第4話 「ルティア&武器屋」

 俺が”光を操るものライトコントローラー”にリビルドしたことを執事のおじいさんが公爵様に伝えたようで、早速呼び出された。

 おじいさんの言っていた通り俺はすぐにルティアとパーティーを組むことになった。


 それも気の早いことに三日後ルティアを連れてダンジョン攻略に行って欲しいとのこと。

 


 ただ、ルティアは少々がんこなところがあるようで、父であるリーベルン侯爵こうしゃくの財力や権力に頼るのが大嫌いらしい。


 そこで侯爵様は俺に傭兵としての前払いの報酬という名目で二万ゴールド(並の商人の月収に匹敵する)を渡し、その金をルティアや俺の装備、傭兵を雇う費用に当てるようにと頼まれた。


 その後別室で待っていたルティアと合流。

 俺たちは早速駆け出しの冒険者たちが通うようなちょっとボロい武器屋へ。


「カーナード様」


 武器屋の入り口を前にして、むすっとした顔でルティアがこちらを向く。


「イシュで構いませんよ」


「……そうですか。ではイシュさん、まさかとは思いますが、ここはお父様の息がかかった武器屋ではないでしょうね?」


 なんて疑い深いお嬢様なんだコイツは……


 さらわれたときに汚れてしまったフリルのロングスカートから動きやすい膝丈の黒のキュロットスカートに履き替えたこともあって、ルティアは無理して背伸びする子どもに見えた。


 もう大人なんだからお父さんの力なんて借りる必要がないとでも言いたげである。見た目は十歳くらいだ。


「まさか。そんなわけないじゃないですか。見てくださいよこの外壁を。めちゃくちゃボロいでしょ?」


 まったく売る気がない商人みたいな口振りで、俺は年季が入ったボロボロの外壁を指さす。ほとんど塗装ががれていて、雑に積み上げたレンガが丸見えになっていた。


「確かに。お父様がこんな今にも崩れそうな武器屋を手配するとは思えませんわ」


 俺も人のことは言えないけど、真顔でこの上なく失礼なことを言うなこの子は。ボロすぎて扉がないこの武器屋は入り口での話し声が店主に丸聞こえになる。


 あとが怖いぞこれは。


「ま、まぁ、そういうことですから! ちゃっちゃと入りましょう、ルティアお嬢様」


 これ以上失言をする前に背中に手を回して中へ押し込む。今度は何が不満なのか、子どもっぽくほほをふくらませるルティア。


「入るのは構いませんわ。でも、その呼び方はやめてくださらない? 私はルティア。ただのルティアよ。お嬢様なんかじゃないわ」


 何言ってんだこのガキ。

 こっちは没落して一般階級になったってのに。


「どうしましたイシュさん? 顔色が優れないようですが」


「なんでもございません! さぁさぁちゃっちゃと武器を選びましょうお嬢様!!」


「ですから、そのお嬢様呼びをやめてくださら──きゃ!?」


 俺は話をさえぎるために重たいヘルメットを選んでルティアにかぶせた。


「これなんかいかがですか?」


 分厚く大きなそのヘルメットはルティアにはぶかぶかで、目元まで隠れてしまっていた。


「なんですの? 前が見えませんわ」


 華奢きゃしゃな体でぱたぱた暴れても視界が晴れない。

 ルティアは頭にかぶせられたヘルメットのせいだと遅れて気づき、ふちを掴んでくいと上にやる。


 すると近くにあった全身の写る鏡を見るなり、ルティアはなぜか飛び上がって喜んだ。


「まぁ、素敵なヘルメットですこと。少しほこりっぽいですが、これなら顔が隠れて私だとわかりませんわね! さすがですわっ」


 きゃっきゃっとはしゃぐその姿を見るに、精神年齢も幼さそうだ。


 顔が隠れてもウェーブがかった明るい茶色の長髪がはみ出しているし普通に雰囲気でわかりそうだが黙っておこう。


「そうですね、あとはその服をもう少し地味な一般庶民の装備にすれば、ルティアお嬢様だとは誰も気がつかないと思いますよ」


 調子を合わせると、ルティアは花が咲くような笑顔を浮かべて喜んだ。

 見た目的に俺より6歳は年下のはずだが、それでもかなりの美人であることに変わりはない。

 高なりそうになる胸をぎゅっとつかんでおさえる。

 いかんいかん。


「だ・か・ら! その呼び方はやめてくださらない!? あと、敬語も外してくださる? あなたのせいで私の身分がバレてしまうじゃない」


「えぇ……そう言われましても。──こうすればいいのか?」


 ためらいがちにつぶやくと、ルティアは驚いた様子で軽くのけぞる。


「おぉ……っ!!」


 なんだか知らないが、感動しているらしい。


「どうかしたか?」


「いえ、なんでもありませ……なんでもない、わ。私も一般庶民の口ぶりにさせていただく、ます」


 だいぶカタコトだが、つっこむと怒りそうなので放置しよう。


「それより、今回は洞窟のダンジョンを攻略するそう、じゃない? あまりお金を持っていないのだけれど、どんな装備が必要なのかしら?」


「あぁ、費用のことは心配しないでくれ。俺が出すから」


 その言葉に反応し、ルティアはギロリとするどい視線を寄越よこしてくる。


「お父様のほどこしなんて受けたくありませんわ!」


 ……面倒くせぇー。


「ち、違いますよ! えーっと、あれです! こういうのは普通経験豊富な傭兵に買ってもらうものなんですよ。報酬の中に装備代も含まれてるんで」


 我ながらかなり苦しい言い訳だ。

 おそるおそるルティアの顔色をうかがう。


「あら、そうなの。ならそうしてもらうわ」


 とくに気にした様子はなかった。思わず、はぁと安堵のため息が出る。

 この分なら多少適当に誤魔化しても通じそうだな。


「そういうことだから、武器や防具は俺が選ぶよ、サイズを確かめたいからルティアもついてきてくれ」


 武器屋にいるというのに装備を選び始めるまでにかなりの時間を食ってしまった。

 後ろを歩くルティアは並べられた装備品を見ていちいち感心している。


 今はご機嫌だが、どうも喜怒哀楽きどあいらくが激しいらしいこのお嬢様はまたいつ機嫌をそこねるともしれない。


 これは思ったより先が長そうだ……

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