第54話 説教
「待て!!まだ追いかけるな!!」
「ウォンッ?」
「何言ってんだよ!?すぐに捕まえないと……」
「平気だってば」
レノは落ち着いた様子で弓を構えると、それを見たウルは安心した様子で座り込む。逃げ出したセマカに向けてレノは弓を構えると、付与魔法を発動させる。
「皆、目を閉じて!!
「うわっ!?」
「わわっ!?」
「ウォンッ!?」
下手に風属性の魔力を付与すると殺してしまいかねないため、聖属性の魔力を付与させて矢を撃ちこむ。レノの言葉を聞いてダイン達は目を閉じるが、逃げ続けるセマカの頭上を通り越した矢は弧を描きながら地面に落下する。鏃が地面に突き刺さった瞬間、強烈な光が発生してセマカの視界を塞ぐ。
「ぎゃあああっ!?」
「よし、今だ!!」
「ウォンッ!!」
閃光で目が眩んだセマカは地面に転倒し、その隙を逃さずにレノ達は駆けつける。セマカは目元を抑えて地面を転げまわり、その際に隠し持っていた短剣を落とす。それを見てハルナは驚きの声を上げる。
「あ、これ私のだ!?」
「短剣を盗まれてたのか!?何やってんだよハルナ!!」
「ご、ごめんなさ〜いっ!!」
「すられていたのか……ウル、取り抑えろ」
「ウォンッ!!」
「ぐえっ!?」
レノに命じられたウルはセマカの背中を踏みつけると、魔獣の力には敵わずにセマカは取り抑えられた。彼は悔し気な表情を浮かべながらレノ達を睨みつけるが、
「ガ、ガキ共……殺す!!ぶっ殺してやる!!」
「そんな格好で言われてもね……ウル」
「ガアアッ!!」
「ひいいっ!?」
ウルが耳元で鳴き声を上げるだけでセマカは震え上がり、その間に落ちている短剣を拾い上げたレノはハルナに返す。
「もう盗まれないように気を付けなよ」
「う、うん……本当にごめんね」
「たくっ、やっぱり鎧なんか着てるから簡単に逃げられるんだよ。もしもレノが居なかったら逃げられてたかもしれないんだぞ!?」
「ううっ……」
鎧を装着しているハルナは素早くは動けず、危うくセマカに逃げられるところだった。ダインの言う通りにレノが居なければセマカは逃げ切れていたかもしれない。
これまでのハルナの行動を振り返ってみても、レノは彼女が鎧のせいで上手く実力を発揮できていない気がした。女騎士に憧れているから鎧を装着して戦いたいという彼女の気持ちは無下にしたくないが、流石に今回の失態は大き過ぎた。
(もしもセマカが逃げ出さずに盗んだ短剣でハルナかダインを人質に取っていたら……)
今回はセマカを取り抑えることに成功したがもしも仲間を人質にしたり、あるいは人気が多い場所で逃げ出していたら対処は難しかった。だからレノも厳しくハルナに注意する。
「ハルナ……女騎士に憧れを抱くのは悪いとは言わない。でも、他の人の迷惑になるようならその鎧は脱いだ方がいいよ」
「えっ……」
「お、おいレノ……」
「どうしてもハルナがその鎧を着たまま行動したいのなら……次からはこんなことがないように気を付けなよ」
「……ごめんなさい」
レノに注意されたハルナは落ち込んだ様子で頭を下げ、それを見てダインはおろおろと二人の顔を交互に見る。先ほどまでダインもハルナには怒っていたが、まさかレノが面と向かって注意するとは思わずに戸惑う。
他の人間に迷惑をかけたことを自覚したハルナは黙り込み、それを見てレノは言いすぎたかと思ったが、ここで彼女に注意しなければ同じ出来事が繰り返される可能性が高い。例えハルナに嫌われようとはっきりと注意しなければハルナは成長しない。
(ハルナ……憧れを抱くだけじゃ駄目なんだよ)
