第10話: あぁ~、丸のみフェチ(亜種)が目覚める音ぉ~!

聖女要素70%ぐらい



――――――――――




 ──重ね重ね言っておくが、彼女は特に『教会』とやらに敵意を抱いてはいない。



 彼女がポッチャリ神官を追いかけたのは、意図はなんであれ、ポッチャリに攻撃されたからで、その事を謝罪もせず再度の攻撃を行う事を臭わせたからだ。



 つまり、彼女がやったのは、あくまでも反撃である。


 互いがぶつかり合って、片方が逃げた。


 それを追いかけるかどうかは、その者の判断によって違う。



 獣ならば、相手を殺そうとするか、あるいは消耗を避けてその場に留まるか……いや、それは人の場合も同じか。


 とにかく、彼女は追い掛けて殺す方を選んだ。


 理由は、相手が再度の攻撃を臭わせたからで、その際、相手を放置すると戦力が増えてしまう……そうなる前に仕留めた方が良いと判断したからだ。


 そして、彼女の目的であるポッチャリ神官は殺せ……いや、自滅したといった方が正しいのだろうが、とにかく仕留めることは出来た。


 なので、本来ならば、その時点で目的を終えた彼女は、再び放浪の旅でも始める……はずだったのだが。



『──聖女様だ!!』


『聖女様、ああ、なんと神々しい!』


『聖女様ばんざーい!!』



 どういうわけか、彼女は周囲から聖女と崇められてしまい、これまたどういうわけか、教会の本部へと向かう事になってしまった。


 そうして、到着まで目前に控え……そのうえ、当初に比べて彼女の恰好やその他諸々が、ちょっとばかり変わっていた。



 まず、着ている修道服が変わった。



 何時の間に用意したのかは定かではないが、修道服をベースにした、ちょっとヒラヒラっとして露出が増えた、ニュー修道服になった。


 どこが違うって、まずは使われている生地。次に、一番目に付くのは胸の谷間と、太ももの内側だろう。


 このニュー修道服、『かつて存在した聖女様が身に付けていた衣服』をモデルにしているらしいが、詳細は彼女も知らない。


 いわゆる魔法を用いて作られている特別なモノらしく、その者の体形に合わせて自在に伸縮し、非常に丈夫らしいということぐらいだろうか、理解出来たのは。



 そして、露出。言い間違いではない、露出だ。



 そう、どういう意図で用意されたのかは分からないが、どういうわけか、胸の谷間がバッチリ露出する仕様なのである。


 加えて、これまたどういうわけか、太ももの内側が見えるように露出している。


 つまり、スカートなのに、わざわざ穴が空いていて、中が見えるようになっているのだ。


 まるで、意味が分からない作りだろう。


 さすがに鼠径部そけいぶは見えないようだが、相当に前衛的な造りになっているのは間違いない。


 ちなみに、このニュー修道服……肩周りぐらいしか袖がないうえに、口も広く、腕を上げると普通に脇が露出する。



 まあ、それはいい。



 そもそも、街に来るまでは脇も鼠径部も見えるのが当たり前だったし、なんなら素っ裸で歩き回るのも日常的にあったから、今さらその程度で羞恥心など覚えたりはしない。


 ただ、ちょっと速めに動くだけで、その度にππがポロッと零れ出てしまうのは非常に面倒臭い。


 まあ、何も付けていないと、ただ歩くだけでぽよんぽよんと弾むから、衣服を着ないという選択肢はないわけだが……で、だ。



 次に、当初と違う変化は……彼女の移動手段である。



 具体的には、用意された謎の神輿の上に座ったまま移動している。その上で、期待の眼差しを一身に浴びている



 ……何を言っているのか分からないだろうが、見たままを語ると、そうなってしまうのだ。



 いったいどうして……普通は馬や馬車等に乗って行くのではと思うところだが、あいにく、それが出来ない事情が彼女にはあった。


 それは、単純に彼女の体格が原因であった。



 まず、彼女がデカいせいだ。



 おかげで、一般的な馬車(それでも高級品だが)では、不恰好な姿勢のまま移動になってしまう。


 彼女としてはずーっとそんな生活を送るわけじゃないし、それでいいよって思っていたのだが、追従する騎士たちが力いっぱい首を横に振って却下となった。



 曰く『聖女様にそのような窮屈な思いはさせられない』とのこと。



 また、本能的な恐怖を抱いてしまうのか、馬車を引く馬が彼女の存在に萎縮してしまうのだ。


 出来うる限り心を無にした状態ならば、大丈夫。


 しかし、僅かでも……『この馬、焼いたら美味いだろうなあ』といった感じで食欲を出したら最後、もう駄目。



 ──く、食われる!? 



