第41話 奪われた金品

――村人はレノが冒険者だと信じ込み、村を救ってくれた礼として村長の屋敷に招いた。ゴブリンの群れに襲われていた屋敷が村長の家だったらしく、ダインとハルナも交えてレノは村長から話を聞く。



「少し前から村の外でゴブリンを見かけるようになったので、我々は冒険者様を雇ってゴブリンの駆除を依頼しました。ゴブリンを放置すると農作物を荒らされる危険もあるので有名な黒虎の冒険者様に依頼したのですが……」

「黒虎?」

「僕達が所属している冒険者ギルドの名前だよ。この地域では一番有名なんだぞ」

「私は最近入ったんだ~」



話の途中でダインとハルナは冒険者バッジを取り出し、バッジには名前の通りに「黒色の虎」の紋様が刻まれていた。冒険者といっても複数の組織に分かれており、二人が所属するのは黒虎という冒険者ギルドだと判明する。


村長は村の近くで現れるようになったゴブリンの討伐を黒虎に依頼した所、ダインとハルナが派遣されたらしい。最初はどう見ても子供にしか見えない二人組に不安を抱いたが、この二人のお陰で村の人間はゴブリンに襲われる前に屋敷に避難できたという。



「御二人がゴブリンの注意を引いてくれたお陰で殆どの村人はこの屋敷に避難させることができました。本当にありがとうございます」

「ま、まあ、僕達がいればゴブリンぐらいどうってことないからな」

「でも……全員は助けられなかったね」

「それは仕方ありません。あまりにもゴブリンの数が多すぎたのですから……」



ダインとハルナがゴブリンの群れの注意を引いてくれたお陰で殆どの村人は助かったが、避難に遅れた者は死んでしまった。レノは村の出入口で兵士が死んでいるのを確認しており、ゴブリンの群れが襲撃した時に真っ先に殺されたのは彼等だろう。



(村を守っていた兵士だけが死んだのか……ん?)



死んだのは村を守護していた兵士だけだと知ってレノは引っかかり、どうしてゴブリンはわざわざ武装している兵士だけを殺して他の村人は取り逃がしたのか気になる。村長によればダインとハルナのお陰で村人は助かったらしいが、相手は30匹を超える数のゴブリンである。いくらなんでも二人だけで村人を守りきれるとは考えにくい。



「死んだ人たちは何人ぐらいいるんですか?」

「4人です。全員が兵士でこの村を守るために最後まで戦ったようです……ううっ」

「お、お爺さん……泣かないで」

「くそっ、もっと人手があれば全員救えたかもしれないのに!!」



死んだ人間のことを思い出したのか村長は涙を流し、その様子を見てハルナは心配する。ダインも悔し気な表情を浮かべるがレノは話を聞いていて気になった。



(30匹のゴブリンに村が襲われて死んだのが4人だけ?しかも全員が兵士だなんて……いったいどういうことだ?)



ゴブリンは魔物の中でも知能が高いため、武器を持つ相手を見れば警戒する。だから武装した人間とそうでない人間を見かけた場合、真っ先に危険度が低い人間を狙うはずだが、この村を襲ったゴブリンは武装した兵士だけを殺した事にレノは違和感を抱く。


森の中でレノは何百匹のゴブリンを退治してきただけにゴブリンの生態には詳しい。だからこそ村を襲ったゴブリンの不可解な行動に疑問を抱いたて被害状況を詳しく尋ねる。



「他のゴブリンの被害は?家畜とかは無事なんですか?」

「残念ながら家畜は屋敷に避難させた動物以外は全滅していました……ですが、少し気になることがあるのです」

「気になること?」

「実は家に戻った人間の中から金目の物がなくなっているという報告がいくつも届いています。金品だけではなく、装飾品の類も……」

「それは本当ですか!?」



村長の話を聞いてレノは驚きを隠せず、彼の反応を見てダインとハルナは戸惑う。



「ど、どうしたんだよ急に……ゴブリンが家を荒しただけだろ?」

「それがおかしいんだよ!!」

「ど、どういう意味?」

「ゴブリンが金目の物を奪うなんて普通は有り得ない!!あいつらは金の使い方も分からないんだから!!」



盗賊ならばともかく、野生の魔物であるゴブリンが金目の物を奪う必要性はない。ゴブリンは人間と襲う理由は餌と認識しているからであり、人間が作り出した道具など興味を持たない。武器などの類ならばまだ納得もできるが、金の使い方も分からないゴブリンが金品を奪うなど有り得ない。


人間と違ってゴブリンは着飾る趣味もなく、装飾品の類も奪っても身に着けることはない。むしろ装飾品など身に着けて生活していたら悪目立ちするだけであり、その手の類の道具は無視する。それなのに村を襲ったゴブリンは金品だけでは飽き足らずに装飾品まで奪っていた。



「被害にあった人たちに会わせてください!!話を聞きたいんです!!」

「は、はい!!」



レノの頼みで村長は急いで被害に遭った村人を集めた――






――聞き込みの結果、村長を除いた村人全員の家で被害があったことが判明した。村中の家の金品や装飾品が盗まれており、それを聞いたレノは噂通りに魔物使いがゴブリンをけしかけて村を襲ったのだと確信した。


金品や装飾品が奪われていなければ野生のゴブリンの群れが人間の村を襲った可能性も残ったが、人間以外に金品や装飾品を奪う存在はおらず、昼間にレノが追い払ったゴブリン達は魔物使いに使役された魔物だと確定する。


最初から魔物使いの存在を知っていれば、ゴブリンを捕まえて魔物使いの居場所まで案内させることもできた。しかし、既に村からゴブリンを立ち去った以上は追いかける手段はない。



「くそっ、もっと早く気付いてれば……」

「まさか本当に魔物使いの仕業だったなんて……」

「ど、どうしよう……」



レノはダインとハルナに村を襲ったゴブリンの群れは魔物使いの使役する魔物である可能性が高いことを話すと、二人は意外と簡単に信じてくれた。冒険者である二人も魔物の生態には詳しく、ゴブリンの特徴を知っているが故にレノの話を聞いて納得した。



「どうして今まで気づかなかったんだ……普通に考えたらゴブリンが金目の物を奪うなんてあり得ない話だよな」

「今から探しに行くの?」

「いや、それは駄目だ……奴等がまた仲間を連れて戻ってくるかもしれない。そうなったらこの村の人たちは危ない」



30匹近くいたゴブリンは殆どがレノが始末したが、何匹かは逃げられてしまった。逃げたゴブリンが魔物使いの元に戻れば村への襲撃が失敗したことは伝わり、もしかしたら魔物使いが再び魔物を送り出す可能性もある。


村中のゴブリンの死骸を調べたところ、村人から奪った金品や装飾品を所持するゴブリンは見つからなかった。レノが訪れる前にゴブリン達は金品や装飾品を奪い取ったゴブリン達はいち早く村を離脱し、魔物使いの元へ戻っていたと考えられる。つまりは村を襲撃した時点ではレノが倒したゴブリンの他に大勢のゴブリンが加わっていたと考えられる。



「二人の他に冒険者は来ないの?」

「来ないよ。こんな草原でゴブリンの討伐の仕事を任せられるようなのは落ちこぼれの僕らだけだよ」

「え?落ちこぼれ?」

「ううっ……」



ダインの言葉にハルナは落ち込み、自分で口にしたダイン自身も深いため息を吐き出す。

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