第42話 落ちこぼれ冒険者
「落ちこぼれってどういう意味?」
「そのままの意味だよ……僕は冒険者になってから2年も経ってるのに未だに昇給してないんだ」
「私も冒険者になってから一度も依頼を達成してない……」
「えっ!?あんなに強いのに!?」
レノはダインとハルナと戦ったからこそ二人の能力の高さを知っていた。ハルナはレノが足元にも及ばないほどの怪力を誇り、しかもエルフのアルを越える魔力を持ち合わせていた。ダインは影魔法なる変わった魔法を扱い、拘束されたレノは手も足も出なかった。
ハルナの身体能力とダインの影魔法の凄さを知っているだけにレノは二人が落ちこぼれと聞いて信じられなかったが、もしも二人が優秀な冒険者だとしたら今回の依頼も任されることはなかったという。
「こんな草原に囲まれた村でゴブリンの討伐の依頼なんて、本当なら新人の冒険者がやる仕事なんだよ……ゴブリンのことに詳しいならお前も知ってるだろ?草原に出向くようなゴブリンは群れから追い出された落ちこぼれぐらいだって」
「それは……まあ、聞いたことはあるけど」
ダインの話を聞いてレノはアルから教わった話を思い出す。レノが知っているゴブリンの生態は元々は彼女から教わった情報であり、草原などに稀に現れるゴブリンは群れから追い出された弱いゴブリンだと聞いたことがある。
本来はゴブリンは森や山などに生息する種であり、草原などに住み着くことは有り得ない。それなのに草原に出向いているゴブリンが居た場合、そのゴブリンは群れから追い出されたゴブリンだと確定する。能力が低すぎるために同族からも疎まれ、居場所を失ったゴブリンは住処を離れるしかない。だから本来ならばゴブリンが現れない場所にゴブリンが発見された場合、そのゴブリンは自分の縄張りも守り切れない弱いゴブリンを意味する。
「僕も何度か草原に出没したゴブリンを始末したことがあったけど、あいつらは本当に魔物かと思うぐらいに弱いんだよ。普通のゴブリンなら人間を見た瞬間に襲ってくるはずなのに、草原に住み着くゴブリンは人間を見ただけで逃げ出すんだ……だから草原に現れるような弱いゴブリンは新人の冒険者でも簡単に狩れるんだよ」
「そうだったのか……でも、どうしてそんな新人の冒険者が任せられる仕事を引き受けたの?」
「引き受けたんじゃなくて押し付けられたんだよ!!しかも依頼を達成できなかったら僕達は首にするって言われてるんだ!!」
「えっ!?」
「そ、そうなの!?」
「いや、何でお前まで驚いてるんだよ!?」
ダインの話を聞いてレノは驚くが何故か隣でハルナも驚愕し、そんな彼女にダインは突っ込む。
「僕達は冒険者の中でも崖っぷちに立たされてるんだよ!!だから今回の依頼だけは絶対に失敗できなかったのに……ああもう、こんなの終わりだよ!!」
「まあまあ……依頼内容はゴブリンの討伐でしょ?それなら俺が倒したゴブリンを二人が始末したことにすれば大丈夫じゃないの?」
「えっ!?い、いいのか!?」
「でも、私達は何もしてないのに……」
事情を聞いたレノは自分が倒したゴブリンに関しては二人の手柄にすることを提案する。その話を聞いてダインは顔を輝かせるが、ハルナは申し訳なさそうな表情を抱く。
「う〜ん……やっぱり駄目だよ。私達は村の人たちを守るのに精いっぱいでゴブリンを倒してないし、嘘を報告するのは駄目だと思う」
「でもゴブリンを倒したことにしないと二人は首になるんでしょ?」
「そうかもしれないけど……でも、嘘を吐いてまで冒険者で居続けたいと思わないよ」
「うっ……そ、そんなこと言ってもこのままだと僕達は首になるんだぞ!?ハルナだって首になった嫌だろ!?」
「そ、それはそうだけど……」
「まあまあ、落ち着いて」
