第13話 魔力解放
(まさかこれに自分から魔力を流し込む日が来るなんて……)
吸魔石を手にしたレノは自分の意思で魔力を流し込むことに躊躇い、今までは吸魔石から魔力を奪われないように生活してきただけに戸惑うのも無理はない。だが、アルはどうしても彼に魔力を送り込む作業をさせる必要があった。
(今のこいつの魔力量ならもしかしたら……)
アルがレノに魔力を送り込ませようとしているのは理由があり、半年前の彼では試すことができなかった術を授けようとしていた。これまで試さなかったのは半端な魔力では真似はできず、下手をしたら命を落とす危険性もあったので教えるのを先延ばしにしてきた術だった。
「さあ、やれ!!全力で送り込むんだよ!!」
「うおおおおおっ!!」
師匠の言葉通りにレノは吸魔石を両手で掴んだ状態で魔力を一気に流し込もうとした瞬間、吸魔石だけではなく両手にも変化が起きていた。急激に魔力を流し込まれた吸魔石は閃光のように光り輝く。
吸魔石は魔力を吸い上げるために開発された特殊な道具だが、一度に吸い上げられる量には限界が存在する。もしも限界を超えた魔力が注ぎ込まれた場合、吸魔石は崩壊してしまう。レノが半年の間に増大させた魔力を送り込んだ瞬間に吸魔石は砕け散ってしまう。
「うわっ!?」
「やっぱり……やりやがったね、このガキ!!」
吸魔石が砕けたことで光は収まり、レノは自分の両手を見て驚愕した。吸魔石が砕けたにも関わらずにレノの掌から光が放たれ、それを見たアルは興奮気味にレノの両手を掴む。
「こいつは魔光だ!!はは、大したもんだな!!」
「ま、魔光?」
「この光は魔力その物さ。体外に魔力を放出すると光り輝くんだよ!!」
アルによればレノの両手は魔力を放出し続けており、吸魔石に魔力を送り込む際にレノは体外に魔力を放出する感覚を掴む。その結果、両手から魔力が放出されて「魔光」と呼ばれる現象が起きた。
魔光とは名前の通りに魔力が放つ光その物であり、今のレノは魔力を放出させている状態だった。今の所はただ光を放つだけだが、魔法を覚えるためには必ず覚えなければならない術の一つである。
「魔光が出せるようになったということはお前は自分の魔力を解放する術を覚えたことの証明だ。魔法を覚えるためには必ず習得しなければならない技術の一つだ」
「そ、そうなんですか?」
「魔法ってのは体内の魔力を実体化させて攻撃を行為だ。だから魔力を身体の外に放出させる術を身に付けなければ魔法なんて覚えられないんだよ。つまり、これでお前は魔法を扱う準備が整ったわけだ」
「準備?」
レノはアルの言葉を聞いて両手を見つめ、今までに感じたことがない感覚を抱く。吸魔石に触れていないのに魔力を体外に放出できるようになり、アルによればあと少しでレノも魔法が扱えるようになるらしい。
「いつまでも魔力を放出しているとぶっ倒れるよ。さっさと元に戻しな」
「えっ!?ど、どうやって……」
「吸魔石から魔力を奪わないようにあれだけ特訓してきただろ。魔力を体内に収めればいいだけだよ」
「あ、なるほど」
言われてみてレノは体内に魔力を留める術を思い出し、掌から放出されていた魔力を抑えようとする。すると両手から放たれていた魔光が消え去り、元の状態へと戻った。
「これでお前は魔力を体内に留めること、逆に魔力を解放する術は覚えたわけだ。そして魔法を使えるだけの十分な魔力量もある。あとは自力で魔法を覚えろ、ここから先は私が協力できることは何もないからね」
「でも師匠……」
「何度も言ってるが私はお前に魔法を教えることはできない。エルフの魔法は人間のお前がどんなに頑張っても習得できないんだよ……だが、逆に言えば人間にしか覚えられない魔法もあるはずさ」
本当に自分が教えることはなくなったアルはレノの両肩を掴み、ここから先は一人で考えて魔法を習得するように促す。
「私から教えることはもう何もない。あとは一人で頑張りな」
「師匠……ありがとうございました!!」
「ほら、家に帰るよ」
レノに頭を下げられたアルは照れ隠しする様に彼を連れて家へ戻った――
――アルのお陰でレノは遂に魔法を扱うための準備を全て整え、この半年の修業で魔法に必要不可欠な魔力を操作する術を完璧に身に着けた。遂にレノは本格的に魔法を覚えるために魔法書を開く。
「これを読むのも久しぶりだな……よし、やるぞ!!」
修業に専念するためにレノはアルから指導を受けている時は魔法書を読むような真似はしなかった。だが、修行を終えたことで遂に魔法を覚える準備は全て整えた。
魔法書を開いてレノは真っ先に開いたのは最初に記されている「付与魔法」なる魔法だった。魔力を操れるようになった今の自分なら魔法を覚えられると信じて付与魔法の習得方法を調べる。
「えっと、付与魔法とは物体に魔力を宿す魔術の一つであり……えっと、どういう意味だ?」
年齢的にはまだ子供であるレノには物体に魔力を宿すという表現は難しく、悩んでいると前に読んだ絵本を思い出す。
「う〜ん……そういえば昔読んだ絵本に剣に炎を纏わせて戦う剣士の物語があったな」
小さい頃に読んだ絵本の中に魔法の炎を剣に纏わせて戦う剣士の物語を読んだ事があり、剣士は「魔法剣」と呼ぶ剣技で悪役と戦っていた事を思い出す。もしかしたら付与魔法とは剣士が扱っていた魔法剣と似たような魔法かもしれないとレノは考えた。
「えっと、まずは付与魔法を覚えるためには……魔術、痕?」
魔法書には付与魔法の習得方法も記されていたが、その内容は「魔術痕」なる紋様を身体に刻む必要があると記されていた。魔法書には魔術痕を刻む際には特別な材料が色々と必要らしく、今すぐに覚えるのは難しそうだった。
「えっと、とりあえずこの魔術痕を刻まないと魔法を覚えられないのか……師匠に相談すれば材料集めを手伝ってくれるかもしれないけど、今すぐに覚えるのは難しそうだな……ん?何だこれ?」
付与魔法を覚えるには時間が掛かりそうであり、まずは材料を集める必要があった。少し面倒に思ったレノは本を捲って他の魔法のことを調べようとした時、不意に気になる文章を確認した。
「何だ?この魔力感知って……」
付与魔法よりも前の頁に「魔力感知」なる文章が記されており、名前の通りに魔力を感知するための技能らしい。アルの修業では習わなかった技術のためレノは興味を抱く。
「へえ、自分以外の生物の魔力を感知できるようになるのか。これって覚えたら便利そうだな」
魔力感知という名前の通りに他の生物が放つ魔力の波動を感じ取り、離れた場所にいる相手でも魔力を感知して正確な位置が掴めるようになるらしい。アルから教わっていない技術が書かれていることにレノは興奮する。
(もしかして師匠も知らない技術なのかも……よし、魔法を覚える材料を集めるのには時間が掛かりそうだし、まずはこっちを先に覚えておくか)
レノはアルからも教わっていない新しい技術を身に着けることを決め、魔法書を読んで魔力感知の習得法を調べる――
――この時にレノがもしも魔力感知の技能を覚えようとしなかった場合、彼の運命は大きく変わっていた。
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