第45話
サンキャッチャーが頭に当たった。
今朝は暑すぎて午前5時に目が覚めた。
昨日の花火大会のドキドキが
寝て覚めてもまだ頭から離れなかった。
スマホのパスコードを解いて
写真アプリを起動した。
何気なく撮った
お祭りの時の
龍弥の横顔と
斜め後ろ姿を隠し撮りしてた。
スマホを向けて
カメラを向けようとすると
絶対撮らせてくれない。
ラインを見てるふりして音が出ない
SNOWのカメラアプリで撮ってみた。
ニヤニヤとほくそ笑んで
ベッドで何度も
寝返りを打っていると
ドアの前で
腕組みをした
兄の恭次郎が見ていた。
「……何してんのよ!!」
枕を顔に向かって投げた菜穂。
思いっきり当たった。
「起こしに来たんだよ。
お兄様が。
なんで、
枕を顔に当てられなきゃ
ないんだよ。」
「勝手に入ってこないでよ!!」
出窓に飾られていた
動物のぬいぐるみを
手当たり次第に投げる菜穂。
恭次郎はボクシングのように
シュ、シュと体を横に動かして、
交わした。
「当たらねぇぞ!」
と言った瞬間に顔に思いっきり
めざまし時計が飛んできた。
「菜穂、俺を殺す気か!?」
恭次郎の鼻にぶつかって
鼻血がタラタラと出てくる。
「ご、ごめん。
あれ、もう、こんな時間。
急がないと!!」
菜穂はクローゼットから
制服を取り出した。
「たくっ、起こしに来たって
言ってるのに。
素直にありがとうって
言えってーの。」
鼻にティッシュを詰めて
鼻血をおさえる恭次郎。
「今日は練習試合あるって
言ってたから
早めに行かないと…。
ジャージどこだっけな。
あ、龍弥、今日、迎えくるのかな。
バイクで行くのかな。」
スマホで通話ボタンを押しながら、
荷物の確認をした。
「おはよ!龍弥、
今日、バイクで行くの?」
『おっはー。
え、今起きたばかりだけど。
どうすっかな。
どっちでもいいんだけど
一緒行く?』
「全然できてないけど、
10分後ならいけるよ。」
『寝癖くらい直せよ。
10分で終わらんよ。
もっと時間かけろって。
てか8時半まで行くんだろ。
今7時だから…。
7時半過ぎに
なったらこっち出るから。』
「わかった。んじゃ後で」
通話終了ボタンを押した。
サッカー部のマネージャー業務も
今日で3日目。
池崎が復活するらしいと龍弥から
聞いていた菜穂だったが、
もう吹っ切れたようで
事件のことは気にしなくなった。
虫や紙で切れた傷と思うことに
していた。
「おはよう。今日、学校行くから
お昼ご飯用意しなくていいよ。
途中で買っていくから。」
「おはよう。
ああ、サッカー部のマネージャーね。
ずいぶんアクティブなもの
選んだわよね。
菜穂にしては珍しい。
弁当は買っていってもらうと助かる。
さすがに夏休みくらいは
お休みしたいから。
お昼代、預けるから。」
「うん。ありがとう。
てか、お兄はいつまで
家にいるのよ。」
横に優雅に座ってブラックコーヒーを
飲んでいた恭次郎。
「いつまでいてもいいだろう。
実家なんだから。
余っていた有給を消化してるの。
使い切れないと会社に
怒られるから。」
「真面目だね。
うわ、時間ないや。
お母さん、私朝ごはん
今日いらないから。
髪とメイクする方が大事!」
菜穂は洗面所の方へ行き、
髪と顔を整えて始めた。
菜穂のスマホが鳴っている。
龍弥の着信だった。
菜穂は通話ボタンをスライドした。
「着いた?」
「あのさ、今日、お兄さんいるの?」
「うん。」
「……早く外来てよ。
外で待ってるから。」
「今、行くよ。」
電話の通話終了の赤いボタンを押す。
菜穂はバックにぺットボトルの
レモンティーを入れて
靴をトントントンと履いた。
「いってきます!」
食卓の方から
「いってらっしゃーい。」
声を揃えて
沙夜と将志の声が響いた。
兄の恭次郎は、気にして
玄関の方まで来ていた。
「何?」
「いや、今日もいるのかなぁって…。」
「来なくていいから。
龍弥がウチ来るの嫌がるから
やめて。」
バタンと玄関のドアを閉める菜穂。
慌てて門の外に龍弥がいる道路の方へ
駆け寄った。
「ごめん、行こう。
早く行かないとお兄が
のぞいてくるから。」
「え……。」
菜穂は龍弥の腕をがっちり掴んで
引っ張って歩いた。
「それは困るな。
行こう行こう。」
恭次郎は何かとつけて
龍弥に文句を言いそうだった。
面倒なことに巻き込まれる前に
退散だといそいで歩いて行った。
「ねぇ、それ、何?」
しばらく歩いていると、
龍弥の首に白い輪っかの
ようなものをつけていた。
「これ、知らない?
