追放&婚約破棄されたけど、『光操作』で侯爵令嬢と結婚します！

第3話 「スキルリセット&希望の光」

「こちらです」

　だだっ広い大理石の廊下を歩くこと数分。

　分厚い鋼鉄の扉をくぐって通されたのは宝物庫だった。

　漫画みたいに金貨や宝石が山積みになってるなんてことはなく、綺麗に並べられた大小様々な宝箱やら金庫の中に収（おさ）められているようだった。

「ここでお待ちください」

　そう言って執事のおじいさんは迷わず奥から二列目の宝箱を開けに行き、淡（あわ）く光る紫の液体が入ったガラスの小瓶を手に戻ってきた。

「こちらが当家の所有するスキルリセットアイテムの一つ、忘却ポーションでございます」

「……」

　驚きすぎて言葉が出なかった。さらっとレジェンド級のレアアイテムを出されたんだから無理もない。

「忘却ポーションって、あの忘却ポーションですか……？」

「はい。こちらは使用すれば割り振ったすべてのスキルポイントがリセットされ、使用したポイントの９割が返還される一級品でございます。

　売却すれば向こう四十年は不自由ない暮らしが手に入ります。どう使われるかは、カーナード様次第です」

「よ、四十年……」

　一般階級の市民の寿命は長くて五十年。十六歳の俺なら一生遊んで暮らせることになる。

「すべてのスキルをリセットする都合上一時的にステータスが大きく減少しますので、使用される場合は最新鋭のセキュリティが施（ほどこ）されたこの宝物庫の中で行ってください。

　スキルポイントを振り直している間、私がこの命に代（か）えてでもカーナード様をお守りいたします」

　俺だって元は貴族だ。この執事の白髪（しらが）のおじいさんがとんでもない実力者らしいことは雰囲気でなんとなくわかる。

　武器こそ持っていないが、全力の俺でも瞬殺されるだろう。

　……当たり前か。

「わかりました」

　俺の適性は最弱ゴミスキル『光操作（ライトコントロール）』だけ。

　侯爵様は俺が『光操作（ライトコントロール）』を主軸にリビルド(スキルツリーを再構築)することを望んでいるんだろう。

　が、そんなことをしたら俺の稼ぎが無くなってしまう。

　どう考えても売却一択。

　そのはずなのに、俺の心はぐらついていた。

「今からお渡しいたしますが、万が一に備えてこちらの手袋をおつけください。どうぞ」

　渡されたすべり止めの手袋をはめ、ついに忘却ポーションを進呈（しんてい）される。落とさないよう握（にぎ）りしめた俺の右手は小刻みに震えていた。

「この忘却ポーションで『光操作（ライトコントロール）』に振り直したら、俺は変われるでしょうか？」

　つぶやくと、執事のおじいさんは優しく笑い返してくれた。

　没落して、大した権力もない男爵の娘と婚約するはめになった挙句（あげく）、それすら破棄されてパーティーを追放された、ゴミスキルしか適性のない俺。

　きっと死ぬまで、なんの役にも立たない。

　ずっとずっと悔しかった。

　変わりたかった。

　でも、どうしようもなかった。

　これは神様がくれたチャンスなのか？

　それとも、俺を嘲笑（あざわら）うための罠か？

「ここだけの話、侯爵様はその忘却ポーションで『光操作（ライトコントロール）』使いとしてリビルドされたカーナード様をルティアお嬢様のダンジョン攻略の傭兵として雇うおつもりのようです。

　そこで活躍すれば、カーナード様もご自分の実力に自信を持てるようになるやもしれません」

　努（つと）めて優しく、ゆっくりと言葉をつむぐ執事のおじいさん。

　俺の顔を見て心を読んだのだろうか。

　忘却ポーションを握りしめ、俺は決意する。

「……やります。俺、スキルリセットで”光を操るもの《ライトコントローラー》”にリビルドします！」

　顔を上げ、執事のおじいさんの目を正面から見る。おじいさんは一瞬だけ子どもみたいな笑顔を浮かべて、すぐに真剣な表情になる。

「かしこまりました」

　入口の分厚い扉を閉めて鍵をかけると、執事のおじいさんは振り返る。

　中は天井の照明のおかげで十分明るい。

「どうぞ、お飲みください」

　俺はさっき以上に震える手でコルクの栓（せん）を抜き、淡く光る紫の液体を一気に飲み干した。

　ふわりと、両足が地面から離れるような感覚がして、全身から力が抜けていくのがわかった。

　空中で指をスライドさせてスキル割り振りのウィンドウを開くと、枝分かれした複数のスキルツリーがぐんぐん縮（ちぢ）んでいくと同時にスキルポイントが増大していく。

　最終的に俺はスキルとそれによって得たボーナスステータスすべてを失い、代わりに４３ポイントものスキルポイントを獲得した。

　たったの15レベルの俺でも、すべてのスキルをリセットしたおかげでそれなりの量になったようだ。

　俺はそのポイントを『光操作（ライトコントロール）』のスキルツリーに迷わず全振りした。

　急成長したスキルツリーは枝分かれして、目の前に新しいスキルを獲得したことを知らせるウィンドウが開く。

『パッシブスキル　MP上昇、光操作（ライトコントロール）３、軽負荷（ライトロード）を習得しました

　アクティブスキル　光安定（ライトスタビライズ）、光放出（ライトブラスト）を習得しました

　称号　初級光操作使い（ライトコントローラー）　を獲得しました』

　読み終え、ウィンドウを閉じた瞬間、俺は目の前に希望の光を見た気がした。