新卒祓魔師の悪魔祓い~やべー悪魔に取り憑かれたけど内定貰えました~
アラサム
就職先、決定
第1話 死にたくなる瞬間
大抵の人間は生きている内に死にたくなる瞬間というのが何度かは訪れる。
それは恋人に振られた瞬間だったり、高校や大学の受験に落ちた時だったり、もしくは仕事で何か大きなミスをした時だったり、或いはなんてことないふとした瞬間なんてこともあるだろう。
とにかくストレス社会なんて言われているこのご時世において原因や理由、それに度合いも違うだろが誰であれ死にたいと思う瞬間はきっとあることだろう。
そして、
「…………」
最寄りへと歩いている途中、スマホのメール通知に気付いて確認すると選考の結果と書かれた題名のメールが届いていた。嫌な緊張感に苛まれながらメールを開けば採用担当者の挨拶と共に選考の結果が書かれていた。
『厳正なる選考の結果、誠に残念ではございますが、今回は採用を見合わせて頂くことになりました。ご希望に添えず恐縮ですが—————』
幾度となく読んだその文面は所謂、お祈りメールと呼ばれるような内容のメールで………つまりは善幸の最終面接の落選を伝えていた。
「…………」
落選の二文字を目にした善幸は凄まじいショックと虚脱感に襲われる。もう自分も大学4年生だ、そろそろ内定を手にして安心していたいところだが結果は振るわず、来る連絡は尽く落選の通知ばかり。
特に今回の落選通知は数少ない最終面接まで進むことができた希望とも言える会社だったこともあり、受けたショックは特に大きかった。
「………はぁ」
何だか落選通知を受ける度に自分という人間の存在価値を否定されているような気分になり、善幸本人も気付かない内に口から深いため息が漏れていた。
「就活辛ぇ……」
着慣れないリクルートスーツに身を包みながら、これまた慣れない面接に挑み続ける日々。加えてその努力が実らないとなると流石に精神的に来るものがあった。
と言ってもこういう結果になることは善幸自身、何となく予想はできていた。
特にこれと言ってやりたいこと、なりたいものがある訳でも無い。加えてからと言った強みや特技も無い。
志望動機もただ、誰かを役に立ちたい、助けたい。そんな漠然とした理由が軸では他の本当にこの企業に入りたいんだと熱意を持って挑んでいる就活生に勝てる訳も無い。
故にこの結果は必然的だ。分かりきっている。
ただだからと言って割り切れるかと言えば話は別だった。
「………死にてぇ」
思わずボソリと声にして呟く。
決して100%本気で言っている訳では無い。
けれども仮に今、目の前に安楽死のボタンがあって押した瞬間に痛みもなく楽に逝くことができるのならば押しちゃおうかなと迷う程度の気持ちは言葉に込められていた。
尤も現実にはそんなボタンなんて無いし、後で美味しいご飯でも食べてぐっすりと寝ればメンタルもある程度は回復して次の日には普段通りに動けるようにはなるだろう。
ただ、それでも今この瞬間に限って言えば死ぬほど辛いことには変わりない。
ネットニュースで見る自殺未遂者などはこういう精神状態の時に突発的に行動してしまうのかなどと善幸は回らない頭でぼんやりと思いながら歩き慣れた帰路を歩く。
するとそんな彼の眼前を一人の少女が目の前を通り過ぎて行った。
「…………」
まるで女神かと錯覚してしまうほどに美しいその横顔に思わず見惚れてしまった善幸は気付けば視線で裏路地へと向かっていく彼女の姿を追っていた。
纏っている黒色を基調とした制服はこの近くにある女子高のものだっただろうか?スラリとした手足、艶のある黒い長髪、モデル顔負けの顔立ちをしているその少女は大和撫子と言う言葉を体現したかのような美しい容姿をしている。
「綺麗な子だな…」
何だか彼女を見ていると胸中を覆う鬱屈とした気持ちが多少ではあるが、マシになっていくような気がする。何かの漫画で美しいものを見ると健康に良いなんて話を聞いたが、どうやら事実らしい。
————明日からまた頑張るか……。
予想外の出会いで多少なりとも元気を取り戻した善幸はそう気持ちを新たにしながら帰路に着こうとして、ふと気付いた。
「……あの娘、どこに行く気だ?」
善幸は通っている大学がこの近くということもあり、この周辺の地形についてはある程度精通している。故に少女が歩いて行った裏路地の先は行き止まりで、その先に特に何も無いことを善幸は知っていた。
————この辺りに詳しくないのかな?
余計なお節介だろうが折角だし声を掛けて道を教えようかなと善幸は小走りに彼女の背中を追って裏路地へと入る。
その途中、善幸の脳裏をストーカーという言葉が通り過ぎていくが、これは善意からの行動だと言い訳気味に自分を誤魔化しながら裏路地を進んでいく。
路地は整備が行き届いおらず、ゴミが散乱していたりスプレーで書かれた落書きあったりと酷い惨状だった。この路地の様子を見ているとどうして彼女がここを進もうと考えたのか余計に疑問が湧いてくる。
「いやまぁ、俺には関係無いことなんだけど……」
そもそもが他人。何ならついさっき一方的に見かけただけの相手だ。彼女が何をしようが関係無いし、何ならこうして後を追うこと自体が褒められた行為では無いのだが、罪悪感よりも好奇心が勝ってしまった。
湧き上がる罪悪感を押し退けながら彼女を追って路地を道なりに進み続けているとようやく彼女の後ろ姿を発見できた。
路地の行き止まりところで立ち止まっており、やはり道を間違えただけかと善幸が思い込んだ次の瞬間、彼女は予想もしない行動を取った。
「………は?」
思わずそんな素っ頓狂な声が出た。
けれども当然と言えば当然の反応だろう、自分だけではなく他の誰であっても同じ反応をする筈だ。
何せ唐突に懐に手を伸ばしたかと思えば彼女の手には銀色の拳銃が握られていて、しかもあろうことかその銃口を自身の頭部に当てているのだから。
「ッ!!」
気付けば鞄から手を離して全力で走り出していた。
何で彼女が銃を持っているのかとか、何で自殺を図ろうとしているのかとか、そんなことを考える余裕すら無かった。
「やめろォォォオオオオオオッ!!」
「へっ?」
叫びながら善幸が手を伸ばすと背後から聞こえてきた声に引鉄を引こうとしていた少女は思わず指を止めて振り返る。
凄まじい形相を浮かべながら握っている拳銃へと手を伸ばしてくる善幸の姿に少女は驚愕で目を見開いた。
「よせッ!早まるなッ!?全てを諦めるにはまだ早いッ!!」
「ちょっ、いきなり何を言って!?」
少女の持つ拳銃を奪い取るべく善幸は手を伸ばして掴み掛かるが予想以上に少女の力が強く、掴み取ることができない。
対する少女も突然現れた善幸に困惑している様子だったが、それも一瞬のことだった。少女はすぐに何かを思い出したように拳銃を奪われないように抵抗しながらその銃口を自分に向けようとする。
「馬鹿ッ!やめろッ!?」
「誰が馬鹿ですかッ!?というか早くこの手を離してくださいッ!貴方には関係無いことですッ!!」
「はい、そうですかと引き下がれる訳無いだろッ!?」
目の前で自殺をしようとしている少女を止めない理由が無い。きっとそれ相応の理由も覚悟もあるのだろうが、善幸が知ったことでは無い。彼女が死ぬことを正彦が止めない理由にはならなかった。
彼女のような美しい人間が死ぬことは日本の損失、否、人類の損失だ。
「絶対に自殺なんてさせないぞッ!!」
「死…?ち、違いますッ!誤解ですッ!死ぬ気はありませんッ!ですから離して下さいッ!!今は時間が————」
「拳銃を持った奴が何を言っ—————」
揉み合いの中で言葉途切れる。
原因は拳銃を奪おうと少女の手を掴んでいた善幸の手が誤って彼女の引鉄に掛けていた指に触れてしまったことだった。
「あッ!?」
結果、彼女の指はその意に反して押されて引鉄を引いてしまい、銃口から銃弾が発射される。
そしてその弾丸が突き進んだ先にいたのは拳銃の持ち主である少女では無く、拳銃を奪い取ろうとしていた善幸の顔があった。
「—————え」
終わった。
まるで止まったかのように遅くなった世界で放たれた弾丸がやたらゆっくりと自分の顔面を目掛けて迫ってくる。
自分の人生の終わりを悟ると次いで今まで生きてきた21年間分の人生の記憶が頭の中に流れ込んでくる。きっとこれが走馬灯というものなのだろう。
中学校から高校、大学までの出来事の映像がまるでYouTube動画の2倍速のような速さで流れていき、最後には企業に面接を受けに行った時の映像が怒涛の勢いで流れてくる。
「………はっ」
————最後の記憶がこれかよ。
流れた走馬灯の内容に思わずといった様子で苦笑を浮かべる善幸の顔を無慈悲にも迫って来た弾丸が貫いた。
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