第4話

 凛奈との所属契約が結ばれた翌日。

 悠太郎が昼休みに自分のクラスで昼食を食べていると、校内放送が聞こえてきた。

「一年六組の槙野悠太郎君。至急、一階生徒指導室まで来てください」

 校内放送の内容は、悠太郎の呼び出し。

「悠、お前何やったんだよ?」

 クラスメイトの新見 浩介にいみ こうすけは購買で購入したパンを齧りながら、訝しげに尋ねた。

「さあ、なんだろう」

 悠太郎も首を捻る。

「とにかく行ってくるよ」

 悠太郎は弁当の残りを口にかきこみ、教室を出た。

 生徒指導室までの道すがら、悠太郎は呼び出しの理由を考えてみるが、思い当たるものはなし。

 授業も真面目に受けているし、問題行動はしていないはず。自分で言うのもなんだが、生徒指導室は縁遠い存在だ。

 気づかない内に何かやらかしたかなと思いながら、「失礼しまーす」と緊張した面持ちで生徒指導室に入る。

 そして、脱力した。

 呼び出しの理由がわかったからだ。

 部屋には一年生の学年主任である男性教師と凛奈がおり、彼らは向き合うようにテーブルに座っている。

「来たな。座ってくれ」

「は、はい」

 学年主任に促され、悠太郎は凛奈の隣に座った。

「槙野、呼び出して悪かったな。ちょっと燐堂のことで聞きたいことがあってな。槙野がアルバイトしている事務所に、アリドルとして所属するんだって?」

「そうです」

「知っての通り、うちの学校はかなーり寛大だ。アリドルの活動に目くじらを立てたりはしない。ただ、一応懸念事項があってな」

「懸念事項、ですか?」

「ああ。燐堂にファンができて、そのファンが何か問題行動を起こさないかだ。……

「……先生が不安にあるのは当然だと思います。ですが、が二度と起きないように、ファンも事務所も皆気をつけています」

 悠太郎は「それに」と続ける。

「彼女のことは、俺が、事務所が必ず守りますよ」

「そうか。それならとりあえずは安心だ。ただ、何かあったら学校にも報告してくれると助かる」

「承知しました」

 悠太郎達はアリドルの活動について幾つか質問された後、ようやく解放された。

 生徒指導室を出た凛奈はニコニコした顔で悠太郎を見ている。そのことについて悠太郎が言及すると、更に笑みを濃くした。

「悠君、私のこと守ってくれるって言ったでしょ。すごく嬉しかった」

「まあ、俺の役目だしね」

 アルバイトといえ、悠太郎も事務所の人間。所属しているアリドルを害する存在から守るのは当然である。

「えへ、えへへ」

 凛奈は頬を染め、ゆらゆらと体を揺らす。なんだかよくわからないが、機嫌がいいらしい。

「それで悠君、アリドルの活動っていつから始めるの? 今日から?」

 前のめりになる凛奈を、悠太郎は宥める。

「まあまあ、落ち着いて。アリドルはすぐにデビューできるわけじゃないよ。色々と準備をしなきゃいけない。パフォーマンスのための衣装や歌とか。その辺をまずは一つずつやっていこう」

 アリドルはデビューまでに多くの準備が必要。最近の視聴者は目が肥えており、手を抜けば簡単に見抜かれる。だからデビューのための準備を丹念に整えていく必要がある。

「とりあえず、今日事務所でデビューのことについて教えるから。詳しい話はその時にしよう」

「うん、わかった」

 スマートフォンで時刻を確認すると、もうすぐ次の授業だ。

「じゃあ、燐堂さん、放課後にまた」

「うん、じゃあねー」

 二人は別れ、それぞれの教室に向かった。

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