第18話 いつもの癖1

「えっ!!!?お風呂!!?」

何事もなくそう言うきょう姉にびっくりして、裏返った声で聞き返した。


「うん!お風呂!汗もかいちゃったんだもん(笑)」


「あ〜そうだね・・・」

スッときょう姉の背後にある内風呂に目をやった。

脱衣所にはいる扉は木製の引き戸で、内風呂に入る扉は透明のガラス製。

もちろん部屋からは見えない。


それでも・・・///


「そしたら、準備しよ〜!」


「ん、、、準備?」


「えっだってお風呂行く準備しなきゃでしょ!?」

「この宿1番のポイントは天然温泉で常に溢れ出ている露天風呂だもん!」

「言わなかったっけ〜?」


「あっ、、聞いてないな」


「ごめ〜ん(笑)」

「ご飯が終わったあとでも入れるけど、折角だし時間も少しあるから準備して行こ」


「わっ・・・わかった!」

今僕がどんな感情だったのかは秘密。


「さっと浸かるだけだから、バスタオルとか浴衣とかを持っていくだね〜」


「うん」


お部屋に用意されているそれぞれのタオルと浴衣を持ち露天風呂に向かった。

露天風呂は地下にある。



入り口に着くと時間は18時5分。

きょう姉が腕時計を見た。


「じゃあ40分くらいでまたこの入り口で合流ね〜」

「ちょうど休めるスペースもあるからここで!」


「わかった〜」


てくてく


バサッ


きょう姉と一言交し中に進んだ。


脱衣所には2組4名の人がいた。

見る限りお子様連れのご家族だろう。


シュル.シュル

バサッ


ガラガラっ・・・


「おぉ〜!すごい」


扉を開くと中央に大きな石造りの浴槽が2つ縦に構えており、それぞれ左右に体を洗う箇所がたくさん備わっている。

正面は一面ガラス張りで右の方に扉。

そしてなにより、そこから見える風景。

お部屋で見たものとは異なり、麓に見える大きな川が一望できる。


「めっちゃすごいや」

「こんなところのお風呂はいったことないや」

心の声が出ていた。


ささっとシャワーで体を流しいきなり露天風呂に向かった。


大きな岩風呂の露天風呂。

常に源泉の掛け流しでかなり熱かった。


チョロチョロチョロ・・・


耳を澄ませば。


さらさらさら


大きな川のせせらぎが聞こえる。


「ふぅ〜気持ちよすぎ・・・・」

「・・・」


この1ヶ月で起きたこと。

これまであったこと。

はるかのこと。


いろんなことが一瞬頭を過った。


はるかと一時的に距離もとった。

それから1ヶ月くらい経った。

けど、結果的にはなにも変わっていない。


だけど、初めて感じた感情、変わった気持ちをはるかにぶつけた。

それは事実。


だからこそ戸惑っている自分がいて、どうすればいいのか分からなくなっている自分がいる。

はるかには別れたと言った。でもあんな動きをしたはるかがいた。


あの時どうしたらよかったのか。

どうすることが正解だったのか。

10年も同棲してきて、いきなり「別れる」と言ってしまったことはダメだったのか。


「・・・・・」


ふと、壁の時間を見ると35分。


「あっやべ・・・時間が過ぎちゃう」


バッシャ



急いでお風呂を出て着替えをすました。


バサッ


スペースに行くとまだきょう姉はいない。

時間は39分。


「ふぅ、間に合った」


火照った体を冷やすため、コーヒー牛乳を書いきょう姉を待った。


ゴクゴクっ

「プハァ〜〜〜!」

本当に腰に手を当てて飲むのが分かる。

むしろ腰に手を当てることで、より美味しくなると感じた。



「おまたせ〜〜〜!」


「んっ!!!」


ちょうど飲んでいる時にきょう姉がきた。


「あははっ!」

まさに見られてしまった。


「くっ/////」

「喉渇いちゃってたから(笑)」


「美味しそうに飲んでたね(笑)」

チラッ

「じゃあ時間だから行こうっか」

「お腹ペコペコだよ〜」


空になった牛乳瓶を捨てて食事処に向かった。





自室ではないものの、個室で囲われた場所で提供される。

今日のご飯は近海で取れた海鮮を中心とした和食のフルコース。

どれも新鮮な食材を丁寧に下処理されてそれぞれの旨味が凝縮されまとまっている。

それに合わせるのは、地酒の日本酒。


合わないはずがない。


「くぅ〜〜〜〜!旨すぎる!!」


「これすっごいおいしい〜!」


きょう姉も一緒に日本酒をいただきながら食べている。


「こうやってゆっくりご飯するのっていいよね」

「ご飯もお酒もちびちびしながら、楽しめるこんな時間好き」


「ほんとだよね!」

「普段のご飯とかだと食欲を満たすだけの行為って感じだからすぐ済ましちゃったりするけど」


