第10話 鬼さん、大人気になる


”第9課やんけ!”

”おいおい凄いのが来ちゃったよ”

”え?これ鬼さんどうなっちゃうの?”

”もし鬼さん殺したら絶許”

”でも黒槌の方を取り囲んでね?”


「お、おい! 何故俺たちを取り囲む!?」


 何故自分たちに銃口が向けられるのか理解できない様子で、猿山社長が叫んだ。


「逮捕するなら、あっちの化け物の方だろうが!」


「あら、ごめんなさい? 私たちって”『株式ギルド・黒槌』への強制捜査と猿山カネオの逮捕”で来ただけなの」


「な……なんだと……!?」


「『株式ギルド・黒槌』の労働環境は探索者労働基準法に違反している疑いがあるのと、猿山カネオ社長が社員へ不当な暴力を働いていると通報がありました」


「し、知らん! 誰かが俺を貶めようとしてるんだ!」


「それから、あなたの悪事は全て兎華モモイも配信で見させてもらったわ」


「ふぐ……!?」

 スマホの画面を見せつけながら、ニッコリと笑う女性隊員。


 その画面には、今まさに俺たちと一緒に彼女や第9課が映り込んでいた。


「探索者に対する脅迫、暴行未遂、あとさっきの拳銃は会社の調達装備に登録されてなかった物ね」


「ち、違う……悪いのは俺じゃ……!」


「はい、現行犯逮捕」


 第9課の隊員二人が猿山社長を取り押さえる。


 両手を後ろに回されて手錠をかけられるまで、ほんの2~3秒しかかからなかった。


”ざまあああああああああああああああああああああ!!!”

”やったあああああああああああああああ!!!”

”グッジョブ第9課!”

”祭りじゃ!今宵は祭りじゃ!”

”二度と豚箱から出てくんなバーカ!”


「チ、チクショウ! 離せぇ! こんなこと許されると思うなよぉ! 保釈金なんて幾らでも積めるんだからなぁ!」


「罪状が多すぎて、無期懲役は確定だと思うけど? ま、精々いい弁護士にお金を積むことね」


「オラ! キリキリ歩け!」


 隊員に連行されていく猿山社長。


 同僚たちも連行されるが、特に手錠もされたりはしなかった。


 それに彼らへの隊員たちの対応が優しかった気がするのは、たぶん気のせいじゃないだろう。


「さて……」


 女性は俺の方を見ると、こちらに向かって歩いてくる。


”お……?”

”どうなる?”

”この隊員さん可愛よ”

”めっちゃ美人さんだな”

”お、俺は鬼さんから浮気しないんだからね!”

”これモモイちゃんのチャンネルなんですが……”


「どこから話したものかしら。とにかく二人共無事でよかった」


「お、おう……」


「特に兎華モモイさん、あなたの配信のお陰で迅速な逮捕ができました。ありがとう」


「いえいえ、それほどでも!」


 ふんす!と胸を張るモモイ。


 ん……?

 なんかあんまり驚いてないな……?


 たぶん素直な性格の子だから、もっと驚くなり怯えるなりすると思ってたんだけど。


 それにさっき第9課が現れたタイミングといい……まるで示し合わせたかのような――


「悪いけど、重要参考人として二人も同行してもらいます。モモイさん、配信はそろそろ終わりにしてもらえる?」


「はーい」


 モモイはドローンの方へ振り向くと、


「それじゃあ皆、残念だけど配信はここまでにしなきゃみたい。一緒に【鬼】さんを応援してくれて、ありがとね!」


”それほどでも(ドヤァ)”

”え~ここで終わり?”

”でも鬼さんのいいとこ観れてよかったわ”

”それな。サイン欲しい”

”鬼さんのファンになりました”

”鬼さん結婚して!”

”グッズ作ろうかな?絶対売れる”

”俺アクキー作るわ”

”モモイちゃん配信お疲れ!受け取って!「\10,000」”


「あ、スパチャありがとう! 何日かしたら動画も上げるから、楽しみにしててね! バイバイ!」


 ドローンのカメラに向かって手を振るモモイ。

 それに合わせて、第9課の女性も笑顔で手を振った。

 ノリいいっすね。


 配信が終了すると、


「モモイさんは先に行っててくれる? 少し彼とお話したくて」


「え? でも……」


「大丈夫。決して危害は加えないと約束するわ」


 女性に言われ、仕方なしに俺たちの下を去っていくモモイ。


 俺たちは二人きりになると――


「……しばらく見ない内に随分と変わったわね、タクミ」


「それはお互い様だろ、トウコ」


「フフ、久しぶりに幼馴染と再会したんだから、もう少し喜んでよ」


「再会の仕方が違ってたら、俺だって喜んださ」


 ――子供の頃、俺が「一緒に探索者になろうよ」と語り合った幼馴染。


 それがこの月城トウコだ。


 歳は俺と同じで、並外れた身体能力を持つ日本有数の探索者。


 かれこれ5年くらい疎遠になってしまって、今頃なにをしてるのかと思ってはいたが……。


「まさか第9課の隊員になっていたとは……」


「ウフフ、今は主任まで出世したのよ。凄いでしょ。さっきの隊員は全員部下なんだから」


 それは凄い。

 っていうか主任ってマジか。

 もう完全に出世コースじゃん。


 なんかつい数日前まで自分が社畜だったことを考えると、ますます泣けてくるな。


「ところであなた……随分厄介なことになってるじゃない?」


「この身体のことか? お陰で【鬼】なんてネットで呼ばれてるよ」


「どうしてそんな身体になっちゃったの?」


「ダンジョンで知らないモンスターに噛まれたら、こうなってた」


「ふーん」


「いや、ふーんって……。こっちは地上に出られなくて困ってんだからな!?」


「でも、これで出られるでしょ?」


「え……あっ」


 重要参考人としての同行――。

 

 そうか、確かにこれなら堂々とダンジョンから出ていける。


 名目上、第9課に保護されることになるワケだからな。


 でもなぁ……。


「……国の実験動物にされるのは嫌なんだが」


「安心して、そんな風には絶対させない。そのためのコネも取り付けたわ」


「マジ?」


「ええ。……ほ、他ならぬ幼馴染のためだもの」


 じ~ん……。

 トウコ、お前そんなに俺のこと大事に想ってくれてたのか……。


 やっぱ持つべきモノは友達なんだな……。


「でも色々な検査は受けることになると思う。それは覚悟しておいて」


「そのくらいなら、まあ……」


「じゃあ行きましょう。久しぶりの外の空気は、きっと美味しいわよ」


「ああ……楽しみだ」


 俺はトウコにエスコートされ、数日ぶりに『新宿ダンジョン』から脱出。


 無数の取材陣に囲まれてビビッたりはしたが、青空の下の空気を堪能しつつ車に乗り、ダンジョン調査庁へと向かったのだった。



 しかし――この時の俺は、想像もしていなかったのである。


 モモイの配信がバズりにバズり――

 ”空前の【鬼】さんブーム”が起きて大人気となってしまい――

 あまりにも世論が俺に味方した結果――


 まさかこの姿のまま、配信者を始めることになるなんて。


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よろしければ↓もどうぞ!


「カップル配信して!」と幼馴染に頼まれた俺、うっかり女性しか入れないはずのダンジョンに入って無双した結果バズりまくってしまう

https://kakuyomu.jp/works/16817330659478768117


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うっかり美少女ダンジョン配信者を助けて大バズりした俺、モンスターに襲われ【鬼】に転生した社畜探索者だとバレて大人気に ~不滅の鬼の配信者~ メソポ・たみあ @mesopo_tamia

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