今流行っているよ。
ネッククーラー。
ほら。」
龍弥は菜穂の首につけてみた。
「うひゃっ。冷た。やだ、むり。」
すぐに龍弥に戻す菜穂。
「涼しいじゃん。
菜穂はびびりだな。」
「別にそこまで暑がりじゃないし、
代謝が悪いだけだけどさ。」
龍弥は自分の首に付け直した。
「今日さ、東高校に行って
練習試合なんだってさ。
バス用意してくれてるらしいよ。
てか、菜穂、池崎が完全復活する
みたいだけど、良いの?」
「…そうなんだ。
緊張するよね。
他の高校行くの。
いっぱい人いるの気疲れしそう。
池崎くん、別に悪さしないでしょう。
部活に参加したくてってことなら
この傷は
虫に刺されたと思って
水に流すし、大丈夫!!
ターンオーバーで1ヶ月もすれば
皮膚は再生してよくなるもん。」
「前と随分違うね。
楽観的やなぁ。
あんなに嫌だって言ってたのに。
ターンオーバーって菜穂の場合は
2ヶ月かかったりして…。」
「え、それどういう意味??
まだ高校生だよ!?」
「こわっ。」
殴りかかりそうな菜穂に逃げる龍弥。
コホンッ。
咳払いする。
学校の門の前で暴れていると、
杉本が近くを通りかかった。
「朝から、イチャイチャしないで
もらえる??
めっちゃ腹立つんだけどさ!!」
「杉本?どした?
今日、部活?」
龍弥のシャツをひっぱり、
グーパンチで
軽く攻撃していた菜穂。
杉本はそのじゃれ合いを見て
イライラしている。
「そう、部活。
これから演奏会。」
「あー、吹奏楽部だっけか。」
「そうです。」
「ごめんね、朝から
見苦しいところ見せて。
龍弥が悪いんだ。」
「は?」
「もう良いけどさ。
学校と外、分けて
対応してもらえるといいかなぁ
と思うな。」
「うん。気をつけるよ。」
「菜穂、ほっておけ。
どーせ やっかみだって。
羨ましいんだよ。」
ギロリと睨む杉本。
彼女いない歴16年。
「どーせ、彼女いないですよーだ。」
むつけて立ち去っていく。
「杉本くんって吹奏楽部だったんだね。
オタクイメージ強いから
てっきり美術部かと思ってた。」
「まあ、確かに。
菜穂、バスにみんな集まってる。
早く行くぞ。」
「あ、本当だ。」
慌てて、バスの出入り口付近で集まるメンバーに近づいた。
「おはようございます。」
「おう、やっと来たか。
今日は、練習試合あるからな。
白狼たち、まだ着替えてないな。
まだ時間あるから更衣室で着替えて。
会場に更衣室がないだってさ。」
「遅れてすいません。
今、着替えてきます。」
「着替え終わってる人は奥の方から順番にバス乗って。あと応急セットとかは前の方に、マネージャー、よろしく。」
恭子がメンバーの後ろから
応急処置セットが入った
ボックスを持って返事をした。
木村が心配そうに声をかける。
「大丈夫ですか?
