第8話 鬼さん、ブラック企業が会いに来る
「社長……」
「心配してたんだぜ? うっかりモンスターに食われてまったんじゃねーかってなぁ、ダッハッハ!」
嘘だ。
絶対に1ミリも心配なんかしてない。
アンタが社員を気にかけているところなんて見たことないぞ。
以前に同僚が大怪我した時は「もう使えないならクビにしろ」と電話で指示を出してたくらいだし。
猿山社長が社員を金儲けの道具としか見ていないのは、社員にとって周知の事実だ。
「……どうしてここへ? 見捨てられたとばかり思っていましたが」
「タクミてめぇ、社長に向かってなんだその口の利き方は! あぁ!?」
もの凄い喧騒で話に割り込んでくるのは、俺の直の上司だった牛尾田ケンジ。
身長が190センチもあるゴリゴリのマッチョで、社長の忠実な僕である。
怪力の持ち主なので、探索者としてそこそこの有能。
まあ戦闘に限り、だけど。
だがあまりにも脳筋な上にキレやすい性格なので、人望は皆無。
特に部下を使ってストレスの憂さ晴らしをするという、絶対に上司にしたくないタイプの奴である。
俺もコイツに、折檻という名のパワハラを何度受けたことか……。
「まあまあ、多めに見てやるよ」
猿山社長は牛尾田を窘めると、一歩前へ出る。
「しかし驚いたわ。ネットが【鬼】の話題で持ち切りかと思えば、お前そっくりの化け物が映ってるんだもんな」
「……」
「理由は知らねぇが、そんな醜い姿になって戻れなくなったんだろ? このままじゃお前、お国やら他の会社やらに殺されっちまうぞ」
「……かもしれませんね」
「けどな、喜べ。俺が地上に連れ戻してやる」
「え?」
「ウチで
ニチャっと下卑た笑みを浮かべる猿山社長。
「ファーヴニルドラゴンを軽く倒せるとなりゃ、お前は金のなる木も同然。それに見世物としても上等だ」
ああ……なるほど。
そういうことか。
「俺の忠実な犬になると誓え。そうすりゃ守ってやる」
「……社員として復帰できる、というワケじゃなさそうですね」
「当たり前だろうが! 外に出られるだけありがたいと思えや、このカスが!」
ここぞとばかりに罵声を浴びせてくる牛尾田。
アンタとは話してないんだけどな~。
「大した力もない役立たず探索者だったお前を今まで雇ってくださったのは、他でもないこの猿山社長だぞ!? そのご恩を忘れたか!?」
いやまあ、雇ってくれたことは感謝してる。
それ以上に社畜として使い潰してくれたことを恨んでいるけど。
しかし今思い返しても、どうしてこんな会社に入ってしまったのやら……。
一緒に探索者を志した幼馴染なんて、色んな大手からオファーが来て選び放題だったのに。
子供の頃は「一緒に探索者をやろうよ」「最強の探索者になってやろう!」なんて話してたのになぁ。
結局、俺はブラック企業にコキ使われるのが精一杯だった。
アイツは今頃、どこでなにをしているのやら……。
「おい、聞いてんのかタクミ!」
「え? ああ、すみません」
「ウチに戻ってくる以外、お前の居場所なんかねぇって言ってんだよ! この醜い化け物め!」
「――あんまりです!」
牛尾田が怒鳴り声を上げた直後――それを掻き消す勢いで、少女の声がダンジョンに響いた。
「え……?」
「酷過ぎます! あんまりです!」
直後、岩陰からモモイがズカズカと出てくる。
ほっぺを真っ赤にし、怒り心頭といった感じで。
そんな彼女の頭上には、相変わらずドローンが飛んでいる。
”お、モモイちゃん出ていった!”
”これってマジなの?撮影じゃなくて?”
”でも黒槌ってめっちゃブラック企業で有名だよな”
”超ブラックだよ。評判最悪”
”俺別の会社で探索者やってるけど、コイツら知ってる。間違いなく本物”
”マジ?じゃあリアルなんか”
”信じらんない。クソだわコイツら”
”鬼さんを化け物呼ばわりしてるコイツらの方が醜い”
”それな。拡散したろ”
「やっぱり皆も怒ってるよね!? 私も超怒ってる!」
「お、おい! 隠れていろと――!」
「! ま、まて、そのドローンまさか……!」
モモイとドローンを見た猿山社長は血相を変える。
あ、そういえば……この子、まだ配信中だったんだっけ。
「そうです! 貴方たちの会話は、全部ネットに配信されてるんだから!」
「なに……!? あ、あのガキを捕まえろ! ドローンを壊すんだ!」
焦った猿山社長は部下たちに指示を出す。
だが流石に彼らの中にもどよめきが起き、
「し、しかし……」
「早くしろ! でないとお前ら全員クビだぞ!」
「チッ、腰抜け共め。ご安心を社長、俺がやりますんで」
牛尾田がポキポキと拳を鳴らし、モモイへと近づいていく。
流石は猿山社長の忠実な下僕。
未成年の女の子相手でも躊躇しないらしい。
「嬢ちゃんよ、大人しく捕まってドローン渡してくれるなら手荒な真似はしねぇが」
「ぜ、絶対に嫌! 誰があなたたちなんかに……!」
「そうかい。そんじゃ――ちょっと痛えぞ!」
牛尾田は右腕を振り被り、モモイを殴ろうとする。
しかし――そんな彼の手を、俺が止めた。
「あ……?」
牛尾田の剛腕は、あまりに呆気なく俺の手の平に受け止められる。
今の俺にとって、その殴打は羽根のように軽かった。
「――よかった、これで正当防衛が成り立つ」
”いいぞ鬼さん!”
”やっちまえ!ぶっ飛ばせ!”
”俺、鬼さんを応援するわ”
”うおおお!モモイちゃんを守ってくれ!”
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「カップル配信して!」と幼馴染に頼まれた俺、うっかり女性しか入れないはずのダンジョンに入って無双した結果バズりまくってしまう
https://kakuyomu.jp/works/16817330659478768117
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