言い争いを始めそうになる二人を宥めながらレノは今までの情報をまとめる。ダインとハルナは元々はゴブリンの討伐のために雇われた冒険者だったが、予想以上のゴブリンの群れに対処しきれずに村人を守るために行動に出た。結果から言えば二人は村人を守りきったのも事実である。
ゴブリンの討伐自体は果たせなかったが二人が居なければ今以上に被害が酷かったはずであり、そのことを村長に証明してもらうのはどうかと話す。
「今回の依頼は達成できなかったかもしれないけど、村長さんに頼んで二人が村人を守るために頑張ったことをギルドの人に伝えてもらったらどうかな?」
「そ、そうだよ!!それならもしかしたら……」
「駄目だ、うちのギルドマスターはそんなに優しい奴じゃない!!」
レノの提案を聞いてハルナは顔を輝かせるが、ダインは首を振った。二人が所属するギルドの長は事情があったとしても依頼を果たせなかった人間には相応の罰を与える厳しい人間らしい。
今回の依頼を失敗すればダインとハルナは冒険者を辞めさせられるため、何としても依頼を達成する必要があった。だが、肝心のゴブリンはレノが倒したが故に二人は依頼を果たせない。事情を知らなかったとはいえ、自分のせいで二人が職を失うことにレノは罪悪感を抱く。
「な、なんかごめん……俺にできることがあったら協力するけど」
「別に謝らなくてもいいよ。お前が来なかったら僕達もやばかったし……」
「そうだよ。レノ君のお陰で私達は助かったんだから気にしなくていいよ~」
ダインもハルナも村人を守るのが精いっぱいでゴブリンを討伐する余裕はなく、もしもレノが村に来なかったら今頃はゴブリンの群れに村人と共に襲われていた可能性もある。だから二人はレノを恨む理由はないが、話を聞いてレノは一つだけ気になった。
(村人を守るために屋敷に引きこもっていたとしても、この二人の強さならゴブリンなんかに負けるとは思えないけどな……)
実際に戦ったからこそレノはダインとハルナの実力ならばゴブリン程度の相手に後れを取るとは思えない。ダインの影魔法に拘束されたらゴブリン程度では抵抗できず、ハルナの怪力ならばゴブリンなど簡単に蹴散らせるはずである。それなのに二人が冒険者としては落ちこぼれと聞いて納得できない。
(何か他に秘密があるのかな……)
二人が落ちこぼれだと言われる理由が他にあるのではないかとレノは考えていると、部屋の中に慌てた様子で村人が入ってきた。
「た、大変です冒険者様!!」
「うわっ!?な、何だよ急に!?」
「ど、どうしたの!?」
「何かあったんですか?」
ノックもせずにいきなり部屋に入ってきた村人にダインとハルナは驚くが、レノは何が起きたのかを尋ねる。すると村人は酷く焦った様子で窓を指差す。
「ま、魔物が……魔物が村の中に隠れていたんです!!それで子供が一人攫われて……」
「何だって!?」
「さ、攫われた!?」
「そんな……くそっ!!」
村人の話を聞いてレノ達は外へ飛び出すと、子供が攫われた現場へと向かう――
――子供が攫われたのは村長の屋敷の近くであり、攫われた子供は村長の孫だった。どうやらレノが仕留めそこなった魔物が隠れていたらしく、屋敷の屋根の上で子供を抱えた状態で立っていた。
「ギィイイッ!!」
「うぇええんっ!!助けてお爺ちゃん!!」
「ま、孫を離せっ!!」
「駄目です村長!!迂闊に近付いたら……」
屋根の上でゴブリンは子供を踏みつけて村人達を見下ろし、村長は孫を助けようとするが他の村人に止められた。不用意に近づけば何をされるか分からず、村人達は必死に村長を抑える。
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