第35話
菜穂が目を醒めるといつの間にか
雑木林の中に横になって寝ていた。
外は真っ暗でコウモリが
飛び交っている。
起き上がって辺りを見渡す。
木の根っこの部分を腰掛け代わりに
座っている全身黒い服を着て、
黒いマスク、黒いフードを
かぶっている男がいた。
「起きたか。」
「え、誰?ここどこ?」
「お前、白狼の彼女なんだろ?!」
「え……?」
「知ってるよ。
今日から突然入部することに
なったって。」
「あぁ、サッカー部のこと?」
「俺は、白狼を許さない。
あいつさえいなければ。」
じわじわと迫り来る男。
「は?龍弥が目的なら、
私は関係ないじゃない。」
後退りする。
何をされるのかわからない
恐怖でいっぱいだ。
「関係あるよ。
遠まわって嫌がらせしてやるのさ。
本人は後でじっくり効かせる。
あんたを傷つければ
あいつは手に負えないくらい
怒るだろ?
それが目的だよ。」
男はポケットから
バタフライナイフを取り出した。
暗闇にキラリと光る。
「そんな物騒なものやめなよ!!」
「偽善者ぶってていいの?
傷つくのはお前だよ。」
ダンッと木に菜穂の体を押し付けて、
ナイフを近づけた。
着ていたワイシャツにそっとナイフが触れて上の方が破れてきた。
恐怖で声も出せない。
(なんでこんなことするの。
龍弥を知っているこの人は誰!?
怖い。)
「そこで何してる?!」
たまたま通りかかった警察官が
気がついてパトカーから
おりてやってきた。
雑木林の影になっているところなのに
見つかって助かった。
男はナイフをポケットに入れて、
一目散に逃げ出した。
「あ!!待て!!こら!!」
男性警察官は追いかけた。
怪我は無く、
ワイシャツが破れたくらいで
平気だった。
ぺたんとその場に座って顔を塞いだ。
恐怖のあまり、涙が止まらない。
「大丈夫よ。服破れているわね。
これで隠して。」
もう1人の女性警察官に
バスタオルを両肩にかけられた。
「この辺は物騒だから、
よく事件や事故が起きやすい
スポットなの。
パトロールしておいてよかったわ。」
「取り逃した…。あいつ、足速いな。」
「知り合いだったのかしら?」
「……。」
菜穂は怖すぎて何も言えなかった。
スマホには龍弥からの着信が
あったが、
電話を取る余裕も残されて
いなかった。
ずっとバイブが鳴り続ける。
ラインのメッセージやスタンプの連打もあったが、既読スルー。
パトカーに乗って、
自宅まで送られた。
被害届はどうすると言われたが、
何も答えられないのでいいですと
断った。
「念の為、
ご両親に説明してもいいかしら。」
「いえ、心配させたくないので
言わないでください。」
「本当に良いの?」
「はい。大丈夫です。
両親も仕事で今日は
帰りも遅いですし。
それじゃぁ…。」
菜穂は、玄関の扉を閉めて、
家の中に入った。
警察官2人は心配そうにパトカーに
乗り込んだ。
走り去っていくパトカーを
見ていたのは、
連絡が取れない菜穂を心配して
フットサルを早々に切り上げてきた
龍弥がバイクを遠くの方で停めて
こちらを伺って見ていた。
真っ暗な夜でも光らないパトカーは
遠くからでも存在感があった。
通り過ぎていくのを確認して、
バイクを乗らずに押して進んで行く。
自転車と違って重かった。
菜穂の家の前で停めて、インターホンを押そうとしたが、そんなことしなくてもいいかと、そのまま玄関に行って、ドアを開けた。
「お邪魔しまーす。」
(鍵閉めないのか?)
まだ菜穂の両親が帰ってきてない。
どこに行ったのか。
家の中の菜穂を探した。
リビング、台所、自分の部屋、
どこにもいない。
玄関に菜穂が履いてたローファーが
あった。
帰ってきてるはず。
唯一、見てないところ…
洗面所に行ってみると
乱雑に脱ぎ散らかした制服があった。
お風呂場からシャワーの音が
響き渡る。
曇りガラスの向こう側に
菜穂の姿がうっすらと見えた。
「な、菜穂…。」
シャワーの音が大きくなり、
龍弥の声はかき消されていた。
菜穂が来ていたであろうワイシャツがカッターのような鋭利な刃物で切られたであろう傷がついていた。
龍弥はそれを見て、息を呑んだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます