第11話 門
「さて、到着だ」
「ここは……」
矢島の案内の下、辿り着いたのは人気の無い廃ビルだった。
「中で弟子が待機している筈だからこのまま入ろう」
「勝手に入っていいんですか?」
「まぁ、本当はダメだけど人払いの結界とか張ってるから事実上、OKだね」
どうやらバレなければOKということらしい。
それで良いのかと思いながらも従う以外に選択肢のない善幸は矢島の後に続いて廃ビルに足を踏み込む。
「あ、それとこれから会う子はちょっと気難しいところがあるから一応、注意してね」
「え、それ直前で言うんですか?」
突然の新情報に困惑する善幸を無視して歩く矢島はその先に存在する階段の段差に腰掛け、スマホを弄っている少女の姿を発見すると笑みを浮かべる。
「やぁ、渚。来たよ~」
「矢島さん、遅いですよ」
片手を挙げて挨拶をしてくる矢島に待機していた祓魔師の少女がどこか責めるような視線を向けながら呟く。
「ごめんごめん、それで赤羽くん。彼女が話していた今話した僕の弟子の祓魔師、
「…………」
内側が青く染められたセミロングの黒髪。白く透き通った肌にモデルの如きスラリとした身体付き、どこか気怠げながらも整った顔立ち。けれどそんな彼女の容姿よりも目立つのは彼女の背後に置いてある一本の薙刀と思わしき長物だった。
「……矢島さん、そっちの人は?」
「ああ、彼が今日任務に同行する新卒祓魔師の赤羽くんだよ」
「は、初めまして。赤羽善幸です」
ジロリと青み掛かった瞳で渚に睨み付けられた善幸は彼女の背後に突き刺さってる凶器の存在も相まってビビりながら挨拶をする。
「……この人が例の悪魔憑き?」
「そうだよ……っと?」
「…………ッ!?」
ガキンッと金属音が鳴り響くと同時に渚は勢い駆け出し、善幸が気付いた時には薙刀の鋭い刃が喉元に突き付けられていた。
「…………」
「……矢島さん、ホントにこの人連れて行くつもり?」
突然のことに何もできず硬直する善幸に刃を突き付けながら渚は矢島にそう尋ねる。
「不満かい?」
「これなら連れて行くだけ無駄でしょ。寧ろ邪魔になるよ」
「そりゃ、素人だからね」
「ただの素人なら良いけど、この人は悪魔憑きでしょ?それもオロチの」
「封印術式はしっかり———」
「でも絶対じゃない」
「だから今回は僕もいる。それにそうならないようにする為にこうして付き添って貰うんだ」
「…………」
矢島の言葉を聞いた渚は暫し黙った後に善幸から刃を離すとクルクルと器用に薙刀を回し、再び地面に突き刺す。
「…………はぁ、アタシに迷惑は掛けないでね」
「…………」
そう告げて去っていく渚に対して善幸は何も言うことができず、呆然としながら彼女の小さな背中を見送る。
「よし、無事に顔合わせも終わったね」
「どこが?」
爽やかな笑みと共に呟く矢島の言葉に善幸は思わず突っ込む。今の顔合わせはどう考えても無事に済んで無いし、何なら最悪である。
「初顔合わせの筈なのに印象がマイナスに振り切れてるんですけど……俺、何かしました?」
「赤羽くんというより、オロチに憑かれてるのが原因だね。君自身の好感度が30くらいだとするとオロチの好感度が−10000ぐらいだから総合−9970くらいかな」
「これがギャルゲーなら攻略を諦めるくらいの初期好感度ですね」
なかなか絶望的な数字だ。果たして彼女と仲良くできる日は来るのか。
「大丈夫、祓魔師としてしっかり働いてれば好感度なんてすぐに0になるよ」
「0なんですね。いや、初期値マイナスから始まってるんで当然と言えば当然ですけど…………」
「とまぁ、好感度云々はともかく、悪かったね。後で渚には注意しておくよ」
「いえ、そこまでは……」
とは言いつつもアレはちょっと酷くないかと善幸は内心で思う。せめて俺とオロチは別に扱って欲しいというのが善幸の本音だった。
「けど、それだけオロチは危険な悪魔ってことだよ。渚を擁護する訳じゃないけどね」
「なのに俺をこうして自由に出歩かせて良いんですか?」
「自由では無いでしょ?祓魔師になるっていう条件を付けてるし、そもそも赤羽くんの生殺与奪権も僕が握ってるしね」
「……確かに」
言われてみると思ったより自由じゃ無い。特に生殺与奪権を他人に握られているのは普通に致命的だろう。
「まぁ、さっきも言ったけど陰陽連は今、深刻な人材不足だからね。祓魔師の素質がある人物は誰だろうと基本的に即採用さ」
「なるほど」
新卒自分一人しかいない発言と相まって陰陽連に対するブラック感を強めた善幸は可及的速やかに転職を検討するべきかも知れないと後で転職サイトに登録することを心に決めるのだった。
「さて、色々と不安はあるだろうけどそろそろ時間だし任務の説明を始めようか」
「……」
パンッと手を叩いて矢島はそう呟くとど廃ビルの奥へと向かい、善幸はそんな彼の背中を静かに追うのだった。
*****
「前に神隠しが起きたり悪魔たちが境界を破って魔界からこちらに侵入してくることがあるって話したの覚えているかい?」
「はい、内定承諾書を書いた時の話ですよね。魔界で悪魔が大暴れした時に…………って」
「そう、それらの魔害が起きる原因がアレだよ」
そう言って矢島が差し示す場所へと視線を向けると、そこには不気味な亀裂が形成されていた。
「アレって……」
「あれが魔界とこの人界を繋ぐ扉、通称『
まるで空間に直接形成されている亀裂……
「人を魔界に吸い込み、悪魔を人界に呼び込む魔害である
「はい」
「…………」
矢島の話を聞きながら善幸を任務の為に再度合流した渚は壁に背を預けながらどこかつまらなそうな表情で眺める。
「まぁ、でも何度も言うように今回の任務は基本的に渚に担当して貰うから」
「……は~い」
どこか不満さを感じさせる渚の返事に矢島は苦笑を浮かべる。
「思うところはあると思うけど頼むよ?」
「分かってますって。任務はしっかりやりますよ」
渚は尚も不満げな様子を見せながらも返事をすると薙刀を手に取り、そのまま
そして、渚がその直前で足を止めるとまるで
「えッ!?き。きえ……ッ!?」
「落ち着いて。別に渚は死んだり消滅した訳じゃないから」
いきなり目の前で渚が消えたことに混乱する善幸は矢島に肩を叩かれながらそう説明されたことで少しずつ落ち着きを取り戻す。
「そ、それなら雨島さんは……?」
「
「な、なるほど……」
どうやら渚は魔界に移動しただけらしい。何とも紛らわしいが何事ないようで良かった。
「さて、それじゃ僕らも入ろうか」
「えッ!入るんですか!?」
「そりゃ、魔界に行かないと解決できないからね」
当然だろうと頷く矢島に善幸は先程の光景のせいで
「……本当に何も起きませんよね?」
「大丈夫大丈夫、何も起きないって。ただ魔界に飛ぶだけさ」
「…………」
矢島にそう言われるも善幸の彼に対する微妙な信用度が尚も亀裂への突入を躊躇させる。
「ほら、あんまり遅いと渚に怒られちゃうよ!勇気を持ってゴーゴー!」
「うわ、ちょっ!?押さな———ッ!」
ドンッと矢島に思いっきり背中を押された善幸は体勢を崩しながら前方へ進んでいき、そのまま
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