因習の果てに本物の夫婦に成る

刀根田村は、八千矛神(やちほこのかみ)という独自の神を祀っている。十年に一度だけは生きた贄を捧げなければならない――そんな恐ろしい因習からこの物語ははじまります。
自らの命を惜しむことなくその儀式に臨む、儚げな美しさを持ちつつも盲目の椿は、その『神』に魅入られ、封印を解いてしまいます。

『神』と呼ばれていた存在の名は、朧。
彼の手を取り、ふたりはあてのない旅に出ます。もうヒトではなくなった朧と椿は、それでもお互いを想い、外の世界を一緒に見ていきます。

ふたりで見る景色は、何よりも美しい。
お互いを愛して、手を繋ぎ、共に歩いていく。
そんな当たり前の夫婦の在り方を静かに語ってくれるこの物語は、不可思議な存在すらも愛おしく心に響かせてくれます。

そして、脳に直接語り掛けてくるような情景描写の美しさもまた、素敵です。
是非この異種婚姻憚を読んでみませんか。

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