第55話 サンドワーム
「グルルルッ……!!」
「ウル、敵が近くにいるのか!?」
「そ、そんなはずないだろ!!こんな見通しの良い場所ならゴブリンが来てもすぐに分かるだろ!?」
「くくく……俺の手下がゴブリンだけだと思っているのか!?」
「なっ!?」
セマカの言葉にレノはセマカと戦った際、ゴブリンとホブゴブリンだけしか従えていなかったので彼が他の魔物を従えているとは考えもしなかった。しかし、どんな魔物を従えていようと見晴らしの良い場所ならば敵が何処にいるのか分かるはずだった。
「ウル!!臭いはどうだ!?」
「スンスンッ……クゥンッ」
「ど、どうしたんだよ!?」
「もしかして分からないの?」
レノの言葉にウルは鼻先を引くつかせるが首を振る動作を行い、野生の狼よりも優れた嗅覚を持つウルの鼻でも魔物の臭いは感じ取れないらしい。だが、セマカだけは自分の元に魔物が近付いているのをはっきりと感じていた。
「どうした?俺の魔物はもうすぐそこまで来ているぞ!?」
「は、はったりだ!!何処にもいないじゃないか!?」
「すぐに分かる……ははははっ!!」
「こいつ……」
縛られて自由に動くこともできないのにセマカは余裕の態度を取り、そんな彼にレノは弓を構える。どんな魔物が近付いて来ようと昨日と同じようにセマカを人質にすれば彼に従う魔物は襲ってこない。
魔物が現れる前にレノはセマカに近付こうとした瞬間、唐突に地面に振動が走った。最初は地震かと思ったがセマカの後方の地面が盛り上がり、それを見てレノはセマカに一番近い位置に居たハルナに声をかける。
「ハルナ!!そいつを捕まえろ!!」
「ふえっ!?」
「もう遅い!!出て来い!!」
レノに声をかけられたハルナはセマカに振り返ると、既にセマカは地面が隆起した場所に向かっていた。地中から何かが現れようとしていることに気付いたレノは弓を構えると、姿を現わしたのは巨大な土気色の生物だった。
――ギュロロロッ!!
地上に出現したのは巨大なミミズのような姿をした化物であり、普通のミミズと異なる点は口元に鋭い牙を生やしていた。レノも初めて見る魔物であり、ダインは唖然とした表情で声を漏らす。
「サ、サンドワーム!?」
「ふはははっ!!どうだ、恐れ入ったか!!」
「ギュロロロッ!!」
巨大ミミズの正体はサンドワームと呼ばれる魔物であり、セマカを守るようにレノ達の前に立ち塞がる。全長10メートルを超えるミミズのような化物を見てレノは気分が悪くなり、ウルでさえも気味悪そうに後ろに下がる。
「ウォンッ……」
「ウル?大丈夫か?」
「はははっ!!こいつは魔獣が嫌う臭いを発するからな!!そいつはもう役に立たんぞ!!」
「うっ……臭いっ!?こいつマジで臭いぞ!?」
サンドワームの臭いにウルだけではなく、レノとダインもあまりの異臭に鼻を抑えた。姿を現わしたサンドワームからは強烈な臭いを発しており、その悪臭のせいで嗅覚が鋭いウルは鼻を抑えて地面に伏せる。それを見てレノはウルに下がるように伝えた。
「無理するな、お前は臭いが届かない場所まで離れてろ」
「ク、クゥンッ……」
主人の命令にウルは従い、急ぎ足でサンドワームの悪臭が届かない場所まで避難した。それを見てレノは鼻を抑える手を戻して弓を構えた。
(マ、マジで臭い……けど、耐えられないほどじゃない。この一発で倒してやる!!)
