第1話 美山飛鳥

 それは本音かい?―――本当に人間には、それだけの価値があると―――。


「‥‥‥今のって?」

 声が聞えてきた気がしたわたしは足を止めて、ふり返った。

 周囲を見渡してみるが、誰もいない。

 それじゃあ、さっきの声はどこから聞こえてきたの。

 と、そこまで考えた時。ハッとした。

「まさか、幽霊……?」

 全身に寒気が走る。

 いやいや、まさか、ね。

 否定をしながらも、冷汗を浮かべたわたしは、学校への道を小走りで歩いていく。



 美山飛鳥、というのがわたしの名前だ。

 襟の広いブラウスシャツに、茶色のベスト、黒色のボックスフレアスカートに赤色リボンタイの制服は、わたしがこの春入学した星雲高等学校のものだ。

 まあ、受験はかなり大変だったけど、この制服が着られたのでよかったことにする。

 星雲はここら一帯の地域では、そこそこレベルの高い学校だ。

 入学してもうすぐ二ヶ月になるが、学校生活はかなり楽しい。

 中学校よりも自由だし、偏差値のわりに校則は緩い。

 それに幼稚園からの親友も一緒に通っているので、とても心強いというのもあるだろう。

 クラスのみんなも良い子ばかりで、別に困っていることはない。

 しかし、わたしは自分が嫌いだ。

 わたしには得意な学科はもちろんのこと、自慢できる才能なんて何もない。でも、わたしのまわりには、いつだって何かしらの才能を持っている子がいる。

 クラスの中で一人だけ、どこまでも平凡な‥‥‥わたし。

 最近はそんな自分が嫌でしかたない。

 うしろで髪を一つにまとめている組紐をほどくと、はらりと手の上に落ちる。

 水面に漣がたっているような組み目ができる『笹浪組』と呼ばれる編み方をしている、赤色の組紐。

 代々美山家の長子に受け継がれてきたものだ。

 母によれば、数百年は前のものらしい。

 組紐はそれだけの年数が経っているとは思えないほど、キレイな状態を保っている。

 髪に結びなおして、わたしは深いため息をついた。

「わたし、ずっとこのままなのかな……?」

 と、声に出した時。

『ダッタライッソ。死ンダ方ガイイヨネ』

 突然、頭の中に直接、抑揚のない無邪気な声が聞えてくる。

 そう、かな‥‥‥。

 立ち止まって、うつむく。

『ソウダヨ。死ンジャエバ、イインダヨ』

 その声に反応するかのように影が大きくなっていき、わたしを包んだ。

 視界が漆黒の闇に染まる。

『死ンデシマエバ―――』

 いいんだよね、とわたしはゆっくりと目を閉じた。

 

 

 


 

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