第44話 追跡

(まだゴブリンが居たのか!?でも様子がおかしい……確かめてみるか?)



村人の観察を行うゴブリンを発見したレノは地上へ降りると子供を解放し、ひとまずは気付かないふりを行う。ゴブリンに気付かれないようにレノは魔力感知を発動して魔力を捉えて置く。



「こ、怖かったよ……お爺ちゃん!!」

「ああ、良かった……冒険者様、孫を助けてくれてありがとうございます!!」

「いえ、気にしないでください……」

「お前、本当に凄い奴だな!!魔物使いなんかと疑って悪かったな!!」

「さっきの格好良かったよ~!!」



レノの元に村長が駆け寄り、彼は孫を抱き寄せて涙を流す。ダインとハルナも駆けつけてレノの背中を叩き、そんな二人にレノは耳打ちする。



「油断するな……まだゴブリンが近くにいる」

「ええっ!?」

「な、何だって!?」

「しっ……俺達が気付いているのを勘付かれたら逃げられるかもしれない。今は知らないふりをするんだ」



ダインとハルナはレノの言葉を聞いて驚くがすぐに彼の提案を受け入れ、ゴブリンに気付かないふりを行う。レノは二人の傍で目を閉じて魔力感知に集中する。



(まだ動いていない。俺達が気付いていないと思ってるみたいだな……よし、こっちから動いてみるか)



ゴブリンが場所を移動していないことを確認するとレノはダインとハルナに目配せしてゴブリンの位置を教える。二人はゴブリンが隠れている場所を知ると驚く。



「ほ、本当に居た……くそっ、あいつ!!」

「駄目だ、下手に近付いたら逃げられる……それよりもあいつの様子を観察しよう」

「え?どうして?早く倒した方が安全なのに……」

「多分だけど、あいつは魔物使いの手下だ。俺達を観察してるのは主人に情報を持ち帰るためだよ」



レノの言葉にダインとハルナは驚き、既にレノはゴブリンの正体が魔物使いとやらが使役する魔物だと確信していた。野生のゴブリンならば人間を前にして大人しくするはずがなく、普通ならば仲間を殺された時点で激高して襲い掛かるか、あるいは逃げ出しているはずである。


ゴブリンが人を襲わずに観察を続けている理由があるとすれば何者かに命令され、村の様子を確認しに来たとしか思えない。だからレノは敢えてゴブリンを泳がせ、敵の親玉の居場所を確認するつもりだった。



「ゴブリンは俺が見張っておくから二人は普通に接していて……あいつが村から離れたら後を追いかけよう」

「だ、大丈夫なのか?見失ったらどうするんだよ」

「平気だって……あいつの魔力の光はもう覚えたから」

「光?」



レノの魔力感知は昔よりも研ぎ澄まされており、今のレノならば特定の生物の魔力を捉えることもできる。アルの修業のお陰でレノは魔力を光として見出せるようになり、決して見失うことはない。


ゴブリンが逃げ出したとしてもレノの魔力感知の範囲内ならば位置を特定できるため、離れた場所に居ても位置は捉えられる。レノはゴブリンを敢えて泳がせて様子を観察した――






――しばらくの間はゴブリンに動きはなかったが、村人達が自分の家に戻り始めると流石に隠れてはいられずに動き出す。ゴブリンは村の外に向かっていることを確認するとレノとウルは後を追いかけようとした。だが、二人の元にダインとハルナも訪れる。



「えっ?二人も来るの?」

「クゥンッ?」

「当たり前だろ!!本当に魔物使いの奴がいるなら僕達の手で捕まえてやる!!そうすれば依頼失敗の件もチャラになるかもしれないし……」

「あの村を襲ったのは悪い魔物使いさんの仕業なんだよね?なら放っておけないよ!!」



レノはウルと共に追跡を行うつもりだったがダインとハルナも同行する意思が固く、結局は二人も一緒に村から離れたゴブリンの後を追いかける。時刻は夕方を迎えており、暗くなり始めているので追跡には最適の時間だった。



