第9話

 悠太郎達が次に訪ねたのは、とある住宅街の一軒家。

 悠太郎がインターホンを押すと、中からドタバタと慌ただしい足音と共にメガネをかけた女性が出てきた。

「悠太郎君、いらっしゃい!」

「こんちには、白峰さん」

 このメガネの女性は白峰 聡子しらみね さとこ。太田芸能事務所所属のアリドルであり、本業は作曲・作詞家。自分で曲を発表するだけではなく、同事務所のアリドルに曲を提供している。

 白峰は悠太郎の隣にいるに凛奈に目をやる。

「そっちの子が凛奈さんね。初めまして。白峰よ」

 ずいと前に出てきた凛奈は「あの!」と前のめりな姿勢。

「私、白峰さんの曲好きで。毎日のように聴いています!」

「ふふ、ありがとう」

「もしかして、白峰さんが私に曲を作ってくれるんですか!」

 期待の眼差しを向けてくる凛奈に、白峰は苦笑。

「その話は中でしましょう。さあ、入って。今子供達がいて騒がしくて申し訳ないけど」

 彼女は数年前に離婚したシングルマザーであり、小学二年生と三年生の娘がいる。

 悠太郎と凛奈は「お邪魔します」と家に入り、リビングのテーブルに着く。

 白峰が麦茶を出してた麦茶を悠太郎が飲んでいると、腰に軽い衝撃。見下ろすと左右から小さな女の子が抱きついてた。

 右側に抱きついていた女の子が「ゆう太郎だ! 久しぶり!」と嬉しそうに笑う。左側の子も「ゆう、ゆう!」と見上げている。

「やあ、千佳ちかちゃん、千恵ちえちゃん、こんにちは」

 悠太郎は二人の女の子に挨拶。右側の子が白峰家の長女の千佳、左の子が次女の千恵である。

「こら、悠太郎お兄ちゃんでしょ! 呼び捨てにしない!」

 母親の白峰から注意されるも、小さな姉妹はどこ吹く風。興味が初対面の凛奈にすでに移ったようで、千佳が「きれいなお姉ちゃん、だれ?」と尋ねる。

「初めまして。燐堂凛奈って言うの。 お母さんの後輩」

「こうはいってなに?」

「お母さんのいる事務所に後から入ってきた人のこと」

「ふーん」

 白峰は子供二人を悠太郎から引き離し、「お母さん、お仕事だからいい子にしていて」と言い聞かせる。二人は「「はーい」」と言いながら、奥へと走りながら消えていった。

「ごめんね、二人共。うちの娘、本当にわんぱくで。それでさっきの話の続き、凛奈さんの曲についてね。私がすでに作った曲が二つあるから、それらの曲を歌ってもおうかなって。どっちの曲もポップで可愛らしい曲でね、元々は黒川ちゃんに使ってもうかなって思っていたんだけど、黒川ちゃんに『ウチには合わない』って言われちゃった」

「あー、確かにそうですね。可愛い曲は彼女には」

 凛奈が悠太郎の袖を引っ張ってきた。凛奈は不思議そうな表情をしている。

「黒川さんって誰?」

「うちの事務所所属のアリドル。ノルンで芸名で活動している」

「あー、ノルンさん! あの人か」

 ノルンは太田芸能事務所トップのアリドル。歌や踊りをパフォーマンスとして行うが、彼女は力強い歌い方が特徴。若い人に人気があるが、特に彼女のキャクター性から女性人気が高い。

「二人に曲を渡すね。ARゴーグルをつけてくれる?」

 白峰はARゴーグルをつけた後、空中で指を弾く様な仕草をする。すると、悠太郎と凛奈のARゴーグルの視界にファイルのアイコンが表示される。

「そのファイルに歌詞と楽譜、あと私が歌った様子が入っている。凛奈さんはそれで歌の練習をして。もし何か聞きたいことがあるなら、遠慮なくいつでも聴いて。 私の連絡先渡しておくから」

「はい、ありがとうございます」

「悠太郎君、この後、宮澤みやざわさんのところに行くのよね? 振り付けのために」

「はい。そうです」

「曲は宮澤さんに先に教えてる。すでに振り付けをしているみたい。八月のデビュー予定だから、なるべく作業は進めた方がいいかなって。余計なお世話だったかしら?」

「いえいえ、むしろ助かりました」

「なら良かった」

 悠太郎と凛奈は千佳と千恵に「遊んで欲しい」とせがまれながらも、白峰家を後にする。

「次は白峰さんが言っていた、宮澤さんのとこ。凛奈さの振り付け担当」

「うん!」

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夢と現の間で -人は電子の虚飾に夢を観る- 河野守 @watatama

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