第12話 「凶刃&終息」
湾曲した
男は間髪入れずに次の攻撃に入ろうとする。
「きゃっ!?」
ルティアを突き飛ばしたのは装備の重いステインではなく軽装の俺だった。
「ぐっ!」
「ふんっ!!」
「気絶したようだ」
慎重な足取りで歩み寄り、ステインがつぶやいた。
「お嬢様っ!」「ご無事ですか!?」
ルティアの護衛らしき二人の兵士が血相を変えて駆けつけ、事態は終息する。
「──わ、たし……ごめんさい。ごめんなさい……」
半ば上の空で口を開き、ボロボロと涙を流すルティアを除いて。
ルティアの怪我は大したことはなく、服と髪の毛の一部を切り裂かれた程度だったようだ。
それでも精神的なダメージは相当に大きかったらしく、屋敷に運び込まれたあとも心神喪失状態で、誰もいない方へ向いたまま俺の名前を呼んで謝り続けていたという。
医者によると今の状態のルティアに俺を会わせるのは危険だということで、面会できなかった。
それから二週間近くがたったある日、俺は屋敷へ呼び出された。
場所は初めてルティアと会った日と同じ例の広間で、硬質な絨毯を豪奢なシャンデリアと大きな窓から差す光が照らしていた。
「──イシュ・カーナード」
リーベルン侯爵の語気が強いのも当然だ。元を
俺は元貴族としてけじめをつけるため、極刑か、良くても一生牢屋暮らしになるつもりでこの場に
「まずはそなたに、礼を言わなければなるまい」
俺は驚きのあまりひざまづいたまま顔を上げる。
「護衛たちから話は聞いている。そなたの怪我はルティアを
うれしくはなかった。当然だ。
普段温厚なはずの侯爵様が、今は込み上げる怒りを隠そうともしない。愛する娘が襲われたのだ、無理もないだろう。
「だが傭兵いわく、あの一件の原因はそなたにあるそうだな? イシュ・カーナード」
「申し訳ありません。おっしゃる通りでございます」
床に着くほど頭を下げ、俺はいよいよ腹を決める。
金に困っていたとはいえ、元貴族としてのプライドがありながらお尋ね者が落とした品を持ち逃げしたのだ。
首をはねられる覚悟はしなければならない。
「本来なら極刑にしているところだが、話はそう簡単にはいかんようだ」
深くため息をついたあと、侯爵様は重い口を開いて続ける。
「あれからルティアの容態はある程度回復した。回復したが、まだそなたのことをひどく気にかけているようだ。自分を庇って怪我を負ったことを心配していた。私がそなたの処遇を悪くすれば屋敷を出ていくとまで言われた。
……ルティアは、ずいぶんそなたが気に入っているようだ」
「もったいないお言葉です」
俺は話の着地点をただ頭を下げて待つことしかできない。
「医者にも言われたが、今そなたを引き離すとまた精神が不安定になりかねん。よって、イシュ・カーナード、そなたとルティアとの面会を許可する」
「いいのですか?」
「勘違いするな。私はそなたを許したわけではない。形式上不問とするだけだ。面会もルティアのためだ。少しでもおかしな行動を取れば、命はない」
「ありがとうございます」
改めて深く頭を下げ、俺は執事のおじいさんの案内でルティアの部屋へ向かった。
「リーベルン侯爵様のことですが、どうかお許しください」
道中、執事のおじいさんにそう言われて驚いた。
「どういうことですか?」
「侯爵様があぁも不機嫌でおられるのは、ひとえにルティアお嬢様を愛しているがゆえ。今でこそイシュ様に強く当たっておられますが、リーベルン侯爵様はイシュ様に感謝しておられますし、これからもルティアお嬢様の護衛としてそばに置くおつもりですよ」
「そうなんですか?」
「えぇ、ここだけの話ですが」
言いながら執事のおじいさんは人差し指を立てて口元にやる。少しだけ、気持ちが軽くなった。
「着きました」
執事のおじいさんは金の網状の模様がついた上品な扉の横に立った。
「私はここで待っております。もしなにかあれば、迷わずお呼びください」
「わかりました」
俺は扉をノックして、緊張を隠すために少し声を張る。
「ルティア? 俺だ。入っていいか?」
「イシュ!? イシュなの? ……入ってきて」
喜んだ声色がすぐに重く暗いものに変わる。やはり自分の代わりに怪我を負わせてしまったことを気にしているようだ。
「入るぞ」
ルティアはどんな様子だろう? 暗く沈んだ顔をしているだろうか。
寝不足でやつれているかもしれない。たとえどんな姿であっても、顔には出さないようにしよう。
俺は早る
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