「ゴブリンは……こっちだ」

「ほ、本当にこっちにいるのか?なんでそんなことが分かるんだよ」

「何でって……魔力感知だよ。ダインも魔術師ならできるでしょ?」

「魔力感知!?お前そんな技術まで覚えてるのか!?」

「まりょくかんち?」



ダインはレノが魔力感知を扱えるとしって驚愕し、隣にいるハルナは首を傾げる。レノはどうしてそんなに驚いているのか不思議に思うが、ダインによると魔力感知は魔術師でも滅多に覚えている人間はいないことが発覚する。



「魔力感知は高等技術だぞ!?腕のいい魔術師でも覚えるのに数年はかかると言われてるのに……」

「え?そうなの?」

「お前、本当に何なんだよ。魔術師の癖に凄い弓の腕前だし、魔力感知まで使えるなんて……まるでエルフみたいだな」

「まあ、俺の師匠はエルフだから……」

「え~っ!?本当に!?」

「馬鹿!?声が大きい!!」

「ウォンッ!?」



何故かレノの師匠がエルフだと知るとハルナは大声をあげて驚き、慌ててダインは杖でハルナの口元を塞ぐ。レノ達から数十メートル離れた場所をゴブリンが移動しており、慌てて三人とウルは身体を伏せて身を隠す。



「ギギィッ!?」



草原を移動していたゴブリンはハルナの声を耳にして振り返るが、時刻は既に夕方を越えて夜を迎えていた。暗闇であったことが幸いしてレノ達の存在に勘付くことはなく、気のせいかと判断してゴブリンは先を急ぐ。それを確認したレノ達は安心した。



「あ、危ない……もう少しで気付かれるところだった」

「この馬鹿、気づかれたらどうするんだ!?」

「だ、だって……レノ君の師匠がエルフさんだって言うから」

「そんなの冗談に決まってんだろ。人間嫌いのエルフが弟子なん取るわけないだろ……お前もこんなときに冗談なんて止めろよ」

「いや、嘘じゃないけど……」

「ウォンッ」



ダインはレノがエルフから教わったと聞いても全く信じず、世間ではエルフは人間を嫌う存在として有名だった。レノを拾ったアルは子供である彼を見捨てることができずに育ててくれたが、普通のエルフはそもそも人間を毛嫌いしている。


緑の自然を愛するエルフにとっては人間ほど自然を破壊する生き物はおらず、だからこそエルフの大半は人間を嫌っていた。そんなエルフが人間を育てて弟子に取るなど普通は有り得ない話のため、ダインはレノの話を信じない。しかし、ハルナは興味深そうに聞いてくる。



「ねえねえ、本物のエルフさんの話を聞かせてよ~」

「いや、今はそんなことを話してる場合じゃ……」

「だから声がでかいって……気付かれたらどうするんだ」



追跡中にも関わらずにハルナはレノからエルフの話を聞きたがるが、今はゴブリンの後を追うことに集中しなければならない。ゴブリンは今の所は気付いていない様子だが、もしも勘付かれたら始末しなければならない。。



(流石にこれ以上に近付くとまずいな……うっ、魔力感知を使いすぎて頭が痛くなってきた)



魔力感知の技術は精神に負荷を与えるため、短期間に何度も使用すると頭痛を引き起こす。これ以上に無理をすれば意識を保つどころではなく、レノは頭を抑えるとウルが擦り寄ってきた。



「クゥ〜ンッ」

「大丈夫だよ。これぐらい……」

「お、おい。お前、顔色が悪いぞ……大丈夫か?」

「気分が悪いの?少し休もうか?」

「本当に平気だって……」



頭を抑えながらレノはゴブリンを伺うと、主人の元へ戻ろうとしているのかゴブリンは駆け出し始めた。それを見たレノは後を追いかけようとした時、ウルが彼の前に移動して抗議するように鳴き声を上げる。

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