第3話 天覧

 スマホの画面をしばらく操作したことで晶が発見した天覧の終了は「相手を殺す」か「降参させる」か。

 キョウトで行われているイクサは12人の参加者が互いの干支※1と命を賭けて戦うというもので、その中でも天覧は自分の干支を失っていない参加者同士が行う一対一の決闘である。

 天覧に限らずイクサの最中に死亡した場合には対戦相手※2に全ての干支が奪われるため当然の決着となるわけだが、降参し自分の干支を譲渡することでも天覧を行う資格を失うため、他者の介入と逃避を防ぐ遮幕※3から開放されるわけだ。


※1 12人の参加者それぞれに割り振られた十二支を表す文字状の痣のこと。右手の甲に示された己の文字と、それを囲う形で追加されていく他の参加者から奪った文字で構成される。

※2 天覧中以外の場合は致命傷を与えた相手に干支が与えられる。

※3 天覧中に周囲を囲う光の壁のこと。遮幕内の第三者はキョート内の無人区画に転移させられる。これは降参し干支を放棄した場合も同様のため降参後は一定期間の安全が保証される。


 さて、無理矢理にイクサなる殺し合いに連れ込まれた晶は目の前で気絶している盲目の男をどうするか悩む。

 先程は殺してもいいつもりで刀を振るったとはいえ、いざ生きているのならば見知らぬ相手とはいえ殺すのは後味が悪い。

 仮に相手が利己的な理由で他人の命を奪い続けていた殺人鬼であると知っていても、私刑ではなく社会的な罰を与えるべきだと感じてしまっているのは21世紀の日本人としては正常な考えであろう。

 だが男の方は住んでいた時代が違う。

 様々な時代からイクサの参加者が集められているキョウトでは現代の常識が相手に必ず通じるとは限らない。

 朦朧としつつも僅かに意識を取り戻した巳はこのまま倒れていても死を待つだけだと、晶が追撃しない理由を考えずに逃げの手を打つ。

 スマホのアプリとして発現した晶とは異なり、盲目に配慮した脳内に直接広がるテレパシー情報として発現した自分の約定書を開いた巳は干支の放棄を申請してイクサを管理する天がそれを受理。

 晶が決断を下すよりも先に遮幕が消えて、このイクサで最初の天覧は幕を閉じた。


 今回のイクサで最初の天覧は巳──梅香の降参で幕を閉じたわけだが、その頃、他の参加者が何をしていたのかに話を移そう。

 子の干支を持つ女子高生──ヘル(本人的には不本意な渾名)は晶のケースと同様にまだイクサや約定書のことを理解していない状態。

 丑の干支を持つ金髪碧眼の女性騎士──ジャンヌ(出身地不明)は羊皮紙型の約定書を広げて天覧を観戦し、「動くのは他人の手札を見極めてからだ」と狡猾な笑みを浮かべた。

 寅の干支を持つ羽織姿の剣士──虎徹(自称)は本型の約定書を通して見た晶の居合斬りに感心して彼女との果たし合いを希望して目を輝かせ、キョウトに来て早々に出会った彼と気が合い隣で酒を酌み交わしていた辰の干支を持つ鼻が高い男──ガルシア(スペイン人)は「いたいけな少女に手を出すのは男として頂けない」と虎徹を諭す。

 その他、午未申戌亥の5人については一先ずは語らずにしておこう。

 最後に酉の干支を持つ痩せぎすの男──主水は顔見知りの敗北を前に、晶を標的に据えて移動を開始した。

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