 といった感じでビビりまくった馬が、その場から動かなくなるならマシな方。下手するとパニックを起こして暴れ回ってしまうから、迂闊に乗れないのだ(経験則)。


 当然ながら、乗馬して進むのも駄目。


 彼女独りだけで、大人2人分は体重がある。ムチムチッとしたボディだが、その内部にはしっかりと筋肉が搭載されている。


 なので、馬の方が早々に潰れてしまうのだ。


 こればかりは、天使もどうにもできないらしく……考え抜いた(彼女は知らない)結果、神輿のようにして騎士たちで担いでいけば大丈夫……ということになった。


 ……うん、まあ、アレだ。



(は、恥ずかしい……!!)



 表面上は穏やかに微笑んで手を振りながら……彼女は内心、気恥ずかしさに悶えそうになっていた。


 だって、常識的に考えてみてほしい。


 そもそも、彼女はそういうのが好きな性格じゃない。そして、そういう役職を望んでいるわけでもない。



 それなのに、神輿の上で、聖女の真似事をするわけだ。


 ぶっちゃけ、新手の辱めだろうかとすら彼女は思った。



 けれども、神輿を支えている騎士たちの顔ときたら……まるで、選ばれし者たちと言わんばかりに誇らしそうにしている。


 それを見つめる人たちにいたっては、誇張抜きで心底羨ましそうにしていて……特に、離れたところからキラキラとした眼差しを向ける子供たちの視線が、物凄く……その、痛いのだ。



(言えない……たぶん、君たちの想像する聖女様と、中身があまりにも違うってこと……間違っても、言えない……!)



 だって……自分で言うのもなんだが彼女は、己が聖女という役柄に対して心底似合わないということをハッキリ自覚していた。



 だって、アレだ。



 聖女って言えば、清楚でお淑やかで美人で、なんか清浄なる空気を醸し出している……そういう感じだと彼女は思っている。



 対して、この場に居る彼女はどうだろう。



 清楚……少なくとも、御嬢様っぽい雰囲気は皆無。


 田舎の村娘だったからそういう教育を受けていないし、男だった前世の記憶があるから、余計に『清楚とは?』という感覚しかない。



 お淑やか……とりあえず、素手でゴブリンやらオークやらドラゴンやら殴り殺して、火に掛けてムシャムシャ食うやつをお淑やかとは言わんだろう。



 美人……まあ、これに関しては合格点だとは思う。


 彼女は馬鹿ではないし、見え透いた嘘はつかない。


 ちゃんと、今の己が美人だという自覚はある……が、それを差し引いても色々とデカすぎるというデメリットも自覚している。



 そして、清浄なる空気。


 これはまあニュアンス的な言い方ではあるが、要は『なんかコイツ、聖女っぽくない?』みたいな雰囲気が出ているかどうか……なのだが。



(……俺ってば、そんな空気出ているのか?)



