第21話
アロエジュースを飲み干してから龍弥は中学での部活のことを話し始める。
中学1年の頃から、サッカー部に入り、人数がギリギリだったこともあり、レギュラーに抜擢されて、猛練習していたが、不慮の事故で両親が亡くなった中2の夏。自分自身も怪我をして、一時的に部活を休んでいたが、その頃から、部活内の雰囲気が良くなかった。
人数ギリギリで入った龍弥の学年は突出して上手かったのは龍弥だけで他は、補欠気味になりかけるくらいのやる気のなさだった。こと尚更、やる気のある龍弥が抜けることで、部活の空気が一気に変わった。
それまでの中総体も県大会にまで出場するくらいの強さだったにも関わらず、龍弥が事故で抜けて、全然、勝てなくなり、結局勝てないまま3年生が受験のため、部活を引退してしまった。
その悔しさが、龍弥自身に向けられた。
標的にされたのは同学年ではなく、3年生の先輩達だった。
やっと事故の怪我が治り、両親の葬式やいろんなことが落ち着いて、部活に復帰した頃、引退したばかりの先輩たちに部室に呼ばれ、何も言わずに龍弥はターゲットにされ、集団リンチに遭った。
それまで強豪校として有名だった中学の伝統がプツンと途切れてしまったのだ。
コーチは致し方ないと言っていたが、先輩たちは沸々と湧き上がる怒りにぶつけるところがなかった。
試合に参加できなかった白狼龍弥のせいにされた。
確かに龍弥が試合に出ていたら、余裕で勝てていた試合が多かった。
コーチや顧問の先生も認めるくらいだった。
両親が亡くなるとか、自分が事故に遭うとか、予期もしない事故でどう償えばいいのか。
過去はもう変えられない。
人間不審になったのはそこからだった。
顔も、腕も足も、めちゃくちゃに殴る蹴るの暴行をされて、歩くのもやっとだった。
5人の先輩たちがいなくなった後、部室の中で倒れていると同じ2年で一緒の部活だった
「おい、大丈夫か?」
「無理っぽい。」
全然大丈夫じゃない。そのまま病院に連れて行かれた。
ちょうどその時は2学年だけ三者面談があって、部活が遅れて始まるということを聞いてなかった龍弥は、早々とサッカー部の部室に来てこのありさまだった。
よりによって、三者面談。
龍弥自身は両親が亡くなったばかりでそれどころじゃなかったのだ。
この頃の龍弥は、ごく普通に黒髪のスポーツ刈りで、ピアスなんて興味も無かった。1年の頃からサッカーに一筋で先輩方とも和気藹々とこなして来たつもりだった。
自分が裏切ったのかと自問自答を繰り返す。
たまたま夏休みのお盆休みでサッカー部も休みになり、せっかくだからと両親と出かけてしまった。それが行けなかったのか。
いつまで経っても答えが見出せない。
両親が亡くなってから、不眠も長く続くようになって、睡眠薬を処方されたりもしていた。
こと尚更、先輩たちからの暴力。
もう、不登校になってもおかしくなかった。
龍弥は誰にやられたかは絶対に警察や先生に言わなかった。黙秘し続けた。
その分、もう、サッカー部の部室に足を踏み入れることはできなかった。
そのまま退部した。
やりたかったサッカーを燃焼できずにいたら、祖父に勧められたフットサルの情報を調べて、中3の受験生にもかかわらず、通うようになった。
何とか、フットサルで自分の心と体のバランスを取ることができた。
居場所は学校だけじゃない。部活だけじゃない。外部のフットサルでもサッカーと同じようなことができる。
メンバーは変わる変わるだからお互いにさっぱりできる。
その中で、雪田将志、下野康二、滝田湊、宮坂修二、水嶋亜香里、齋藤瑞紀、庄司優奈、そして、高校のクラスメイトでもあり、同じ部員の雪田菜穂に出会ったのだった。
龍弥にとっては、フットサルのメンバーは中学のサッカー部よりも居心地が良く、楽しく参加できていた。
こと尚更、菜穂に会って、本当の自分を取り戻すきっかけになったと感じている。
「結構、大変だったんだね。サッカー部の話。てか、強豪校にいたの?」
「コーチとか普通にサボってたりするとパチンで跡つかない程度に頬叩くしね。暗黙の了解でみんな黙ってたよ。そうでもしないとみんなやる気出ないから。結構厳しいところだけど、俺は強くなれてよかったよ。事故がなければって思ってしまうけどさ。期待されているもやな感じだよ。さっき、高校の顧問にサッカー部来ないかって誘われたけど…菜穂とフットサルできなくなるのもやだからなぁ。」
「……それじゃぁ私のせいになるの?せっかく続けてきたサッカーやったらいいのに。やめようかな、私。フットサル行くの。元々は、私、お父さんを見張るために行ってたからさ。」
「え、なんでよ。来ないの?てかお父さんを見張る?どういうこと。」
「大きな声では言えないんだけどさ。お父さん、浮気してたの。あのフットサルで彼女作って。」
菜穂は龍弥に耳打ちする。
「え?!うそ。将志さんが?気づかなかった。」
「それで、お母さんに最近お父さんの様子がおかしいから、一緒に行ってみてきてって。それがきっかけでフットサルに私も参加することになってたの。まぁ、龍弥いたから、お父さんが落ち着いた頃は目的は変わったけどさ。」
「へぇ……目的変わったって?何になったわけ?」
「それは……言わないよ。」
「ケチだな。」
「お父さん、やっぱり黒だったからさ。最悪だよ。フットサル施設のスタッフの人とできてるなんて、信じられない。ずっと監視してたら、やめようみたいな雰囲気になってよかったけど。男の人って浮気する生き物だとわかってはいるけど、呆れてしまうわ。お母さんは気にしてないようにして、めっちゃお父さんのスマホチェックしまくってたからな。私はそうならないようにしようとは思うけど…いや、やるかな?どうだろう。」
「まだ、愛されてる証拠じゃん。ヤキモチもないと伝わないこともあるからな。放置は良くない気がするが…。菜穂はどちらかと言えば放置するタイプだよな。クールすぎる…。」
「何を思ってそんなこと言うの? 龍弥は私の彼氏でもなんでもないから。…てか、もう良いよね。話聞いたから。そろそろ帰るわ。」
菜穂は、立ち上がって公園にあるあみあみのゴミ箱に遠くからポンとジュースの缶を投げて入れた。見事に入った。
「ラッキー。」
「ちょっと待って。」
龍弥は左腕をつかんで引き留めた。
「なに?」
「…いや。…その、」
「だから、なに?」
「あーー…。いや、なんでもないわ。暗くなってきたから気をつけて帰れよ。」
龍弥は持っていた缶を同じようにゴミ箱に入れたが、近くから投げたのに全然入らずに不格好に拾って投げた。
立ち止まって、菜穂は龍弥が通り過ぎて立ち去るのを見送った。
「何よ…。引き留めといてそれだけ?」
龍弥は急足で、家路を急いだ。
顔は赤くなり、鼓動は早くなる。
走っているからか。夏だからか。
いや、違う。
龍弥は菜穂に何かを言いかけた。
でも、言えなかった。
この瞬間にきちんと伝えておけばよかったと後からになって龍弥は後悔することになる。
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