伝説の女騎士のようになりたいと思うハルナの気持ちは素晴らしいが、騎士のような恰好をするだけで夢に近付いていると思い込んでいるハルナを見ていると空回りしているようにしか見えない。だからレノは嫌われる覚悟で説教した。
(そういえば昔、師匠もこんな風に俺を叱ったことがあったな)
子供の頃にレノはアルから何度も説教されたことを思い出し、今更ながらにアルの苦労を理解した。子供だからと言って甘やかしてばかりはいられず、時には厳しく叱らなければ子供は成長しない(年齢はハルナの方が年上だが)。
(せっかく仲良くなれたと思ったのにな……)
森を出てからレノは久々に人間の友人ができたと思ったが、今回の説教でハルナに嫌われたかもしれない。内心ため息を吐きながらレノはウルが取り抑えているアルを再び縛り付けようとした。
「動くなよ。もしも逃げようとすれば今度は両足を撃ち抜くからな」
「ひいっ!?」
「グルルルッ……!!」
レノの脅しにセマカは怯えた声を上げ、彼は再び拘束された。今度は簡単に逃げられないように背中に回した両手を縛りつけ、両手と繋がる縄をウルの胴体に巻き付ける。
「ウル、ちょっと苦しいかもしれないけど頼んだぞ。もしもまた逃げ出そうとしたらすぐに知らせるんだぞ」
「ウォンッ!!」
「…………」
「こいつ、急に黙り込んだぞ。怖くて喋れないのか?」
「こ、今度逃げたら許さないからね!!」
縛り付けられたセマカは黙り込んで何も喋らず、そんな彼にダインは訝しんでハルナは注意する。先ほどの説教のお陰か彼女はじっとセマカを見つめて怪しい行動を取らないか見張った。
街に辿り着くまでセマカが逃げられないようにレノ達はしっかりと彼の行動を見張る。セマカは大人しく歩いているが、二度目の縄で拘束された当たりから急に黙り込んでしまう。
(こいつまだ何か企んでるのか?でも、これだけ見晴らしの良い場所ならこいつの仲間が来たとしてもすぐに見つかるはず)
レノはセマカが何らかの方法で昨日のゴブリン達を呼び出したとしても、見晴らしの良い草原ならばレノにとっては都合がいい。どれだけの数のゴブリンが押し寄せようとレノの弓魔術で敵が自分達の元に辿り着く前に撃退できる自信はあった。
「街までどれくらいかかる?」
「もう少しだな……へへっ、依頼も達成して賞金首まで捕まえてきたらギルドの奴等も驚くだろうな?」
「あれ?でも私達はゴブリン倒してないから依頼は達成してないんじゃない?それにこの賞金首さんを捕まえたのもレノ君だし……」
「うっ……こ、細かいことはいいんだよ!!村の連中だって俺達の依頼達成を認めてくれたし、それにこいつを捕まえられたのは僕達も手伝ったからだろ!?」
「う、うん。そうだね……」
「クゥンッ……」
必死に自分達も活躍したことを熱弁するダインにレノは頷き、それを見てウルも呆れた表情を浮かべる。
「さあ、行こう。ほら立て!!」
「…………」
「おい、聞いてるのか!?無駄な悪あがきはよせよ!!」
黙り込んだまま話そうとしないセマカにダインは怒鳴ると、セマカは不気味な笑みを浮かべて口元を開けた。
「ばふぁがっ!!」
「はぁっ!?何を言って……」
「ウォンッ!?」
セマカの口の中には小さな笛がいつの間にか収まっており、舌の上に乗った笛をセマカは加えて音を鳴らす。その音を聞いた瞬間にウルは激しく鳴く。
「ウォンッ!!ウォオンッ!!」
「どうしたウル!?」
「お、お前何してんだ!?」
「はっ……もう遅いんだよ!!」
笛を吐き捨てたセマカは笑みを浮かべ、彼の行動にレノ達は戸惑う。だが、ウルだけは何かを警戒する様に唸り声を上げていた。
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