 これに関しては、正直よく分からなかった。


 いや、周囲の雰囲気からして、そう見られるような雰囲気を己がしているのは……まあ、察している。


 でも、アレだぞと、彼女は内心にて首を傾げる。


 俺ってば、大きいと分類される男よりも頭二つ分はデカいのだぞと……彼女は、内心にて何度も首を傾げた。



 たぶん、このファンタジー世界特有の美意識が駄目なのだろう。



 結局、それらしい理由を思いつかなかった彼女は、そのように結論を出した。


 あとはまあ、なにもかもがあまりに急過ぎたのも、そうだろう。


 これが1年とか2年とか、なにかしらの修行なり何なりをした後ならば、多少なり受け入れられただろうが……残念ながら、そうではない。


 あまりにも熱烈な眼差し(意味深)を向けられ、聖女違うと何度訂正しても『分かっていますよ(意味深)』な目で否定され続けて。


 こりゃあ下手に刺激するとヤバいかもと思って、言われるがままおとなしく言う事を聞いていれば……あれよあれよと、気付けばこの始末。



 今では、通り過ぎる人々から、遠目からでも聖女様と崇められてしまう。


 頭を下げる必要など無いと言えば、なぜか感涙され、それ以上に土下座され。


 御布施とか言われて金を差し出されたから、丁重にお断りすれば、何故か倍の金が差し出され。


 途中、何度か遭遇したゴブリンやら何やらのモンスターをぶち殺せば、『神の御業だ……!!』と、不気味な笑みと眼差しを向けられて。



(神の御業が、素手でアイツらの頭を握りつぶすこと……?)



 ──それぐらい、鍛えたらだいたいの人が出来そうな気がするけど……違うのだろうか? 



 正直、このファンタジー世界の人達が想像する神ってなんだろうなあ……と、彼女は思った。






 ……。



 ……。



 …………さて、そんな感じで悶々としている彼女の内心を他所に、彼女を載せた神輿と騎士団は順調に……目的地である『城下町』へと到着した。


 城下町と言うだけあって、街の中央(最奥?)には立派な城があって、その城を中心に街が広がり、それらを囲うように外壁が設置されている……らしい。


 らしい、というのは、一部騎士団からの情報で、実際に目にしたわけではないから。


 どうしてかって、そりゃあ城は大きいから外からでも見えるけど、街並みは外壁が邪魔をしてよく見えないからだ。


 まあ、その外壁があっても、チラホラと建物の屋根っぽいのが見えたし、今さら騎士団の言葉を疑うつもりはないので、そうなのだろうと彼女は納得しているけど。



(おお……な、なんか感動するなあ……)



 それはそれとして、神輿の上で彼女は……ボロが出ないよう祈りのポーズを維持しながら、ちょっと感動していた。


 そう、思い返せば、この何から何までファンタジー理論で構成されたファンタジー世界にて生を受けてから、数十年。


 こういったファンタジー要素に、触れる機会はそう多くはなかった。


 いや、まあ、まったく触れて来なかったわけではないのだ。


 ゴブリンだとかオークだとかドラゴンだとか、そういう血生臭いファンタジーだけは、それはもう寝ても覚めても経験せざるをえなかったが……彼女が言うファンタジーとは、そういうものじゃないのだ。


 もっと、こう、剣と魔法のファンタジーというか、エルフだとか妖精だとか、そういう……こう、浪漫が溢れてしまうようなモノだ。



『オレ、ハラヘッタ、オマエ、マルカジリ!』


『ナンダト、コッチガ、マルカジリ!!』



 間違っても、こんな感じで始まるようなファンタジーではない。


 文字通りの、食うか食われるかの殺し合いではない。


 貴重なタンパク源だと、十数分前に千切り取った腕を焼いて、今日の恵みをありがとう……そんな、サバイバルファンタジーではない。



 だからこそ、彼女は素直に感動していた。



 神様だとか宗教だとかはよく分からないが、この世界にもこんな綺麗な場所が有って、これだけ発展した文明があるのだなあ……と、喜んでいた。



 ……。



 ……。



 …………で、それは、それとして。



 あえて目を逸らしていたが、何時までもそう言っていられないことを受け入れた彼女は……チラリと、城下町へと続く正門前に陣取る騎士団を見やった。


 その騎士団は、彼女に付き従う騎士団ではない。国王を守護する騎士団で……つまりは、どういうわけか、大勢の騎士たちが装備を固めて道を塞いでいたのだ。


 まるで、王国に入れるつもりはないぞと言わんばかりに……いや、まるでじゃない、明らかに、入れるつもりはないという意思が離れていてもなお感じ取れた。



「……なに、あれ?」



 薄々察してはいるけど、これまた、あえて聞いてみれば。



「おそらく、聖女様を認めようとしない教会の差し金かと思われます」



 やはり、そういう事であった。



 ……ぶっちゃけ、聖女だと認定されなくても全く困らない。ていうか、認定されない方が個人的には超嬉しい。



 じゃあ仕方がないので解散……という感じで終わらせたい気持ちでいっぱいだが、憤怒によって血走った騎士たちの目を見て、アカンと彼女は内心にて首を横に振る。


 ……これ、放っておいたらバンバン人が死ぬやつだと、彼女は察した。


 彼女としては、勝手に殺し合って勝手に死ぬだけだからあまり心は痛まないが……それでも、このまま無駄に死なせるのは哀れに思えて色々と思うところはある。



(……とりあえず、教皇……だったか? そいつに話を通して、聖女だとかそんなのは噂だということを知って貰わんと駄目だな)