持ちますよ?」
「大丈夫よ。
いつものことだから、気にしないで。
菜穂ちゃんも今来るし。」
「本当、良かったですね。
マネージャー増えて
恭子先輩。」
「そうね。
まだ教えてないことあるから
覚えてもらわないと。」
ニコッと微笑む木村。
ボックスのとってを持ち直す。
足元には飲み物を入れるタンクも
大きな袋に入っていた。
更衣室へ向かった龍弥と菜穂。
マネージャー用の更衣室はカーテンの向こう側だった。
なぜか誰もいないと思って奥の方に龍弥が入っていく。
「のぞくなよ!!」
とカーテンを閉めて
ジャージに着替え始めた。
「どっちが。
ちょっと誰か来たら見られるから
早くしてよ!!」
トントンとドアをノックする音がする。
「あ、はい、今なら良いですよ。」
「お邪魔します。」
池崎だった。
「あ。」
と菜穂。
「あ、どうも。」
と池崎。
菜穂と池崎はぺこっとお辞儀する。
「すいません。」
かと思ったらバタンとドアを閉めた。
「ん?誰か来たの?」
龍弥は着替えおわってカーテンから
出てきた。
「池崎くんだったよ。
ちょっと次、私、着替えるから。
対応して。」
「あ、そうなんだ。」
菜穂はカーテンを急いで閉めて
制服からジャージに着替えた。
ドアを開けて、外で待つ池崎に声をかけた。
「おぅ。来たんだな。」
「あぁ。」
「入って、着替えたら?」
「今、雪田さんいるじゃん。」
「大丈夫だって。
カーテン閉めてるし。
みんなバスで待ってるから。
ほら。」
「あ、そう。
んじゃ……。」
池崎は恐る恐る更衣室に入る。
静かに持ってきたジャージ袋から
ジャージを取り出して着替え始めた。
入ってきたことに気づいてない菜穂は
カーテンを開けた。
「龍弥、どこ?
あああ!! ごめんなさい。
龍弥以外誰もいないと思って。」
ぱっとまたカーテンを閉めた。
池崎はちょうど
ズボンを脱いでいるところだった。
「いや、あの。こっちこそごめん。
今、着替えるから
そのままそっちいて。」
スピードアップで池崎はジャージに
着替えた。
「あ、はい。
終わったら声かけて
もらっていいかな。」
その頃、龍弥は更衣室の外で
口笛吹きながら腕組んで待っていた。
「終わったよ。」
すっかり着替えを終えた池崎はしゅんとなっていた。
「あ、ありがとう。」
カーテンを開けて、そっと後ろを通り過ぎようとする菜穂。
「あのさ!」
「え?!」
声をかけられてびっくりする。
「本当、この間のことなんだけど
……悪かった。
怖い思いさせたなって。
申し訳ない。」
深々と謝る池崎。
菜穂は肩にかけたバックが
ずれ落ちた。
「……うん。大丈夫。
えっと、あー……
虫に刺されたってことに
しとくから、大丈夫。
それか白い紙ですぅーと
切れたってことで。
大丈夫、
お肌はすぐに再生するから。」
作り笑顔で必死でごまかす。
「マジで……本当、ごめん。」
「何回も謝らないで。
もう、忘れたから。」
ドアをガチャと開けて
龍弥がのぞく。
「おーい、まだ?
着替え終わったろ?
熊谷先生、
めっちゃイライラしてっぞ。」
「あ、それは大変だ。
早く行こう。」
池崎は荷物をバックに詰め込んで、
ドアの外に出た。
菜穂は池崎も普通の人間なんだと
改めて安堵した。
人はストレスがたまりすぎると
何をしでかすか分からない。
どんなに凶悪な犯罪者も
同じ人間。
相手に言われた言葉、
相手にされたことで
物静かな人でも変化してしまうことも
あるんだなと思った。
極端に池崎を怖がることをやめた。
「菜穂、話せた?」
「う、うん。」
「それは良かった。」
肩にバックを乗せて
龍弥はバスに乗り込んだ。
更衣室の外で待っていたのは
あえて
2人の空間を作ったんだなと
菜穂は悟った。
菜穂は恭子に頼まれた荷物を
よいしょと持ち上げて、
バスの前の座席に乗せた。
「メンバー全員揃ったな。
んじゃ、出発しよう。
運選手さんお願いします。」
「はい、承知しました。」
サッカー部11人とマネージャー2人
顧問の先生とコーチを乗せたバスを
静かに走らせた。
今日はサッカーをするには
快晴で
絶好の天気だった。
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