第12話 人間とエルフの性質

「魔力を利用すれば身体能力を上昇させたり、怪我の治りが早くなることは知っているな?」

「はい、前に師匠が教えてくれたから覚えてます」

「エルフは魔力を利用して肉体を強化する方法を「強化術」再生機能を強化して怪我を治す方法は「再生術」と呼ぶんだ」



強化術は筋力を強化させて身体能力を上昇させる術、再生術は自然治癒力を高める術であり、どちらの術もレノは既に習得しているはずだとアルは伝えた。



「今さっきお前が岩を持ち上げる時に使ったのは強化術だ。まあ、強化術という呼び方をしてるのはエルフだけかもしれないけどね」

「そうなんですか?」

「エルフ以外の種族は「身体強化」とか「肉体強化」という言葉を使ってるらしい」



強化術はエルフのみに伝わる言葉らしく、種族によって魔力による肉体の強化の呼び方は異なる。レノは人間だがエルフのアルから教わったので今後は強化術という呼び方に統一することにした。



「再生術の方は今から試してみろ。どうせ筋肉痛で動けないんだろ?」

「あいてててっ!?ちょ、痛いから触らないで!?」

「ほら、さっさと治しな」



大岩を持ち上げるためにレノは強化術を使用した。その反動で酷い筋肉痛に苛まれ、アルが指先でつついただけで悲鳴をあげる。早く筋肉痛を治さなければ痛みが酷くなる一方で有り、レノは慌てて意識を集中させる。


再生術は肉体の再生機能を強化させることで自然治癒力を高めて怪我を治す。筋肉痛程度の怪我ならばすぐに治せるため、アルはレノに自力で治すように促す。



「さっさとしな!!」

「いてててっ!?や、止めてくださいってば!!」



しつこく身体をつついてくるアルに対してレノは切れ気味に腕を振り払い、意識を集中させて全身の魔力を漲らせる。10秒ほど経過するとレノは立ち上がれるまでに回復した。



「あ〜痛かった……師匠!!悪ふざけは止めてください!!」

「……悪かったよ。それよりも魔力の方は大丈夫か?」

「別に……これぐらい平気ですよ」



不貞腐れた様子でレノは問題ないをことを伝えると、その返答を聞いてアルは感心する。これまでの修業のお陰でレノの魔力は半年前とは比べ物にならない程に増えており、それなのに本人は全く気付いていない。



「お前、自分の魔力が増えていることに気付いてるのかい?」

「え?そんなわけないでしょ。だって師匠からまだ魔力を増やす修行は教わってないのに……」

「忘れたのか?私はもう魔力を増やす方法を教えただろ?」

「……あれ?」



言われてみてレノは確かにアルから魔力を増やす方法だけは先に教わったことを思い出す。




――魔力を増やす方法は二通りあり、一つ目は魔力を限界近くまで消費してから回復を待つ方法、もう一つの方法は薬を飲むことで限界以上の魔力を増やす方法を教わっている。




レノの場合は毎日のように魔力切れが起きるまで吸魔石に魔力を吸い上げられた結果、知らず知らずのうちに魔力が伸び続けていた。本人は気付いていなかったが半年前と比べてもレノの魔力量は桁違いに増えていた。



「半年前のお前だったら強化術も再生術もまとみに発動することもできなかったはずだ。それに魔力操作の技術も磨かれたお陰で前よりも効率的に魔力を扱えるようになってるね」

「言われてみれば……じゃあ、師匠は俺の魔力が増えるのも見越してこの修行を!?」

「いや、全くそんなことは考えてなかったけど……」

「あれ!?」



レノはアルが吸魔石を利用した修行法を課したのは魔力操作だけではなく、魔力量を伸ばすために厳しい修行を自分に課したのか目を輝かせた。しかし、アルはあっさりとそれを否定した。