「そうそう!でも、本来ご飯ってこうゆうのが必要だよね」


「このところこんなゆっくりとした食事は取ってなかったよ(笑)」

「きょう姉、今すごい楽しいや!」


「うふふ(笑)私もだよ〜」


・・・楽しい食事のひとときはあっという間に過ぎた。


少しホロ酔いになり顔を赤くしたきょう姉とお部屋に戻る。

その道中も楽しく話をしながら向かう。

きょう姉も楽しめていそうで安心した。


部屋に戻ると、着いた時とは少し違った風景が広がっている。

正面は真っ暗になっているが、所々で煌々としている山中の他の宿がまるで星のようにも見える。

もちろん夜空には本物の星が光っていて、一面が星模様。


「わぁ〜!綺麗!!」


「おぉすごい!!きれ〜い!!」


タッタッタッ


すぐさま正面に向かって走り出すきょう姉。


ガチャ キィー


「わぁ〜〜〜〜!綺麗!!!」

ベランダに出て夜景を見ている。

ベランダには小さなテーブルに足を伸ばして寛げる木製のベンチが2つ。


「ゆうまもおいでよ〜すごいよ〜!」


「行く〜!」


タッタッ


「うわぁ〜綺麗だね!」


「ここでゆっくりしようよ〜」

「ちょうどいい感じのものもあるし」


「だね!」

「きょう姉なにか飲む??」

「僕は別のお酒をここで飲もうかなって(笑)」


「あっずる〜い(笑)」

「でも、私は一旦お茶でいいや!」

「ゆうま注文お願い〜」


「は〜い!」


部屋に戻りルームサービスを注文した。

数分後にはお店の人が持ってきてくれた。

僕の日本酒ときょう姉のお茶。

サービスで3種類のおつまみになるものもあった。


「きょう姉、きたよ〜」

「見て見て!こんなサービスもくれた!」


「あら!こう言う気遣いも嬉しいね」


小さなテーブルに置き、注文した飲み物をそれぞれいただいた。


「・・・」


「・・・」


そこから数十分。

無言が続いた。でも、それは嫌な無言とかではなく、

お腹も満たされお酒も飲んでいる今、夜風に当たりながら夜景を見る。

言葉はいらなかった。



すると、きょう姉が。

「くぅ〜!」

「私折角だから内風呂入ってくる〜!」


「折角だしね!多分内風呂から見える夜景も綺麗だと思うよ」


「ね〜!じゃあ行ってくる!」


「行ってらっしゃい〜!」

「あっきょう姉!バスタオルとか色々持っていくの忘れないようにね〜」


「あら、そんな心配もしれくれるの〜?(笑)」

「忘れないようにしま〜す(笑)」


「あっ(笑)いつもの癖かも」


「うふふ(笑)」


バタンっ


そう言い放ち部屋に戻り内風呂に向かった。


「・・・」


ちびっ

僕はそのまま夜景を見ながら日本酒をいただいた。


「ふぅ〜・・・」

「気分転換になったなぁ、きょう姉ありがとうね」

口から無意識に出た。


辺りは真っ暗で音がない。

正確には遠くのほうで聞こえる川のせせらぎと、内風呂のほうから聞こえる源泉が流れ出る音だけ。


自然のヒーリング音。

YouTubeとかで検索しよく聞いていたものとはまるで別のものに聞こえた。

すっとこんなところに住めたらいいなぁ〜。


東京のコンクリートジャングルの中、必死に頑張ってきた。

常に色んな音が聞こえる街。

時間の進みが早く感じる場所。

そんな中で10年生きてきた。


「・・・ちょっと1人で無理し過ぎたのかもなぁ」

そんな事を思った時。


ガラガラっ

チャプン


内風呂

のほうから音が聞こえた。

きょう姉がお風呂に入ったのだろう。

小さく鼻歌も聞こえた。


「うふふ(笑)」

それが聞こえて嬉しくなった。

楽しそうでよかった。


「あっ」

「お水持って行かなきゃ!」


ガラガラっ


部屋に戻り冷たいお水をコップに注ぎ脱衣所に向かった。


ガッ

扉に手をかけた時、その先にいるのがきょう姉だと言うことを思い出した。



いや、だめだろう。。

冷静になり、コップを部屋のテーブルに置きふたたびベランダに戻った。


「・・・」

いつもの癖。


はるかがいつも長風呂だったので、お水を持っていき水分不足とかにならないようにしていた事。

水を持って風呂に入ると「いつかな?」と持ってくるのを待っていたかのようなはるかが湯船にいて、「えへへ、ありがとう〜」と。


いつもしていた。


「・・・」


実家に戻った時、帰ってからはるかとLINEでやり取りをしていた時。

何も思わなかったはずだったのに。


「…はるかちゃんと出来ているかな、お水とか摂っているかな」

きょう姉にも聞こえないくらいの小さな声で、はるかの心配した言葉が無意識に出た。



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