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大田康湖
第1話 マリティ宇宙港
はるか未来、人類は銀河系各地に居住範囲を広げていた。
砂漠の星、ブリアは地球から500光年ほど離れており、主産業は鉄鉱石の採掘だ。住民100万人のほとんどは、地球はおろか周辺の星系にも行かずに一生を終える。他星系への数少ない出入口は、首都マリティ市郊外の宇宙港だった。
マリティ宇宙港のロビーで、ベージュのスーツ姿の青年、フォン・タウアーは手持ちのスマートフォンの動画を見ていた。画面ではゆるくカールしたブルネットの髪に白い肌、琥珀色の瞳の女性が話しかけている。
「フォン、今トリュース宇宙港に来てるんだ。ブリア星行きの船に乗ったら3日間通信できないから、ここで送っとくね。会うのが楽しみだよ」
(僕もだよ、ルチア)
フォンは動画から目を上げ、ロビーのスクリーンを見る。『今夜のマリティ宇宙港の天気 晴れ 最低気温摂氏15度 砂嵐確率10%』という画面が切り替わり、アナウンスが響き渡った。
『ブリア航宙335便、定刻通り到着いたしました。搭乗希望者はゲートにお集まりください』
ゲートから出てくる客のほとんどは、ブリア星の鉄鉱山採掘に携わる技術者や出稼ぎの作業員だ。その中から、白いスーツケースを持ったオレンジのパンツスーツ姿の女性が姿を現し、右手を振った。
「フォン!」
「ルチア!」
フォンは呼びかけるとルチアに歩み寄る。
「8年ぶりか。大きくなったね」
ルチアはまるで母親のようにフォンに呼びかけると、伸び上がるようにして185センチの肩を抱いた。ふわりとした花の香りがフォンを取り巻く。
「ルチアこそ」
フォンはドギマギしてそれだけ言うのがやっとだった。
「それにしても、子どもの頃は金髪だったのにだいぶ茶色くなったね。それにたくましくなって」
空港の出口へ向かいながら、ルチアは先を歩くフォンに話しかけた。通路の窓の外には赤黒い砂漠が広がり、マリティの町に続く道路を覆うチューブが陽光にきらめいている。
「仕方ないよ。金髪ってそういうものだし。鉱山は外仕事も多いから日焼けもするんだ」
フォンは広い肩をすぼめると、スマートフォンを取り出し、駐車場に止めたバギーを呼び出した。自動操縦モードでエントランスまで走ってくるのだ。
「ホテルにチェックインしたら、僕の家に案内するよ」
2人を乗せたバギーは空港そばのホテルを出てチューブの中を走っている。ルチアはチューブの外に広がる砂漠に目をやりながらフォンに話しかけた。
「ここの砂漠って黄色でも白でもなくて赤いんだね」
「ああ、この近くにある鉄鉱山のせいで、砂に鉄分が混ざってるんだ」
「へえ、珍しいね」
フォンは自動操縦モードのパネルから目を上げ、チューブの先を指さした。透明なドームに覆われた都市が砂漠の中にそびえ立っている。ドームの外壁には沈みかけた夕日が反射して金色にきらめいていた。
「あのドームが僕の住んでるマリティの町、別名『ライト・ハウス』だよ。町の向こうに見えるオアシスの中にあるのがイクト湖さ」
「名前よりもずっと眩しいね」
ルチアはドームの輝く外壁に見とれている。運転席のフォンは光に目を細めながら言った。
「僕が12歳で初めてここに来たときも、夕日がきれいだったよ」
「8年前のことね」
「でも、僕は亡くなった両親のことばかり考えて、ずっとトリュースに帰りたいって思ってた」
フォンは自動操縦モードのハンドルに軽く手を置くと言葉を継いだ。
「もちろん、今ではこの町が大好きだよ」
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