第15話 「女騎士&新装備」

 三日後。


 屋敷の装備品を収納した部屋の前で待ち構えていたその女性は、肩の下まである癖のない白銀の長髪に、澄んだ水色の鋭い眼光をしていた。


 鼻は筋が通っていて高く、硬く引き結んだ口元からは厳格な雰囲気が感じられる。


「リーベルン侯爵直属の騎士、アシェダール・ブラインだ。よろしく頼む」


 アシェダールと名乗ったその騎士は上半身を動きやすそうな銀色の鎧で固めていて、腰の左側には片手剣を納めたさやがぶら下がっていた。


 下半身はスカート状の鎧と、その下に細かい鎖で編んだレギンス。膝から下は鉄板の入った厚手の皮のブーツで守っている。


「アルじゃない! 嬉しいわ!」


 瞳を輝かせて抱きつくルティアの頭をアシェダールは手のひらで優しくなでる。

 そうしていると姉妹みたいだった。


「ルティア、久しぶりだな」


 敬語を使っていないのは、俺と同じくルティアにタメ口で話すよう言われたからだろう。そのくらいなついているらしい。


 リーベルン侯爵はルティアとタメ口で話してくれる相手がいないと言っていたはずなので、タメ口で話せるのはあくまでリーベルン侯爵の目の届かない範囲なのかもしれない。


「君は確か、イシュ・カーナードと言ったな。侯爵様から話は聞いている」


「あ、あぁ、どうも……」


 鋭い眼光でにらまれた。ルティアに向けていた慈愛に満ちた表情とは大違いだ。……リーベルン侯爵が俺に気をつけるよう言ったに違いない。


「さて、ルティア。今日は私がルティアの装備を選んであげよう。おいで?」


「本当に!? 嬉しいわ!」


 なんとかして誤解を解けないものかと考えているうちに、アシェダールはルティアを連れ立って装備品を収納した部屋へ入って行ってしまった。

 しかもすれ違いぎわめちゃくちゃ怖い顔で目配せしてきた。入ってくるなということだろう。


 だだっ広い大理石の廊下に一人取り残された俺は、装備品点検や手入れをすることにした。


 今回の俺の防具は軽量な革製の胸当てと肘、膝当てで、『光操作ライトコントロール』を最大限活かせるよう防御を捨てて素早さに特化させてみた。


 前回も雇ったタンクのステインに加えて今回は騎士のアシェダールも加わえた四人パーティなので、俺やルティアは攻撃を受けないように立ち回ることができるからだ。


 騎士という職業からある程度攻撃を引き受けられるビルドや装備に違いないとふんで俺の今回の装備を決めたのだが、アシェダールの防具は動きやすさを残しつつ防御面に厚いものだったので正解だろう。


 武器も片手剣だったし、今ごろパーティー編成に合わせた盾を選んでいるに違いない。


 防具は結んだ紐がゆるんでないかくらいしか見ることがないので、俺はすぐに他の装備品の点検に入った。


「ランタンよしっ、油も問題なさそうだな」


 腰に下げたランタンを確認。燃やすための油も十分にある。

 今回は森のダンジョンなのだが、俺のスキル『光操作ライトコントロール』ではこれが武器にもなるため、地形や時間帯に関係なく装備することにしていた。


 最後に腰にぶらさげたさやから短剣を取り出して刃の状態を確認していると、部屋の扉が開く気配がしたので慌ててしまう。

 アシェダールに武器を取り出しているところを見られたらそれだけで俺の首が飛んでしまう。


「ん? どうかしたか?」


 短剣を鞘に納めるのと扉が開くのがほとんど同時だった。あせった様子の俺を見て、アシェダールがいぶかしんだ視線を向けてくる。


「ねぇねぇ、見てよイシュ!」


 気まずい膠着こうちゃく状態を破ったのは無邪気に飛び出してきたルティアだった。


「じゃじゃーん! どうよ?」


 ルティアはしたり顔でローブの中の装備を見せびらかしてくる。


「へぇ、ローブの下に鎧を着込んだのか」


「そうよ? これで万が一のときも安心でしょ?」


 ルティアは防具として前回のダンジョン攻略の時に俺が選んだフード付きのローブの中に全身を覆う鋼鉄の鎧を身にまとっていた。武器は前回買ったものより数段上の、宝石がはめ込まれた大きな杖だ。


 確かにこの装備なら防御面に不安はないだろうが、ルティアの体力的に問題ないのだろうか。


「それにしても、よくサイズの合うやつがあったな」


「失礼ねっ! これとおんなじサイズのやつがいっぱいあったわよ? ねぇ、アル?」


「あぁ、その通りだ」


 察するに今回のために侯爵様が用意しておいたんだろうけど、二対一では口論になったとき勝てる自信がないので黙っておこう。


「まったく、これだからイシュは。アルにもさっき気をつけるように言われたけど、こういうことだったのね。早く行きましょ、アル?」


 二人きりになっていた間に何を吹き込まれたのか、ルティアはアシェダールを連れ立ってずんずん歩いていく。


「ちょっと、イシュも早く来なさいよね」


 足を止めて振り返るルティア。

 どうやらのけものにする気はないようだが、俺を待たずにさっさと歩き始めたあたり、俺への好感度がかなり下がっているようだ。


 俺は小走りで追いつき、二人の少し後ろをついていくことにした。

 ルティアのそばを歩いてもアシェダールのそばを歩いても文句を言われそうだからである。


「はぁ、……早くステインと合流してぇ」


 団結した女子たちに勝とうなんて無理な話だ。ここはステインを味方に引き込んで二対二の互角に持ち込むしかない。


 屋敷の門の外で待つステインと一刻も早く合流しなければ。……前回より一人増えたのに、今回の方が不安でいっぱいなのはなぜなのか。


「ったく、こんな調子で攻略できるのかよ……」


 二人に聞かれない声量で、俺はため息をこぼした。

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