第11話 申の男、勝利を確信す

 引き金を引くことでガチリと撃鉄が落ち、轟音とともに発砲された銃弾が目の前の憎い敵を撃ち殺す。

 そう考えていたアンダーソンは手元の違和感に思考が止まった。


(賭けに勝ったぞ)


 違和感とは撃鉄が固くて起こせないこと。

 最後の悪あがきとして砂利でも投げたのかと、アンダーソンも銃に何かが当たったことは認識していたのだが、それで銃が故障する理由に気付くまで、想定外故にしばしの時間がかかるのは仕方がない。

 虎徹が投げていたのは腹を押さえていた右手に隠していた小柄。

 太刀や脇差のような武器とは別に持ち歩く現代風に言えばツールナイフに相当する小刀。

 それを虎徹は一発勝負で拳銃の銃身に投げ貫いた。

 撃鉄を起こす前ということは、銃身と繋がっている弾は空薬莢。

 火薬が爆ぜて銃弾が無くなっているため、一直線の筒になっていた薬莢の中まで小柄が通ったことで、撃鉄を起こそうにもガッチリとロックされたわけだ。

 無論、身体中に纏った拳銃を両手を使って矢継ぎ早に取り替えることで連続射撃を行うアンダーソンのスタイルにとって、この程度は些細なスタン。

 別の拳銃を抜けば良いだけの話ではあるが、虎徹を相手にしてのこの隙は致命となる。


(ナイフ⁉ だがあの傷では連続しての全力は出せまイ。左右をスイッチして、ファニングで……)

(俺の傷を見ているからこそヤツはコレでも自分が優位と思っているハズだ!)


 ナイフに気づいたアンダーソンは左で腰の銃を抜きつつ、右手の銃を虎徹の手を狙い投げつけることで姿勢を崩す。

 半身になって鉄塊をかわしながら間合いを詰めた虎徹も右手を柄に添えると、両手使って斬りつけながらアンダーソンと交差した。

 アンダーソンも負けじと逆構えでの連射披露し、弾道を避けようとした虎徹の振りは甘くなって結果は双方かすり傷。

 そのまま後ろに回られたアンダーソンは振り向きざまに撃鉄を起こしつつ、銃を聞き手である右に持ち替えて寝かせた姿勢で虎徹を狙う。

 それはさながらアクション映画の様に。

 あるいは銃身の先を水平線まで届く刃に見立てて虎徹の喉に突き立てるかの様に。

 腹に銃弾を受けて着物からあふれるほどに血を流している以上、今の交差で発揮したのが最後の力だと推測していたからこそ、それでもまだ止まらない虎徹の底力に彼は遅れを取ってしまった。

 もし狙いをつけることよりも撃つことを優先していたら先に当たって彼が勝っていたかもしれない。

 もし虎徹から離れて銃の利を活かすことを優先していたら、右肩に古傷のある虎徹の投擲が成功した可能性は万に一つもなかった。

 アンダーソンが勝ちうる「もしも」の山を掻い潜った虎徹の切っ先は彼の喉元に突き刺さった。


(あれだけの傷……あれだけの出血デ……まだこれだけ機敏に動けるだト……)

「もう助かるまい。もう喋れまい。だから冥土の土産に教えてやる。お前さんが会心の一撃だと錯覚していた腹の傷はかすり傷だ。それをワザと派手に見せるために、小柄を指して自分で傷口を広げたんだ。正直目茶苦茶痛いが銃弾が当たるよりはマシだし、何よりお前さんが勘違いしてくれたんなら充分に見返りのある傷だ。死ぬ前に言っておこう。お前さんは前回も今回も、相変わらず厄介な相手だった。その力だけで言えば部下に欲しいくらいだったぜ」

(フフフ……野蛮人の手下になるなどお断りサ)


 手首を返して喉を引き裂いたことでアンダーソンは絶命し、これで決着として天覧は幕を閉じた。

 敗者の遺体は降参したときと同様に他所に転送されたのか残っていない。

 戦闘中に投げ捨てた銃だけが残された。

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