掛け続けていられるほどに、この世界は優しくない。


 今はまだ子供だからと大目に見てもらえるが……この先、頭のおかしい子と見られるか、天より才を与えられた子だと見られるかは、正直分からない。



 ゆえに、自らが生きる為に行動するようになった。


 幸いにも、記憶だけとはいえ、アドバンテージはある。



 曲がりなりにも教育を受けた経験を持っている彼女は、ある意味ではこの世界の人達が知らない知識を多数保有している。


 もちろん、大半は役に立たないものばかりだ。石鹸の作り方なんて、ぶっちゃけ知らない。



 しかし、無いよりはマシなのだ。無くて困る事はあっても、有って困る事はない……それが、知識なのだ。



 それに、前世の記憶を思い出したおかげか、身体の使い方が以前よりスムーズになった気がする。


 以前は何かしら転んでしまうぐらいにバランスを崩し易かった身体だが、記憶を思い出してからは、滅多に転ばなくなった。



(……よし、決めたぞ)



 そんなわけだから、彼女は……とりあえず、真っ先にしなければならない、己が目指す方向を定めた。



(どうせ、一度は死んだ身だ……足掻いて足掻いて、足掻きまくってやる!!)



 それは、生きる為に、とにかく身体を作ることであった。



 ……。



 ……。



 …………そう、兎にも角にも、この世界は電化製品の類が一切ない。また、工作技術においても、現代よりはるかに未熟である。



 なので、この世界は大半がマンパワーによって動いている。



 鉄を作るのだって、薬だって、家を建てるのだって、モンスターを退治するのだって、火を起こすのだって、食料を用意するのだって、最初から最後まで全て人力だ。


 銃を構えて引き金でお終いなんて話はなく、コンセントを繋いでヴィィィインで切断分離接着は出来ない。


 現代とは違い、非力だけど頭が良いというのは評価されない。少なくとも、彼女が見る事が出来た範囲では、そうだった。


 魔法という例外があるにせよ、それだけ強力な魔法が使える者なんて、だいたい王族や貴族に囲われているし、あるいは有名だから、大多数の人達にとっては一生関わる事がない存在だ。


