第16話 卯の少女、目覚める

 メアリの降参による天覧の終了で、労せず彼女の干支を得たガルシアは一人路地に取り残されていた。

 無事に帰ってきた彼の姿に安堵しつつも、まだ体調は不完全かと自分の具合に歯がゆい顔をする虎徹。

 そのうえ隣には無防備に眠り続けている少女が一人と、思い返せばどういう一団だとさえ彼は思う。

 ガルシアとの共闘はあくまで口約束。

 最後には褒美を賭けて戦う敵同士なのに何故徒党を組んでいるのかと。


「その様子だと女の方が降参したか。結局のところ、あの女とお前はどういう関係だったんだよ」


 だがそんな疑問は押し殺して、戻ってきたガルシアを虎徹は出迎えた。

 酒宴で気を通わせた友として。


「彼女は生き別れていたボクの伴侶サ。だからボクのコレを代金に虎徹には一仕事お願いをしたいのだが……身体の具合は大丈夫かナ?」

「大事な女だということはわかったし、干支を駄賃に手を貸せっていうのは納得できるが……何が『だから』なんだ? 話が繋がらん」

「ひとまずはこれを見てくレ」


 そう言うと説明のためにガルシアは約定書の地図を広げた。

 最大の縮尺で彼が指し示したのは遠く離れた位置にいる犬のアイコンと、それに向かって移動する猪のアイコン。

 地図上には海賊としての直感に頼るまでもなく想像通りに無情による狩りの様子が映し出されていた。


「このイヌのアイコンが彼女のモノで、こっちのブタがさっき彼女を操ったムジョウとかいう男のモノ。見ての通り目まぐるしい速さで彼女に近づいているんダ。このままではメアリが危なイ」

「急にムジョウだとか、操っていたとか言われても困るぞ。それにこっちの娘は捨て置く気か? ただでさえ俺もさっきの傷があって本調子じゃない。この娘を抱えて行くのは無理だ」

「今はメアリが最優先。だから彼女には悪いがここに捨て置くヨ」

「そこまで言うのなら俺はお前に手を貸すぜ」

「グラシアス」

「決まりだな。ところで嬢ちゃん……お前さんはどうする?」

「もちろん私も同行させて」

「え⁉」


 虎徹の振りに対して返事をした晶の声にガルシアは驚く。

 ガルシアは彼女が目覚めていないと思っていたのもあるが、それ以上に「見捨てる」と言い切ったばかりということもあり。


「私の話は走りながらで良いから早く助けにいきましょう。多分このままじゃあの人──」


 焦るガルシアを急かしたのは寝起きの晶。

 彼女が言うままに三人はメアリの居る場所を目指して池田屋を発つ。

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バトルシティ・キョウト どるき @doruki

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