サンドワームの悪臭に耐えながらレノは矢を番えて弓魔術の準備を行い、何時でも矢を撃てる体勢を取った。だが、それを見たダインは慌ててレノに注意する。
「だ、駄目だレノ!!そいつを殺したらやばいことになる!!」
「え?」
「サンドワームは岩も消化するぐらいの強烈な酸性の胃液を持ってるんだ!!しかもサンドワームは死んだら全身が破裂して胃液を辺り一面に飛び散らすんだ!!そうなったら僕達なんてあっという間に溶かされるぞ!?」
「ええっ!?」
「ほう、そっちのガキは中々詳しいじゃないか!!どうする、こいつを殺せばお前達も無事じゃないぞ!!」
「ギュロロロッ!!」
レノはサンドワームの厄介な特性を聞かされて構えていた弓を下ろし、下手に攻撃して殺してしまえば自分達の身が危ういことを知る。まさかこんな最悪の魔物をセマカが従えているとは思いもしなかった。
セマカはサンドワームに守られているため、昨日のように彼を人質にして魔物を引き下げることはできない。レノは駄目元でダインにサンドワームを止める手段はないか尋ねた。
「ダインの影魔法でこいつを拘束できないの!?」
「む、無理に決まってんだろ!?真昼間でこんな馬鹿でかい奴を拘束できるかっ!!」
「くくく……こいつは昼行性だから明るい時間帯にしか呼び出せないのが難点だが、その気になればゴブリンやホブゴブリンを捕食する俺の最強の
「ギュロロロッ!!」
昨日の夜にセマカがサンドワームを呼び出せなかったのは夜の時間帯だったからであり、サンドワームは夜を迎えると地中深くに潜って明るい時間帯まで眠り続ける習性があるので呼び出せなかったに過ぎない。しかし、一度呼び出されればゴブリンやホブゴブリンなど比べ物にならない厄介な魔物だった。
(くそっ!!まさか死んだら破裂する魔物までいるなんて……)
レノが知っている魔物と言えば自分が暮らしていた森の中に現れる魔物程度であり、その他の魔物は殆ど知らない。もしもダインに注意されていなければ弓魔術でサンドワームを殺して大惨事になっていたかもしれない。
(どうすればいい!?この化物を殺さずにあいつを捕まえる方法なんてあるのか!?)
サンドワームに守られている以上はセマカに近付くことも難しく、ダインの影魔法も当てにはできない。ウルも悪臭のせいでサンドワームに近付くこともできず、状況は最悪だった。
(いったいどうすれば……あれ?そういえばハルナは何処だ?)
先ほどまでいたはずのハルナの姿がないことに気が付き、レノは彼女が何処に行ったのかを探すと、いつの間にかハルナはウルよりも離れた場所に立っていた。
「ねえねえ、こっちだよ!!」
「ハルナ!?」
「何してるんだよお前!?」
「ギュロッ!?」
ハルナは自分の鞄から干し肉を取り出し、それを振り回しながらサンドワームに声をかけた。サンドワームはハルナの持っている干し肉を見て反応し、主人のセマカの元を離れて彼女に近付こうとした。
「ギュロロッ……!!」
「こ、こら待て!!何処へ行くつもりだ!?俺をしっかり守れ!!」
「ほらほら、こっちに美味しい肉があるよ~」
サンドワームは主人の命令を無視してハルナの元へ向かい、彼女が持っている干し肉を食べようと近寄る。それを見てレノはハルナが自分を囮にしていることに気付き、ダインも彼女の意図を察した。
サンドワームはゴブリンほど知能は高くはないため、理性よりも本能に従って行動を行う。だからセマカの命令も聞かずに干し肉を欲してハルナの元へ向かう。セマカはそんなサンドワームを止めようと乗り込む。
「止まれ!!止まれと言ってるだろうが!!」
「こっちこっち!!」
「ギュロロッ!!」
ハルナが駆け出すとサンドワームは彼女の後を追いかける。地中では高速移動できるようだが、地上ではサンドワームはあまり早く動けないらしく、身体をくねらせながら後を追う。背中に乗っているセマカは振り落とされないように必死にしがみつく。
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