第8話 「年齢&傭兵」

「十四? 十四歳? ははっ、まさかな……」


「ちょっと、さっきからなにぶつぶつつぶやいているのよ! 聞こえてるわよ!?」


 ルティアにぐいぐい引っ張られて服のすそがよれよれになってしまっているが、今はそれどころじゃない。


 十四歳? コイツが?


 改めてルティアの全身に視線を落としてみる。


 白くて細い華奢きゃしゃな体に薄い胸板、顔つきも大きな瞳がキラキラ輝いていて、ほっぺたはニキビ一つなく生まれたてみたいにすべすべしている。


 どう頑張っても思春期の女の子には見えなかった。


「なによ? ジロジロ見たりして」


 ルティアは恥ずかしそうに赤くなってうつむき、ひざを擦り合わせる。その姿は一応多感な時期の女の子って感じだ。


 ……会ったばかりのときはそんな素振りなんか見せなかったくせに。


「まぁいいけど。……それで、誰を雇うの? 早く決めてちょうだい」


 気がつくと、酒場全体を見渡せる開けた場所まで歩いてきていたようだ。

 そこではすでに他の冒険者が何人かいて、ぐるりと首を回して傭兵たちのステータスや要求する報酬額を見比べているところだった。


 普通は自分のステータスは自衛のためにクローズ、つまり非公開にするのだが、酒場の傭兵たちに限っては自分の実力を売り込むためにオープンにする。


 それはステータスを見られたくらいでやられるほど弱くないぞ、というアピールでもある。


「うーん、参ったな」


「どうしたの?」


 大きな声では言えないが、今日はハズレだ。


 俺の15レベルから2、3レべ上程度なのに要求する額が異様に高かったり、レベルは高くてもビルドが変だったりと心配になる傭兵ばかりだ。

 朝一番に来たのは失敗だったかもしれない。


 他の酒場へ行こうと振り返ると、思わぬ数字が目に飛び込んできた。


「36?」


 レベル36、ビルドはHPと防御に厚く振った王道のタンク。

 特筆するべきは相手をスタン(行動不能)にさせる物理攻撃のアクティブスキルで低い攻撃力と素早さを補っているところか。


 しかもそのスキルは武器である大ぶりな両手斧に元から付与されていて、自分のスキルポイントを消費していないという徹底ぶりだ。

 防具も素早さを捨てた全身よろいで、頭だけは視界の確保を優先してか顔のよく見えるメットをしていた。


 つまるところ、HPと防御にほとんど全振りしていることになる。要求額が高いし無愛想ぶあいそうだが、これ以上の適任はいないだろう。


「なぁ、アンタ」


 俺が声をかけると、その男はのそりと立ち上がった。

 たるのように大きい胴体から丸太のごとく太い四肢ししを生やしたその男は二メートルに迫ろうかという巨躯きょくだった。

 その迫力に俺もルティアも思わずあとずさってしまう。


 大男は黒い無精髭ぶしょうひげを生やした口元を開く。


「俺を雇いたいのか?」


 通り名を”ステイン”と登録されているその男は、品定めをするように無遠慮ぶえんりょな視線を投げかけてきた。

 ここで引き下がったら他の傭兵たちにもなめられる。そう感じた俺は胸を張り、ステインを見上げる。


「そうだ。二人だけじゃ心もとなくてな。先客がいるのか?」


「いや、いない。が、俺はお前たちに雇えるほど安くないぞ」


 周りの傭兵たちは俺たちの安物の装備を見て笑っていたが、ステインの顔や口ぶりに見下すような色は微塵みじんもなかった。


「大丈夫だ、金ならある」


 言いながら俺は気前良く金貨のつまった大きな袋を手渡した。ステインは受け取った左手に感じた確かな重みからか、中を確認することはしなかった。

 ガサツそうな外見に反して相手への一貫した深い敬意を感じる。


 外見だけで判断しないというのは傭兵としても信頼できる。弱そうで強いモンスターなんてそこらじゅうにいるからだ。


「依頼内容はなんだ? 金が足りていても、内容次第で変わる」


「初心者向けの洞窟ダンジョンの攻略に協力してほしい」


 平静をよそおって告げると、ステインは深くうなずいた。


無謀むぼうな計画ではなさそうだな。……いいだろう、引き受ける」


「やった!」


 手を合わせて喜ぶルティア。俺も思わずガッツポーズをしたくなるのをこらえ、ステインに右手を差し出す。


「俺はイシュ。イシュ・カーナードだ。これからよろしく」


「ステインだ。よろしく頼む」


 俺の拳を丸ごと包み込めそうなほど大きな手でにぎり返され、内心びくびくしながら握手あくしゅを交わした。


 その後同じようにルティアとも握手をしてもらい、パーティー結成のは完了した。

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