第9話 鬼さん、かつての上司をぶっ飛ばす


「タクミ、てめぇ……!」


「アンタのことはクソだと思ってたけど、まさか未成年に手を上げようとするとは。つくづく失望したよ」


 もう愛想が尽きた。

 いや、初めから愛想などなかったかもしれんが。


 牛尾田はバッと俺から間合いを離すと、


「……俺の邪魔をするのがなにを意味すんのか、わかってんだろうな」


「勿論だ」


 俺はモモイを庇うように、彼女の前に立つ。


「アンタらの下には戻るつもりはない。もし頼まれたって、こっちから願い下げだ」


”鬼さんカッコいい……!”

”カッコよすぎだろ!”

”俺、鬼さんに付いて行きます”

”鬼さんへ応援スパチャするわ「\5,000」”


「フ……フハハハハハ!」


 高笑いを上げる牛尾田。

 彼は背負っていた大槌を掴み、構える。


「聞きましたか社長!? 殺っちまっていいですよねぇ!?」


「許可する! いいから早く配信をやめさせろ!」


「だとさ。今からお前はただのモンスターだ。心置きなく駆除できるってもんだぜ、ヘヘヘ」


 よく言う。

 どうせ言うこと聞かなかったら、殺す気満々だったくせに。

 大人数で来た時点でバレバレだから。

 

 っていうか既にネット配信されてる時点でお前らお終いなのに、無駄な悪あがきするなよな……。


”牛ブタとかいう奴の小物感ヤバい”

”コイツら手遅れって気付いてないの?”

”マジでアホだな”

”ファーヴニルドラゴンをワンパンできる鬼さんに勝てると本気で思ってるんか……?”

”鬼さんが3秒で勝つに1万賭けるわ”


「ちっとばかし強くなったからって調子の乗ったこと、後悔するんだなぁ!」


 大槌を振り被って突進してくる牛尾田。


 彼の大槌の一撃は、並のモンスターならば十分致命傷となる。


「死ねオラァ!」


 思い切り振り下ろされる大槌。


 ドオン!という轟音と共に槌頭が地面を割り、砂埃を巻き上げて陥没させる。


「ハハハ! ぶっ潰れたかぁ!?」


「どこ見て言ってるんだ?」


「――へ?」


 俺は大槌の一撃を苦もなく回避し、牛尾田の間合いのさらに内側――奴の目の前に立つ。


 そして腕を僅かに伸ばし、中指を親指でグッと押さえ――


「今は配信中だから、特別にコレ・・で許してやる」


 デコピン・・・・を、牛尾田の額に放った。


 ――ズガァンッッッ!!!


「ほげええええええええええええええええええぇぇぇぇぇぇッ!」


 牛尾田はスーパーボールのように地面をバウンドし、何メートルも向こうまで吹っ飛んでいく。


 最終的に壁に激突して止まり、泡を吹きながら沈黙。


 一応頭が割れない程度に加減はしたから、死んではいないだろう。


 しかしまあ、なんともみっともない悲鳴だったな。


”強えええええええ!!!”

”半端ねぇっす鬼さん!”

”強い!絶対に強い!”

”デコピンで人吹っ飛ばすのなんて漫画でしか見たことねーぞ!”

”鬼さん最強説がまた証明されてしまったな”


「な……な……!」


 猿山社長は信じられないという顔で震え上がり、他の社員たちも唖然とする。


 牛尾田は社内で一番強い探索者。


 それがこんなにあっさり負けるとは、夢にも思わなかったのだろう。


 本当は腕の一本でもへし折って、今までの鬱憤を晴らしてやりたかったが……配信は未成年者が観てるかもしれないし。


 これならモモイのチャンネルがBANされたりはしないだろ。


 ……しないよな?