 ……つまりは、だ。



「パワーさえあれば……なんとかなる!!」



 最悪、パワーさえ……魔法が無くとも力でカバーしてしまえば……そう、彼女が結論を出すのは、必然的な話であった。






 ……。



 ……。



 …………そうして、密かに肉体改造を始めた彼女の日々は……まあ、中々にストイックであった。




 ──まず、彼女はとにかく食べた。身体を作るには、とにかく食べねばならないという知識があったからだ。



 なので、お手伝いという名の強制労働を除いて、空いている時間はとにかく食えるだろうと思った物は何でも食べた。


 魚だろうが、虫だろうが、獣だろうが、前世の記憶を頼りに、食えると思われるやつは片っ端から焼いたりなんなりして、全てを腹に納めた。


 普通ならば、とっくの昔に腹を壊すなり病気になるなり毒に当たるなりで死んでいるところだろう。


 だが、そうはならなかった。


 何故なら、彼女は全く気付いていなかったのだが……実は、彼女には魔法的なチートはなかったが、幾つかチートのような能力を持っていた。



 それは、あの(自称神様)ライトボールにお願いした事の一つ……『病気とかにはならない』、である。



 これによって、彼女はどんな物を食べても雑菌や寄生虫などで腹を壊すことは無いし、病気にもならず、毒も効かず、一度としてトイレに籠ったことはなかった。



 ……まあ、あくまでも身体が無事なだけであって、味覚はそのままで。



 ぶっちゃけ、栄養最優先な関係上、獲物は全てえぐみMAXで、相当に空腹でなければ食えた味ではなかったが……それでも、彼女は頑張った。


 なにせ、今世は女なのだ。


 只でさえ生物学的にパワーが劣り、筋肉も付き難いのだ。血肉を作る材料をえり好みしてはいられない。




 ──そして、次に彼女は……筋トレをした。




 とはいえ、これがまあ意外と難儀する。


 どうしてかって、彼女には筋トレの知識が無い。


 いや、腕立てとか腹筋とかスクワットとか、それぐらいなら知っているが……ちょっと専門的な部分になるとサッパリだ。



 だから……彼女は少しばかり考え……決めた。



 それは、その時重い物をとにかく振り回す事にだけ集中し、とにかく速く身体を動かし、それをとにかく出来うる限り長時間続ける……というものだ。


 効率とかそういうのは分からなかったが、怪我にだけは気を付けて……ひたすら、続けた。




 ──後は、寝る。良質な睡眠は、栄養を取るのと同じぐらいに重要なのだ。




 これに関しては、特に問題はなかった。前世のような娯楽など全く無いこの世界では、基本的に日が落ちれば誰も彼もが就寝だ。


 寝心地に関しては今一つだが、その点に関しては森から葉っぱを掻き集めて布の下に敷けばある程度は解決したので、睡眠に関しては毎日ぐっすりであった。


 しかし、いくら回復が早い子供(そのうえ、病知らず)とはいえ、避けて通れない事がある。



 それは……筋肉痛や成長痛だ。



 どうやら、それらの類は病とはカウントされないようだ。


 まあ、どちらも死ぬような事ではないし、回復なり成長なりが起こる時の現象だからなのだろうが……で、だ。



 とにかく、彼女は頑張った。



 前世でもそうだったが、モンスターとか野盗とか普通に跋扈しているこのファンタジー倫理の中では特に、明日が保障されているわけではない。



 一ヶ月でも早く、一週間でも早く、一日でも早く。



 早く大人になって、何かしら悪意に晒されても逃げ切れるようになっておきたい……その一心で、彼女は頑張った。



 ……。



 ……。



 …………そうして、約5年の月日が流れ、彼女が10歳になった頃。



 彼女は、村を出た。


 それはいよいよ村が嫌になって逃げ出したから……ではない。



 悲しい話だが、村の中に流行り病が発生したのだ。



 それも、かなり性質の悪い病だった。もしかしたら、インフルエンザの類だったのかもしれない。


 解熱剤や抗生物質などないうえに、彼女のおかげで幾らか栄養面がマシになっていたとはいえ、その病は猛威を振るった。


 次から次に感染者が増え、誰も彼もが4週間ほど高熱と幻覚に苦しんだあとで、パッタリ息を引き取ってしまった。


 彼女以外に、例外はいなかった。家族とて、例外ではなかった。


 彼女以外の全員が病に掛かり、ブツブツと意味不明な言葉を2日間ほど呟き続けた後で……痩せ細った手で彼女の手を最後に握り締めて……それっきりであった。



 だから、彼女は村を出た。


 村人たち全員の墓を掘り、埋葬して、祈り……もう、俺を除いて誰も居なくなった村に頭を下げ……旅に出た。


 行き先は……特に決め手などいなかった。


 残念なことに、この世界の地理なんて名前ぐらいでしか知らない彼女の頭には、最寄りの村ぐらいしか知らなかった。



 だから、彼女は歩いた。



 幸いにも、鍛えに鍛え続けたおかげで腕っぷしには自信があり、食い物には困らなかった。


 どデカい猪や蜥蜴ぐらいなら、鍛えた拳や拾った石で幾らでも仕留められたし、ゴブリンとかいう糞ザコモンスターは、成長した彼女に気圧されて、近寄ることすらしなかった。


 身体が汚れたら川に入って入念に沐浴を行い、腹が空けば適当なモンスターを仕留めて平らげ、夜は満点の星空の下で爆睡した。


 そうして、気の向くままに歩き続け……いったい、どれだけの月日が流れただろうか。


 何時ものように気の向くままに歩いていた彼女はふと、目に留めたのは、地平線の彼方に見えた、大きな街。




 ──おお、なんか初めて町を見付けたぞ! 




