クランクアップ_1
川を離れ、最寄の駅まで戻ってきた。
最寄り駅といえど、周りには店が一軒もない静かな駅だった。
鈴虫に加えて、ヒグラシまで鳴き始めていた。
「やっと戻ってこれた……」
「てか、ここまじで人いないね。この駅来た時から誰も見てないんだけど。そんなことある?」
「次の電車は……30分後か。うん……座って待とう」
駅のベンチにふたり並んで腰をかける。
「……お疲れ。それと、ありがとうね」
「そうだね。まだ編集が残ってる。今日のは編集しがいがありそうだし」
「明日さ、またあんたの家行ってもいい?」
「編集はできないけど、なんかできることないかなって。なくても、私のために頑張ってくれてるのに、私だけひとりじっとしていられてないっていうか……」
「うん、じゃあ行くね」
「あーそうだ。お礼についてなんだけどさ、もっとなんか欲しいものとか、してほしいこととか、ない?」
「前は晩御飯をどうかって話だったけど、さすがにもうそれだけだと釣り合いが取れないよ」
「……なんでも、いいよ。本当に」
「……」
頭をひねっている間、木染は緊張しながら言葉を待っていた。
やっとひとつ思いつく。
「学校で話しかける? そんなの頼まれなくてもするよ。なし」
一蹴される。次案をすぐに出す。
「弟の反応? 普通に教えるに決まってんじゃん。それもなし」
「てか弟の反応はビデオで撮るから。データ送ってあげるよ」
「だから、ブラコンじゃないから。別に普通でしょ」
弟の話で思い出すことがあった。
切り出すと、木染は少し前のめりになった。
「え、なに。頼み事? うん、いいよ」
「……これを、弟に渡す?」
「え、もしかしてプレゼント?」
「中身見ても……あ、私へのプレゼントじゃないからダメか」
「えっと内容聞いてもいい?」
「ASMR用のイヤホン……! 本当に⁉ えっと、あの……ありがとう」
「あはは、そうだね。私のプレゼントじゃないんだけど。でも、あいつ絶対喜ぶと思う」
「だから、嬉しい。ありがとう」
プレゼントの袋を胸に抱きながら木染が言った。
「でも、これもあんたへのお礼じゃないけどね。むしろ増えてるじゃん」
「まあ今はいいや。思いついたら、また言って」
木染が自分の鞄にプレゼントの袋を詰める。
鞄を開けて、思い出したように木染が言った。
「あ、そうだ。一万再生確認しよっかな。電波……あるね」
「……」
「え……」
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