第37話 虚無1

この日、はるかは僕が家にくるから、僕の好きだったお酒を用意する為に買い物に出たそうだ。


最寄り駅の大きな商業施設で、お酒と部屋に飾るお花。

そのお花に添えてあったのが二つ折りの手紙。


ゆうまと会うから、ゆうまの為に買いに出た。

その帰りに事故に遭った。

100%運転していたやつのせい。


でも、今はそんなことどうでもいい。


はるかが・・・。


呼吸はしている、心臓も動いている、けど意識がない。


「…はるか」

「……はるか」


「…」


目の前にいるのに話すことができない。

触れることはできても、反応がない。


久しぶりに見たはるかの顔は少し痩せているようにも見えた。

きっとご飯もあまり食べられなかったのだろう。


いつもは僕が作ってた、用意していた。

よくはるかが言っていた。


「ゆうまの作る料理が一番美味しい〜!!」


そう言って普段少食な、はるかはいつもたくさん食べていた。


そんなはるかを見たくて料理を頑張っていた。

苦ではなかった。

その笑顔を見るためになんでもやれた。



「…はるか、、」

「はるか、今日のご飯は何が食べたい!?」


「…」


「はるか……」


「…」


いつもすぐ帰ってきた返答がない。


「はるか、、」



「ゆうまさん、はっきり言いますと、はるかさんはいつ目を覚ますか分からない状況です」

「でも、はるかさんは懸命に生きようとしています」

「私たちは最善を尽くします」

「だから…負けずに声をかけてあげてください」


「…声を?」


「はい」

「目を覚ましてはいませんが、体の意識はあると信じています」


「…体の??」


「その意識がこれまで体が覚えているゆうまさんの声に、体温に反応し、意識復活につながると思っていますから!」


「だからいつものように名前を呼んであげてください」

「話しかけてください」

「それが今のはるかさんにはとても大事なことです」


スピリチュアルなことだと思った。

普段運勢とかも信じない僕だけど・・・

すがる想いで「はい」と答えた。



「…はるか、一緒にがんばろうね」

「また来るから」

「…先生、どうか・・・どうかはるかをよろしくお願いします」


「もちろんです」

「どれだけ時間がかかっても一緒に頑張りましょうね」


「はい、、がんばります」


「じゃあ、、はるかまたね」


ガラガラガラ…


病室を出た。

それから病院の手続きや警察とのやり取りをした。

どんな話をしたのかあまり覚えていない。

それに、どうやって家に帰ってきたのかも思い出せない。



ガチャ….


真っ暗な僕らの家。


ほんとだったら、今日はるかとここで会って話をする予定だった。

どんな結末になるか、不安もあったし怖かった。

でも、避けて通れないから今日約束の日にした。


けど、、、家にはるかがいない。


スタスタスタ….


ガチャ


久しぶりの寝室。

綺麗に布団が直されている。

はるからしいと思った。


・・・


バタン


綺麗な布団に倒れ込んだ。


「・・・はるか」

「な、、、なんでこんなことに・・・」

「・・・あっ」


布団からほのかにはるかの匂いがした。


「…」


1ヶ月以上、はるかはこの大きなベットに1人で寝ていた。

その匂いが残っている。


こんな大きなベッドに1人で・・・


「・・・ぐぅ、、、、あぁぁ、、、」


唐突に起こった今日のこと。

家を出るキッカケになったこと。

そして、家を出てからのこと。


走馬灯のように頭を巡った。

そして。

言いようもない感情に襲われ、大声を出して泣き涙が止まらなかった。



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