「さて、もう諦めたらどうだ? 猿山社長」


「ふ、ふ、ふざけんじゃねぇ! こんなところで引き下がれるかよ!」


 彼は残りの社員たちを睨み、


「お、お前ら! 早くアイツを殺せ!」


「「「……」」」


「なにしてんだ! 全員クビになりたいのか!?」


「……俺、クビでいいです」


「ほへ……?」


「俺も」


「俺もだ」


 20人いた『株式ギルド・黒槌』の探索者たち――つまり俺の同僚は、次々と武器を地面に投げ捨てていく。


 武器って一応会社の備品だからな。


「社長も見たでしょう。今のタクミ相手じゃ、俺たちが束になっても勝てっこないですよ」


「き、貴様ら……!」


「それに……タクミを殺すなんてゴメンです」


 ……おや?


「俺はアイツに貸しがある。やっぱり恩を仇で返すような真似はしたくない」


「俺もだ。アイツにダンジョンで助けられたことがあるよ」


「俺は前に残業手伝ってもらった!」


「私はノルマの素材を分けてもらったことがあるわ!」


「私の代わりに牛尾田に怒られてくれたこともある!」


「タクミはいい奴だよな」


「アイツ殺すくらいなら、こんなブラック企業やめてやる」


「俺も!」


「私も!」


 一人、また一人と武器を放棄する同僚たち。


 もう完全にストライキ状態である。


”【朗報】鬼さん、元同僚に好かれていた”

”鬼さんいい人だったんやな”

”会社員の鑑”

”強くて優しいとか無敵やん?”

”どっか鬼さん採用しろよ。業績アップ間違いなしだろ”

”『株式ギルド・蒼槍』です。ウチに来ませんか?”

”ヤバ、涙出てきたわ……”


 俺……そんなに感謝されるようなことしてたんだ……。


 同じ会社に勤める人間として、それくらいの助け合いは普通だと思ってたけど……。


 結局、同僚全員が武器を放棄。


 残ったのは――猿山社長だけとなった。


「……残ったのはアンタだけだな、猿山社長」


「ぐ……ぐぐぐ……!」


「終わりだ。このまま帰るなら黙って見過ごしてやる」


「ふざけるなぁ! 俺は終わってなんかいねぇ!」


 最後の悪あがきなのか、懐から拳銃を抜き取ってこちらに向けてくる猿山社長。


 そんなモン、今の俺には豆鉄砲も同然なんだけど。


”諦め悪すぎて草も生えない”

”いいからもう〇ねよコイツ”

”黒槌の株価が凄い勢いで暴落してて笑う”

”これ絶対倒産するじゃん”

”倒産どころか豚箱行き確定なので”

”なんか新宿ダンジョンに警察っぽいのが入ってったらしいよ”

”マジ?”


「死ねぇ! この化け物がぁ!」


 狙いを付け、引き金が絞られようとした――まさにその瞬間。


 ドンッ!という銃声と共に、彼の手から銃が弾き飛ばされた。


 猿山社長以外の誰かが、彼の拳銃目掛けて発砲したのだ。


「ぐぁ!?」


「そこまでよ」


 直後、強襲防護服と突撃銃で武装した特殊部隊らしき者たちが、一斉に雪崩れ込んでくる。


 コイツらの格好――知ってるぞ。


 ダンジョン調査庁の探索者取り締まり部隊、通称”第9課”の連中だ。


 探索者なら名前を聞いただけで震え上がる、探索者狩り専門の部隊である。


「全員動くな! 手を頭の後ろに、地面に膝を突け!」


 そんな第9課が、猿山社長や同僚たちをぐるりと取り囲む。


 少し遅れて――つい今しがた発砲したであろう拳銃を片手に持った、若い女性隊員が現れた。


「あなたたちを現行犯逮捕します。無駄な抵抗はやめることね」


 メガネをかけた、ショートヘアの女性が。


 ――あれ?

 アイツーー


「……久しぶりね、タクミ」


==========


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「カップル配信して!」と幼馴染に頼まれた俺、うっかり女性しか入れないはずのダンジョンに入って無双した結果バズりまくってしまう

https://kakuyomu.jp/works/16817330659478768117


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