うっかり美少女ダンジョン配信者を助けて大バズりした俺、モンスターに襲われ【鬼】に転生した社畜探索者だとバレて大人気に ~不滅の鬼の配信者~

メソポ・たみあ

第1話 鬼さん、配信者を救う


「今日も残業か……」


 俺こと鈴木タクミは、腕時計を見てため息を漏らす。


 また終電に間に合わなかった。

 今月に入って既に14回。


 今日でめでたく15回目となるだろうが。


 マジで酷い。

 ひと月の半分は当日中に家に帰れてない。


「ノルマがキツ過ぎるんだよ!」


 スマホを取り出し、今日のノルマが書かれた連絡メールを改めて見直す。


 エリクサーフラワー100本

 ミスリルの原石10キロ

 サラマンダーの牙30本

 セイレーンの羽根50枚


 これを『新宿ダンジョン』で採取すること


 DランクからBランクの素材まで選り取り見取り。


 ……どう考えても、一日で収集し切れる量じゃないんだが。


 ウチの会社は、これがダンジョンの中を一体何往復すれば達成できるのか知ってるのだろうか?


 入り口のDランクエリアからBランクエリアの奥まで、最低でも10往復だ。


 1往復するのだってかなり時間と労力がいるし、ダンジョンにはモンスターだって出没する。


 大変とか危険なんてレベルじゃない。


 しかも、これで俺一人のノルマだ。

 無茶苦茶過ぎる。


「それでも、AランクやSランクのモンスター素材じゃないだけマシなんだけど」


 ――俺は探索者だ。


 それもブラック企業『株式ギルド・黒槌』に所属する、底辺探索者である。


 幾らでも替えが効くので、このように無茶なノルマを課せられがち。


 そんな無茶な業務を黙々とこなしているのだから、我ながらとんだ社畜である。


「子供の頃に俺が憧れた探索者って、こんなんだったっけ……?」


 今から10年前――『ダンジョン』がこの世界に出現した。


 モンスターが徘徊するダンジョンは極めて危険な場所だったが、従来の常識では考えられないようなアイテムや素材が大量に存在していた。


 一瞬で傷を治す薬とか、羽よりも軽く鋼よりも硬い鉱物とか。


 なんなら、未だに発見されていない未知のアイテムが大量にあるという。


 それらを求めて、人々は危険を承知でダンジョンへ潜ったのである。


 さらにダンジョンへ潜った人間は、特殊な力に覚醒。


 凶悪なモンスターとも戦える力を獲得し、勇猛果敢にダンジョンへ挑む者たちを、人々は探索者と呼んだ。


 そんな探索者に憧れた者は数多い。


 俺もその一人だったが――現実は甘くなかった。


 まさか探索者がこんなにブラックな生活を送っていたとは……。


「まあ俺って探索者としてはあんまり強くないし、仕方ないんだけどさ」


 昔は幼馴染と「最強の探索者になってやろう!」とか話してたのに。


 どの世界でも、弱者の立場は弱いものだ。


 最近はダンジョンに潜って動画配信をするのが流行ってるらしいが、きっと強者に許された特権なのだろう。


 以前チラッとだけやってる人の動画を観たことがあるけど、「これでどうやって生活費稼いでんだ?」としか思わなかった。


 少なくとも俺には無縁の世界だろうな。


 こうしてダンジョン内で仕事できてるだけでもマシと思わねば。


「さて、あとはセイレーンの羽根を集めるだけだ。頑張れ俺」


 重いリュックを担ぎ直し、腰の剣に手を置きながら、俺は再び『新宿ダンジョン』へと入って行く。



 ――この後、自分の身に降りかかる出来事も知らずに。




 ▲  ▲  ▲




”モモイちゃんピンチやん!”

”逃げて!早く逃げて!”


「あ……あぁ……!」


 スマホのコメント欄に書かれた文字を見ても、私は足を動かせない。


 恐怖ですっかり腰を抜かし、足が竦んでしまったのだ。


「……探索者か?」


 ソレ・・は、私に尋ねてくる。


 身体中の血管を浮き上がらせ、

 真っ赤な瞳を持ち、

 額から2本の角を生やした、


 そんな――人のような怪物が。


「答えろ、ここでなにをしている」


”なんだコイツ!?”

”怖すぎてワロえない”

”人……じゃないよな?”

”こんなモンスター見たことないわ”

”今日がモモイちゃんの死亡配信になっちゃうの?ショック”

”死なないでモモイちゃん!「¥5,0000」”


 凄い勢いでコメントが流れていく。

 同接数もどんどん増えてる。


 1000万人――

 1500万人――

 2000万人――


 まだ――まだ伸びる。

 まだ止まらない。


 世界中の人が見に来てるんだ。

 信じられない。


「はぁ……はぁ……!」


 恐怖、緊張、興奮。

 もう心臓が破裂しそう。


 たぶん今回の配信は、私の人生で一番の再生数になると思う。


 そして今日が――私の命日にもなるかもしれない。


『グウウゥゥゥ……!』


 離れた場所で、ファーヴニルドラゴンが起き上がる。


 巨大な身体と漆黒の鱗を持った、Sランクモンスター。


 凄く強くて、これまで何人もの探索者を食べちゃってるらしい。


 ちなみに、そんなファーヴニルドラゴンはさっき殴り飛ばされている。


 でも殴ったのは私じゃない。

 目の前の怪物がやったのだ。


『グゥオオオオオオッ!!!』


「うるさい」


 私たちに襲い掛かってくるファーヴニルドラゴン。


 けれど――人のような怪物はグッと拳を握り、殴打を叩き込む。


 すると、ファーヴニルドラゴンの上半身が弾け飛んだ。

 まるで破裂する風船みたいに。


 ほんの一瞬の出来事である。


”強っっっっっっっっよ”

”強ええええええええええええええええええええええええ!!!”

”は?なにこれ?CGとか合成じゃないの?”

”ファーヴニルドラゴンを一撃とか始めて見たんだけど!?”


 あまりにも非現実的な光景。


 私はもう放心状態で、足を震わせることしかできなかった。


 人のような怪物は再び私の方へ向くと、


「俺のことは誰にも言うなよ。いいな」


 そう言い残して――去っていった。


 信じられないけど……私、助かっちゃったみたい。


”ア、アイツなんだったん……?”

”モモイちゃんを助けてくれたってこと?なんで?”

”とにかくモモイちゃん生還おめ!”

”やっぱ怪物もアイドル配信者には優しかったか”

”誰にも言うなって、もう同接3000万人超えてるんですがそれは”



”それにしても、まるで【鬼】みたいな見た目の奴だったな”



==========


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