第11話 「魔石&襲撃」

 低級とはいえダンジョン攻略を終えた俺たちはへとへとに疲れ切っていた。

 そんな状態で休憩を挟みつつ洞窟の入り口まで戻ってきた俺たちを、一人の男が待ち受ける。


「探したぞ、ガキ」


 フードを目深まぶかにかぶったその男は、乱暴な口調で俺たちに話しかけてくる。

 その声色で察したのか、ステインは背中に下げていた両手斧を取り出す。俺もステインにならって腰の短剣に手をかけた。


 男は、目深まぶかにかぶったフードを脱いで顔をさらす。


「お前は……」


 赤い髪とヒゲを生やした、二日前にぶつかったあのお尋ね者だった。


魔石ませきを返してもらおうか」


 右手を背後に回しながら、男はゆっくりと近づいてくる。

 おびえたルティアが俺の背中にくっついてきて、ステインは両手斧を構えて臨戦態勢を取る。


「魔石? ひょっとしてあの石のことか?」


「とぼけるな、お前が盗んだことはわかってんだ」


「いや、待ってくれよ。盗んだんじゃない、あんたが落としたのを拾っただけだよ」


 慌てて弁解し、俺はズボンのポケットに手を突っ込む。


「ほら、ここに……あれ?」


 中には財布がわりの巾着袋しか入っていなかった。袋を取り出して中をのぞいても、石はどこにもない。


「おかしいな?」


「からかってるのか? それとも馬鹿にしてるのかっ!?」


 逆上した男が背後にやっていた右手を前に出す。ぎらりと光る湾曲した小ぶりなナイフが握られていた。


「待ってくれよ、絶対どっかにあるから……」


 俺は場を繋ぐために嘘をついた。

 あんな大きな石だ。ズボンのポケットにないのなら、もうどこにもないことは感触でわかっていた。


 仕方なく全身についたポケットの布をすべて引っ張り出し、どこにもないことをアピールする。


「悪い、落としたみたいだ。ほら、どこにもないだろ?」


 両手を広げて見せ、敵意がないことを示す。それでも男の表情はますます悪くなっていった。


「ふざけやがって」


 一種即発の空気の中、俺の背中に隠れていたルティアがひょっこり顔を出して、あろうことか男に向かって歩き出した。


「ルティア?」


「なによ? 聞いてたけど、あなたが落としたのが悪いんじゃない。イシュは誰かを騙したりするような人じゃないわ。そんなに大切なものなら、一緒に探してあげてもいいわよ? だから剣を納めて?」


「ルティア、戻れ!」


「それ以上近づくな!」


 俺たちの忠告も聞かず、ルティアは男にぐんぐん近づいていく。

 マジで何考えてんだ。


 子供向けの絵本やアニメじゃないんだ。

 話し合いで解決するなら、初めからこんなことになっていない。


「……はっ、こんな子どもに説得されるとはな。俺も落ちぶれたもんだぜ」


 男はうつむいて、湾曲した刃を下に向ける。話が通じたのだと思い込んだのか、ルティアはさらにその距離をつめようとしている。


「ルティア! 下がれっ!!」


 間合いがナイフのリーチまで縮んだ瞬間、男が顔を上げた。俺もステインも一斉に走り出す。


「──けどな。お前みたいなクソガキは、ぶっ殺すって決めてんだよっっ!!」


 だらりと下がっていた腕が風を切って高く振り上がり、ルティアに迫る。

 湾曲した刃がにぶく光って、ウェーブがかったブロンズの髪を切り裂いた。


「──ルティアァァーーーー!?」

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