第6話 ミンの欠片
2人で掘り出したエアバイクに、フォンがバギーに積んであった機材を使って補給していると、光る砂漠を撮影していたルチアが戻ってきた。
「向こうにクリスマスツリーみたいな岩があるんだけど、あれは何?」
「もう少しで補給が終わるから、行ってみよう。とりあえずこれを被って」
フォンはマンナ伯母さんのヘルメットをルチアに差し出した。
無理矢理2人乗りしたフォンとルチアは、ルチアが見つけた岩のそばでエアバイクを止めた。2メートルほどの三角錐型の岩石のあちこちで、ミンの光に反射して黄色い光がきらめいている。フォンはそっとその一つを撫でた。
「たぶん家出の時この岩も見ていたけど、こんなにシデライトが入っているなんて気づかなかったよ。きっと砂嵐で表面が飛ばされたお陰だな」
「だから『ミンの
ルチアはそう言いながら岩山の向こうに回り込んだが、あわてて戻ってきた。
「フォン、早く来て!」
駆けつけたフォンに、ルチアはシデライトの輝く岩山の割れ目を指さす。ヘルメットのヘッドライトが照らし出したのは、一葉のプリント写真だ。
「これってもしかして」
「そうだよ、僕と両親の写真。家出の時になくしたんだ」
フォンは写真を引っ張り出すと、砂を払って表面を見つめた。ルチアが尋ねる。
「砂嵐でここに飛ばされたのかな」
「何でもいいよ。帰ってきてくれたんだから」
フォンは笑顔を見せると写真をジャンパーのポケットに入れた。
「すっかり遅くなっちゃったな。そろそろホテルに戻ろう」
「燃料は大丈夫?」
「さすがにホテルまでは無理かな。マリティで伯父さんの車を借りよう。しっかり捕まって」
フォンはエアバイクのエンジンをかけると、ルチアを乗せて砂丘へと走り出した。
「ようし、砂丘を越えてマリティへ直滑降だ」
「フォン、はしゃぎ過ぎだよ」
ルチアの歓声を聞きながら、フォンはトリュースでの子ども時代に戻ったように感じていた。
翌日、フォンはバギーを回収した後、マリティ宇宙港へとルチアを見送りに来ていた。ロビーの椅子に並んで腰掛けたルチアが言う。
「ここに来て良かった。フォンが私の知っている頃よりずっと大人になってて。私もフォンに負けないように勉強しないとね」
「大人になったルチアに会えて、僕も嬉しかったよ」
フォンはそう言いながらも、スーツのポケットに入れた右手を気にしていた。
「私、大学を出たらジュエリーの仕事に就きたいの。ブリアにも素敵な宝石があるってみんなに知ってもらいたいんだ」
意を決したフォンは、スーツのポケットから小さな箱を取り出した。
「君へのお土産だよ。もしかしたら二度と会えないかもと思って、ここの名産を選んだんだ」
「開けていい?」
ルチアはそう言うと箱を空けた。中には黒光りする玉が連なったブレスレットが入っている。
「この石はヘマタイト。勝利のお守りって言われてる。これから君を励ましてくれるといいなと思ってさ」
ルチアはブレスレットを右手首に付けると、左手でブレスレットを握った。
「ありがとう。ここでもらった勇気、忘れないから」
感謝の言葉を聞きながら、フォンは言葉を継いだ。
「あのさ、ヘマタイトのもう一つの意味なんだけど」
ルチアは何か思い当たったようにフォンの顔を見つめる。フォンは胸に右手をやった。
「『秘めたる思い』。ルチア、君が好きだ。君さえ良かったらクリスマス以外もメールのやりとりをしたいんだ」
フォンはルチアの目を見つめる。ルチアは一つ頷くと答えた。
「私もよ。たくさんメール送るから、クリスマスにまた会おうね」
フォンは胸に置かれた右手をルチアの肩に回した。
「ああ。今度は僕がトリュースに行くよ」
その時、ロビーにアナウンスが響き渡った。
『ブリア航宙125便、定刻通り到着いたしました。搭乗希望者はゲートにお集まりください』
ルチアはブレスレットの箱をパンツのポケットに入れると、スーツケースを持って立ち上がった。
「トリュースに着いたらメール送るからね」
「ありがとう、待ってるよ」
見送るフォンにルチアは右手を振り、ゲートの向こうに消えていく。ロビーのスクリーンには『今夜のマリティ宇宙港の天気 晴れ 最低気温摂氏13度 砂嵐確率0%』という画面が映っていた。
おわり
ようこそ Light Houseへ 大田康湖 @ootayasuko
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