 深々と……それはもう、これ以上ないぐらいのため息を零した彼女は……のそりと、神輿より降り立った。



『──聖女様!?』

「戦い、違う、おまえら、いらない」

『聖女様!! 我らを御伴に!!』

「聞いて、話を……」

『うぉぉ!! 聖女様に続──』

「聞け」



 先走ろうとした男の頬に張り手を叩き込んで黙らせる。



『あ、ありがとうございます!』



 なにやら恍惚の顔のソイツからそっと距離を取りつつ、改めて待機の命令を下してから……1人、城下町へと向かう。


 怪我が心配だとか、そんなのじゃない。皮肉でも何でもなく、武装した騎士たちの集団は邪魔でしかない。


 普通に考えて、こんな目の血走った集団が近寄って来たら、纏まる話も纏まらなくなって当たり前である。


 ぶっちゃけ、彼女が逆の立場だったら、問答無用で砲弾とか叩き込むところで……まだ、待ち構えて静観しているだけ、理性的だとすら彼女は思った。


 そうして……1人、のそのそと向かっていると。



(……子供?)



 待ち構えている騎士たちの間から、一頭……馬に乗った騎士が駆け寄って来るのが見えた。


 しかし、小さい。というか、騎士というには幼いし、鎧も着ていない。



 ……あれ、騎士なの? 