 その瞬間、彼女は素直に喜んだ。


 だって、生まれてからこれまで、己が住んでいた村以外の場所、つまりは他所の村や町には一度として入った事がなかったからだ。


 それはそれでどうなんだという話だが、地理に疎いのだから仕方がない。



 ……しかも、だ。



 実は、村を出てから彼女はこれまで、一度として人間と遭遇しなかった。


 替わりに遭遇するのは、片言な単語で襲い掛かってくるゴブリンにオークに、流暢だけど癖が強いドラゴンっぽいやつとか、まあ、うん。


 数年ぶりに、人の気配を感じ取れたのだ。


 おほん、えへん、雄叫び以外に声を出すなんて、何時以来だろうかと……気付かぬうちに、彼女はちょっと気分を高揚させていた。


 方向音痴なのか、単純に不運なのか、それはさておき、もしかしたらファンタジー的な人たちがいるかもしれないと思った彼女は、意気揚々とそこへ向かった。






 ──その日、何時ものように正門を守っていた門番は、気付けば、持っている槍を構えていた。



 いったい何故か……それは、眼前に現れた女が、あまりに異様であったからだ。


 そう、異様である。異形ではなく、異様なのだ。


 まず、目に留まるのは女の風貌だ。


 お洒落とは無縁な雰囲気を全身から醸し出しているが、分かる。


 眼前の女の美貌は、それなりに色々な人を見て来た彼の目から見ても、文句なしで上位に入るレベルだ。


 加えて、首から下のスタイルもえげつない。もちろん、良い意味だ。


 誇張抜きで、己の頭よりも大きいのではと思う二つの大山も大概だが、その細さで上半身を支えているのかと不安に思えてしまう腰の細さも、そう。


 遠目にも分かるぐらいに形の良さが見て取れる腰回りに、これ以上の枕は存在しないのではと思ってしまうぐらいに女性的な太ももまわり。


 正直、町中で現れたら誰もが立ち止まって二度見してしまうぐらいの、とんでもない美女の登場に……門番は思わず、声を震わせた。



「──と、止まれ! そこを動くな!」



 それは、良い意味ではなかった。


 いったいどうしてか……答えは、単純明快。



(で、デケェ……2メートル……2メートル10……いや、2メートル20……以上!?)



 単純に、女の背丈がデカすぎたのだ。


 しかも、背丈だけではない。


 背丈のデカさに合わせて、全身がデカいのだ。まるで、とびっきりの美女をそのまま背丈に合わせてデカくしたかのような……しかも、だ。


 異様なのは、その女が身にまとっている衣服もそうなのだ。


 おそらくは毛皮と思われるモノをマントのように羽織ってはいるが、胸も股も、何重にも束ねた葉っぱやら何やらで申し訳ない程度に隠しているだけ。


 いったい、どこの蛮族出身なのだろうか。


 おかげで、ちょっと身動ぎするだけで揺れる。揺れるだけでなく、見えちゃいけないところがチラチラッとしている。



 ……どこがって、そりゃあ……いや、そんな事よりも、だ。



 門番の目を引きつけたのは、女が手にしている……棍棒のような……なんだろう、鋭いモノだ。


 伊達に、荒事に関わっていない門番の目には、それが木製や鉄製ではなく、何かしらの動物の骨であるのが一目で分かった。



(あ、あんなサイズの骨を持つ生き物なんて、この近くにいたか?)



 だからこそ、門番は……困惑するしかなかった。


 何故なら、仮にそれが原寸だとするならば、そんなサイズの骨を持った生き物なんて……そう、サイズが合わないのだ。


 オークの骨ではないし、ましてやゴブリンの骨でもない。猪の角かとも思ったが、あれほど巨大な角を持っている猪の報告は一度として聞いた覚えがない。


 ……と、なれば、近隣ではなく、もっと遠いところからの来訪者ということになるが……いや、しかし、そうなると。



(……え、こんな格好で?)



 考えれば考える程ドツボにハマるというか……もう、アレだ。



「……何の目的で、ここへ?」

「人が住んでる、見えた、だから来た」

「はっ?」

「いつも森の中、今日は違う、覗きに来た」

「……誰か門番長を呼んで来てくれ!! 森に住まう蛮族が迷い込んできたぞ!!」



 色々考えるのが面倒になった彼は、素直に上司に丸投げすることにした。



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