エピローグ
「‥‥‥そうか」
と、和也は短く答えた。
目の前には弟の和樹と、美山の当主である飛鳥が立っている。
「ともかく、ご苦労だった。ありがとう」
「じゃあ、報告は終わったから帰るな」
和樹はそう言うと、踵を返してエレベーターに向かっていく。飛鳥も一礼して、後を追う。
「飛鳥ちゃん」
呼び止めれば、彼女はふり返った。
「これからも、弟をよろしく頼んだよ」
「‥‥‥はい!」
和也は窓からこの町を見下ろしていた。
その隣に立つのは、白色の着物に白色の帯を巻き、緩くパーマがかかった髪をしている女性だ。
「よかったわ」
「ええ、そうですね」
肯定しながら和也はそっと横目で女性を見やる。
女性は微笑みながら窓の外を眺めていた。
「さすがと言うべきでしょうか、やはりあなたの子どもだ」
「当然でしょ、誰に言っているの」
女性‥‥‥飛鳥の母、美山奈々は得意げに胸を張った。
「‥‥‥本当にあの子には苦労をかけるわ。でも、わたしはあの子のことを信じているわ」
「母親というものは、何時の時代でも我が子を信じるものなのでしょう」
「そうかもね」
何もいらないと思っていた。美山の当主としての役割を果たし、一族が決めた結婚相手と子を成して、そんな風に終わる人生だと思っていた。
それでも、あの人に会って、飛鳥を授かって変わった。
本当はあの子に背負わせるつもりはなかった。ただ普通に生きてくれればよかった。
ただ、それだけでよかったのよ、と奈々はつぶやいた。
「彼女と和樹を会わせたのがよかった。あの二人はどことなく似ている。きっとこれからも飛鳥ちゃんのよき支えになってくれますよ」
「ええ、そうね。‥‥‥いつかあなたがわたしのことを
「それは、何と言いますか少し複雑な気分ですね」
和也はそう言って苦笑いを浮かべた。
「でも、そうね。わたしの役目はここまで。あとは、今を生きる者に託すとするわ」
と、奈々が言った瞬間、彼女は金色の吹雪となって消えていった。
「本当に不思議なお方だ」
言いながら、和也は奈々の消えた空間を見つめていた。そして、深々と頭を下げた。
顔を上げた彼の顔は、とても晴れ晴れとしていた。
「さてと、仕事するか~」
和也は誰かが聞いているわけでもないのに、そうつぶやいた。
そんな和也の瞳に、涙が光っていたことは誰も知らない。
魔術師のすゝめ 小槌彩綾 @825
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