夢かつ現な
再生が終わったことを確認して、イヤホンを外した。
隣で控えていた木染がわくわくした様子で話しかけてきた。
「……どうだった? 私たちの初ダミーヘッドマイク収録作品。まさか本当に叶っちゃうなんてね」
「音質が良すぎる? あはは。そうだね。さすが、いいマイク。高いだけあるってとこかな」
「うん、それと?」
「私がこんなに優しくなかった? ふふ、面白いこというじゃん」
木染はにやりと笑うと、あの夕暮れのホームのように耳元に寄った。
そしてあの頃の木染には出せなかった、美しい艶のある声で囁く。
「……それは、もーっと優しくしてほしいってこと?」
軽くあしらうと、木染も特に気にしたようでもなくいつもの調子に戻った。
「はいはい、昔の話ね。別に優しくないわけじゃなかったと思うけど、やっぱりあの頃の話し方は怖かっただろうなって、私も思ってる」
そう言う木染の声はあの頃と変わらず落ち着いて大人っぽく、そして彼女の言う通り昔よりも柔らかかった。
「ねえ、今日は作品も完成したことだし、お祝いにどこか美味しいとこ食べに行こうよ」
「あー……約束? そういえば、確かに言ってたかも」
「え、もうすぐ出なきゃいけないの? 結構ギリギリだったんだ」
「いやこっちこそごめん、完全に忘れてた」
「ちなみに今日は何の用事? 帰ってくるのは遅い?」
出かける準備をしながら木染と言葉を交わす。
これから会う人物の名を告げると、木染は気の抜けた声で言った。
「え。なに、約束ってあいつとだったの? じゃあ、ちょっとくらい待たせてもいいじゃん」
「てか、ねえー。なんか最近、私の弟と仲良すぎない? というか、あいつとなら私も一緒に行ってもいい?」
「は? なにそれ? 私が来たがったら止めるように言われてんの?」
「あいつ……うう……まさか、弟が最大のライバルになるなんて」
最後の持ち物チェックをしていると、近寄ってきた木染が後ろから裾を引っ張った。
「ねえ? 弟より私の方が好きだよね? 私が一番だよね?」
玄関まで後ろをついてきて、念押しするように声を掛け続けてくる。
「あいつに騙されないでよ。あいつ、最近姉離れというか、お姉ちゃんうざいみたいなことすぐ言うんだから。私のこと悪く言ってても真に受けないで。あと……何か、本当に私にうざいとこあるみたいだったら、それは後で教えて」
靴をはく際、振り向いて木染に話しかけた。
「何? そんなわざとらしく『そういえば』って……怖いんだけど」
「もうすぐ……? 何……?」
「え? 私の誕生日?」
驚いた木染の顔を見て、立ち上がる。
「ちょっと! それって……ねえ!」
無視して行ってきますと告げると、背中から木染の声がした。
「ああ……もう……行ってらっしゃい!」
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