 首を傾げながら、とりあえず、彼女は立ち止まる。どんどん近づいて来る、その子供……金髪碧眼の男の子は、ついに、彼女の眼前にて馬を止めた。



「貴方様が、聖女様であられますか?」



 そう、尋ねられた声も可愛らしく……とてもではないが、荒事に立ち向かうような年齢には見えなかった。



「……聖女、違う」

「なるほど、奥ゆかしい。名は、なんと?」

「ウロロ、そう、呼ばれる」

「ウロロさん、ですか。私は──国の第5王子、イシュギンです。此度は、何用で我が城へ攻め入ろうとしているのですか?」



 見たところ、青少年というには若すぎる、豪奢な恰好をしたイシュギンと名乗った王子様は……相当に肝が座っているようだ。


 こんな状況だというのに、欠片も怯えた様子も緊張した様子も見せない。さすがは王族というべきか……まあ、そんな事よりも、だ。



「……? 攻め入る、しない」

「え?」

「あいつら、騒いでいる。わたし、知らない」

「えっ? じゃ、じゃあ、どうしてあのように武装した騎士たちを引き連れているのですか?」

「それ、知りたい、こっち」

「えぇ……」



 わけが分からない……そう言いたげに目を瞬かせた王子を他所に、彼女は……内心にて、首を傾げた。



 だって、相手が王子様なのだ。



 第5とはいえ、一国の王子が荒事の最前線に出て来るとは……いったい、どのような駆け引きの結果そうなったのか……気にならない者は少ないだろう。


 もちろん、彼女も気になった。


 だから、率直にどうして王子様がこんな場所に出て来ているのかと尋ねれば、ハッと我に返った王子様は、一つ咳をした後で……おもむろに、語り出した。



 その内容を簡潔にまとめると……要は、『呪いを解いてほしい』というものだ。



 曰く、『自分には物心付いた頃から呪いを受けており、その呪いによって15歳ぐらいまでしか生きられない』らしい。


 呪いの大本は不明。


 王家に時々生じるモノらしく、この呪いが現れたら最期、最長で2年しか生きられた者がいないらしい。


 イシュギン王子が今も生きていられるのは、『教会』の助力によるもの……神官たちによる呪いの軽減を行っているおかげだと……王子は語った。



「しかし、密偵から此度の騒動を聞いた時……思ったのです。私の身を、いえ、王家を蝕むこの呪い……はたして、本当に誰も分からなかったのだろうか、と」



 そこで、王子は一旦言葉を止めた後……馬を下りると、彼女へ向かって頭を──。



「よし、あいつら殴ろう、決めた、いま、決めた」



 ──下げるよりも早く、彼女の捧げた浄化の祈りによって……王子の総身より、黒いモヤがフワッと立ち昇り、消えた。



 それは、あまりに一瞬の事であった。


 あまりに唐突に行われたせいで、「え、は、え?」当のイシュギン王子すら状況を理解出来ず、呆然と彼女を見上げるしか──っと。



「おまえ、来い」



 呆気に取られているイシュギン王子……イシュギンの首根っこを掴むと、彼女はその身体を覆い隠すように……パッと、スカートの下へと追いやった。



「      」



 瞬間、イシュギンは声にならない……いや、声すら出せなかった。


 何故かって、それはまあ、見えたからだ。


 ナニが見えたって、それはまあ……アレだ。


 そのうえ、超至近距離である。


 毛の形もそうだが、作りもバッチリ見えた。


 外から見た限りでも露出度が高かったけれども、コレの比ではない。


 ふわりと、覆い被さったスカートが光を遮ったことで真っ暗になったが、その程度はもう意味がない。


 己にはない異性の、それも、匂いがこもったその空間の中で、ガチンと身体を硬直させたイシュギン……だが、まだである。



 ──ぎゅう、と。



 ナニカが頭に押し付けられた……かと思えば、まるで、ナニカに飲みこまれるかのような圧迫感を覚え、イシュギンは反射的に目を瞑った。


 それは、時間にして十数秒程度の出来事である。


 柔らかいのに固く、スベスベとしていて温かいナニカにピタリと密着したまま、肌触りのよい生地の感触を背中に受けながら……ぽん、と圧迫感が消えたのを感じ取ったイシュギンは、目を開けた。



「      」

「おまえ、盾だ。これで、余計、来ない」

「      」

「苦しい、我慢、すぐ終わる」



 瞬間、イシュギンは……再び、言葉を失った。


 どうしてかって、それは己の現状……聖女と呼ばれている彼女の胸元、谷間と呼ばれる部位に顔を埋めるような形で、ピッタリと身体を固定されてしまっていたからだ。


 その姿を見たまま言葉にするなら、子供を谷間へと抱き抱えたまま服を着た状態……だろうか。


 彼女が常人の体格であったならば、そうはならなかった。


 けれども、彼女は常人ではない。


 年齢的に子供ではあっても、抱き抱えるには大き過ぎるイシュギンであっても、彼女のデカさの前では赤子も同然。


 誇張抜きで、彼女の谷間はイシュギンの頭が二つ並んでいるぐらいに大きい。


 普通ならば比喩として埋めるという言葉が、比喩ではないぐらいにスッポリと……谷間の中へと収まってしまった。


 逃げようにも、特別製の彼女の衣服は頑丈であり、破ける気配も伸びる気配もない。


 ピッチリと、苦しくないけれども、身動き不可でずり落ちない程度には締め付けを保持し続けている。



(やわらっ、良い匂い、温かい、ぷにょぷにょ、良い匂い、やわら、良い匂い、やわら、ぷにょぷにょ、良い匂い──ぶふぉ)



 おかげで、呼吸をすれば彼女の体臭が肺の中を埋め尽くし。


 顔を動かせば、どちらからも柔らかくも温かい膨らみで視界の全てが塞がれ。


 下に落ちようにも、衣服の締め付けによってビクともしないうえに、下手に身動ぎすると……まあ、向かい合う体勢になっているので、色々とヤバいこともあって。



「あ、ごめん、ぶつけた? 鼻血、出る」

「い、いえ、大丈夫、です……あの、盾って……」

「大丈夫、怪我させない、安心しろ」

「い、いえ、その、どうして、こんな体勢で……」

「これなら、攻撃されない」

「……そうですか」



 とりあえず、イシュギンは……彼女のやりたいように従うしかなかった。



 ……なかった、のである(強調)。






 ……。



 ……。



 …………ちなみに、鼻血を出しているイシュギンと、気にした様子もなく歩き出した彼女の……頭上にて。



『性癖の壊れる音が……』



 うわぁ……と、憐れみのこもった視線を向ける天使が居たのだが……その様子に気付く者は、この場にはいなかった。






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