「お前に教えた修行法はガキの頃に私が師匠から教わった修行法と全く同じだ。まあ、私の場合は一か月足らずで修行を終わらせたがな」

「一か月で!?さ、流石は師匠……」



自分は半年も費やしたのに師であるアルは子供の頃に同じ修行を受け、たったの一か月で修行を果たしたと聞いてレノは尊敬の念を抱く。しかし、アルからすれば自分よりもレノの方が凄いと思った。



(馬鹿言ってんじゃないよ。本当に凄いのはお前の方さ……本来ならエルフだけができるはずの修業を人間のお前が果たしたんだぞ。これがどれほど凄いことなのか分かってるのかい?いや、分かるはずがないか……)



本来であればレノが受けた修行はエルフだけに伝わる特別な訓練であり、そもそもエルフと人間では大きな差がある。エルフの場合は生まれた時から人間とは比べ物にならないほどの魔力を持って生まれ、誰に教わらずとも魔法の力を使いこなせる。一方で人間の場合は特別な儀式や修行を重ねなければ魔法の力も碌に扱う事もできない。


生まれた時から魔法を扱う才能に恵まれたエルフに対し、人間の場合は魔法の才能に恵まれた者は滅多に生まれない。レノも普通の人間と同じで魔法を扱う才能はなかったが、彼女の場合は意地と執念で魔力操作の技術を身に着けた。そして厳しい修行を乗り越えたことでにも魔力を大きく伸ばす。



(この修行は魔力操作の技術を早く身に着けさせるためだけの修業だってのに、どうしてこいつはこんなに魔力が伸びたんだ?)



アルは半年の間にレノの魔力を急激に伸びた理由は思いつかず、修行を受けた際はレノのように魔力が大幅に伸びた実感はない。魔法の才能に恵まれたエルフであるアルよりもレノがした理由は彼がだからである。




――人間はエルフと比べたら生まれた時に持つ魔力の量は少ないが、必ずしも魔力量が多い方が優れているとは言い切れない。理由としては生まれた時から膨大な魔力を持っているエルフの場合、魔力量が少ない人間と比べて魔力操作の技術を身に着けるのに相当な訓練と時間を必要とする。


魔力が少ない人間ほど魔力操作の技術を覚えやすく、だから子供のレノでも吸魔石と薬茶のお陰もあったが一週間程度で自分の魔力を感じ取ってある程度操れるまでに成長できた。仮にレノがアルのように生まれた時から人間よりも大きな魔力を持っていた場合、魔力操作の技術を身に着けるためにどれほどの時間が掛かったのか分からない。


アルが課した修行に関してもレノは魔力量が少ないためにすぐに吸魔石に魔力を吸いつくされて何度も失敗したが、そのお陰で何度も自力で魔力を回復させていくうちに魔力量が増えていく。何度も魔力を奪われても回復していくうちに魔力はどんどんと増え続け、今のレノは子供の頃のアルにも匹敵するだけの魔力を手に入れた。



(人間はすぐに年を取る生き物だが、は人間の方が上かもしれないとと母さんが言ってたね。面白い、こうなったらこいつが何処まで成長するのか見極めてみるか)



魔法の修業に関してアルが教えられることは全て教えたが、彼女は今回の修業でレノが何処まで成長したのか気になって試してみることにした。



「レノ、お前は自分の魔力がどれだけ増えたのか気になるだろ?」

「え?いや、別に……」

「気になるよな!?」

「は、はい!?」



レノは自分の魔力量が増えたといっても本人はいまいち自覚しておらず、アルは吸魔石を差し出す。彼女は今のレノの魔力量を計るために敢えて吸魔石に魔力を送るように伝えた。



「そいつに魔力を流し込め。いいか、手加減なんてするんじゃないよ。全力で魔力を流し込むんだ」

「ええっ!?でもそんなことをすれば……」

「いいから言われた通りにやれ!!師匠命令だ!!」

「お、横暴だ……」



いきなり吸魔石を渡されて魔力を送り込むように命じられたレノは困り果てるが、師の命令には逆らえずに言われた通りに両手で吸魔石を掴み取る。そして半年の間に伸ばした魔力を全力で流し込んだ。

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