第17話 「盗賊団&プライド」

 茂みの中からのぞきこむと、四人の男女混合パーティーが男たちの集団と戦っていた。


 男女混合パーティーの前衛は剣士と、タンクらしき大きな盾の使い手、後衛は魔術師とヒーラーで、服装も編成もいかにも冒険者といった感じだ。


 一方敵対する男たちは服装もバラバラで、役職もはっきりしない。


 近接向きの短剣や、比較的リーチの短い剣を持っているのに後衛の立ち位置にいたり、かと思えばいきなり飛び出して行って襲いかかったりと、陣形が入り乱れていた。


 奥にはリーダー格らしき人物が一人。

 目元だけをくり抜いた仮面にさらにフードを深く被った黒いローブの男で、突っ立ったまま武器も持たずに高みの見物をしている。


「……冒険者パーティーを襲う盗賊団、といった様子だな」


 ステインも同じ感想を抱いたようだ。肩で息をしていたルティアも今は呼吸を整え、ムッとした顔で盗賊団たちをみていた。


「助けましょう? このままじゃあの人たち、やられちゃうわ」


 ルティアの言う通りだ。

 陣形や戦い方はめちゃくちゃだが、盗賊団たちには容赦がない上に頭数が圧倒的だ。放置すれば間違いなく冒険者パーティーの方が負ける。


「いや、やめておこう」


「そんな、どうしてよ!?」


 抗議の声を上げるルティア。今回ばかりは俺もステインの意見に賛成できなかった。


「目の前で人が襲われてるんだぞ? 見過ごせって言うのか!」


「静かにしろ、やつらに聞かれる。……敵の数が多い。俺たちが出て行っても返り討ちにされるだけだ。人道的には助けるべきだが、消耗した今の俺たちには無理だ」


「は? 何言ってんだよ……」


 こんなときでも平然としているステインの背中が、急に冷酷なものに映った。


 傭兵という職業じゃ、感情を殺して、道徳にそむいてまで雇い主の安全を優先すべきなんだろうか。

 そのためにこれまでも目の前の悪事に目をつむってきたのだろうか。


 だとしたら、俺は一生傭兵になんかなりたくない。


 今はルティアの傭兵扱いになっているが、もしクビになって路頭に迷うようなことがあっても、自分の誇りを殺してまで、傭兵になんかなるもんか。


 ……いや、これは誇りとか、元貴族だからとか、そういうレベルの問題じゃない。

 俺自身の問題だ。


 目の前の悪事を見過ごしたら、俺は俺じゃなくなる。

 無言で茂みから出て行こうとする俺を、アシェダールの腕が制す。


「──っ!? なんだよ、まさか、あんたまで止めるのか?」


「……心苦しいが、ステインの言う通りだ。勇気と無謀を履き違えるな。ここでお前が出ていけば、お嬢様も無事では済まない」


「なに言ってるわけ? 私だって戦うわ!」


「あまり大声を出すな」


 二人にさとされても、俺もルティアも止まるわけがなかった。


「もういい、失望したよステイン。これではっきりわかった。俺とお前はわかりあえない」


「そうかもしれないな」


 俺が冷たく突き放しても、ステインは顔色ひとつ変えなかった。

 きっとコイツは俺やルティアが死んでも、自分の傭兵としての評価が下がる、くらいにしか思わないんだろう。


「ルティア、戦おう」


「当たり前じゃない」


 重いだけの全身鎧を脱ぎ捨て、身軽な服だけになったルティアは意気込む。


「……ステイン」


「わかっている」


 背後で二人が何か話しているのが聞こえたが、俺たちは構わず茂みから飛び出そうと地を蹴った。


 ……はずだった。


「──なん、だ……?」


 視界がぐらりと歪む。まっすぐ立っていられない。

 頭の左側が痛い。ステインが何かしたのだと気づいて、ルティアの方に振り返ろうとして、俺はそのまま倒れ込む。


 ステインの丸太のような腕が俺の胴に回され、体が地面から浮いた。


 ステインが持ち上げたのだとわかって、抵抗しようと顔を上げた、その瞬間。

 茂みの向こうの、冒険者パーティーの剣士の男と目があった気がした。


 劣勢に立たされ、深い絶望の淵に追いやられたその顔を、俺は一生、忘れることができないだろう。



 その後、森のダンジョンで男二人の遺体が発見され、組んでいた二人の女性冒険者は行方不明になったという。

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