第二章 5.ただ君たちを護りたい

私は、机の上に置いてある本を片付け、部屋に常備するようにした茶飲みセットから御茶を取り出した。

「あり……がと……」私は、優しく微笑んだ。

「美味しさは、保障しないよ。飲んでくれる人は、凪ちゃんが初めてだからね」

そう言い、凪ちゃんは、こくりと、一口飲んで……

「苦い……」と顔を顰めた

「あちゃ……それは、悪かったね……自分では、美味しく飲めるんだけどね……いや、確かに苦いけどね~」

今度御茶の入れ方を勉強しようと、そう考えた

「きょ……う……ごめん……なさい……」私は、凪ちゃんがここに来た理由をわかった……

「いや、良いよ……姉さんの……千影さんの事……私も……」私は、顔を凪ちゃんから背けた……

涙がまた出てくる……

「どう……した……の?」急に後ろを振り向いたから、心配させたか……

「いや……ちょっとね……」私は涙を拭いて、凪ちゃんのほうを向いた。

「大丈夫……私が……貴方たちを守りますから……」私は……凪ちゃんを安心させるように、

優しく笑顔で、話すが……

「い……や……」

凪ちゃんは……そんな私を……次は……ちゃんと解る様な……拒絶の顔を見せた……

「い……や……いや……嫌!!!!!!!!!!」

急に凪ちゃんが大声を上げ……涙を流す……人形の様に表情の乏しい顔に……拒絶と悲しみの表情をあらわにし……そして、その目から……涙を零して取り乱していた……


「凪!!」ドアが開けられる……楓さんだ……

そして、私の方を見て……

「凪に……何をしたんですか!!」

私を問い詰めた。

「解らない……さっきまで……話していたら急に……それより……早く……凪ちゃんを止めないと……」

私は、凪ちゃんの動作を見極め……一気に接近して……その首に右手を……私は……左手で右腕を押さえた……そして、次の瞬間、凪ちゃんは倒れた。

「凪!?」楓さんが凪ちゃんに近づく……

「大丈夫です……ちょっと頚動脈を押さえて……意識を失わせただけです……」

私は、いつの間にか汗をかいていた……そして、胸を押さえた……

「朱鷺さん?……だっ……大丈夫ですか!?」楓さんが心配するかのように……私を見る……

「いや……運動不足で……心臓がびっくりしちゃってね……」私は何度か深呼吸をすると、立ち上がった……が……、軽い眩暈がした。

「さあ、いつまでも、凪ちゃんを此処で寝かせている訳にも、いけないから、部屋にでも運ぼう」私は、凪ちゃんを抱き上げる……

「あの……本当に大丈夫ですか?」心配そうに私を見るが……

「大丈夫、大丈夫だよ……それよりも、凪ちゃんの事……もっと聞かなければいけなくなったから……晩御飯を作ったら、話をしてくれるかな?」

楓ちゃんは、頷いたが……

「その代わり、私の話も一つ聞いてください……」

私は首を傾げた

「食事は、皆で食べましょう」楓さんは……両手を合わせて、私に言った……

「…………」

「どうしたんですか?」

私はなんでもないと笑ったが……千影さんと言いそうになったのを、悔いた……


私は、凪ちゃんをベットに寝かせ、キッチンに向かった……

料理の準備を始めようとすると……楓ちゃんが……やってきて……

「あの……何か御手伝いしますよ」と入りにくそうに、もじもじしながら、

私に話しかけてきた。

「いや、別に……一人でも……」

「いえ……調理の準備をしながら話をしようと……」

私は納得し、先程の状況を話した……


「……貴方たちを……守る……」楓さんは、凪ちゃんに言った言葉を繰り返した……

「それを言ったら……急に暴れだして……」

「その言葉は、母さんが……よく私たちに言っていた言葉です……離婚する前とか……死ぬ前も……私たちに……」

「そうだったんですか……それより、私の部屋に、凪ちゃんを連れて来たのは、楓さんですね」

この空気が嫌だった私は、話を変える事にした。

「えぅ!?」急に話を変えた為に、どもったのかはこの場合どうでも良いとして、

「あのタイミングで、部屋に入ってきたのと、凪ちゃんが自分から謝りに来るなんて、何かあるとね~」

「そっ、それは……って、それって、凪に対して、あんまりですよ!!」

楓さんは、凪を悪く言ったので、少し不機嫌になったが、

「確かに、凪は、自分のやった事を、理解してくれていませんよ!!でも、根は……後先見ない性格なんですから……」

「楓さん、それは、フォローではなく、止めになりますよ。」

私は冷静に、楓さんのフォローを打ち砕いた。

「う……凪は本当に良い子なんですよ~」

「そうですよ!楓さんの妹ですから、悪いはずは無いです!」

いじけた様に、顔をうつむける楓さんを、私は、慌てて慰めた。

「そうですか……?」恐る恐る楓さんは、顔を上げる

「はい、楓さんは、こんなにも、優しい人なんですから、凪ちゃんも幸せですよ」

私は微笑んだ。

でも、私は……人の事ばかりに目がいっている楓さんに……不安を覚えた……

彼女は人の事ばかりを心配して話しているが……自分の事を話していないと……

「楓さん」

私は、自分でも解らないうちに、名前を呼んでしまった!?

「なんです?朱鷺さん?」

彼女は、機嫌を直し私に、微笑んだ……何の迷いも悩みも無い微笑み……

私は、楓さんの頭に手を乗せ……

「とっ朱鷺さん!?」急に頭に手を乗せられ驚いたが……

私が頭を撫でると、その意味が解ったらしく、大人しくなった。

「楓さんは、優しいですね……凪さんも、その事をわかっています。

だから、もし自分だけで耐え切れなければ、私を頼ってください」

「朱鷺さん……だっ、大丈夫ですよ!!それに、もう朱鷺さんには、

手を貸してもらっていますし!!」

急に照れだして、楓さんは、私の手を払った

「頭を撫でて貰うのは嬉しいですけど!!そう気軽に、女の子の頭を撫でれるのは、反則です!!」

え!?何で急に私が怒られているの?

「私は、凪と違って、可愛くも無いのですから!!そんな事は……」

「可愛いと思いますけどね?」

楓さんの言葉を遮り私は言った。

「さっき頭を大人しく撫でられている時の貴方は、可愛かったですよ」

そう言うと、楓さんは、急に顔を赤くして……

「なっ、何を言うのです!!そんな御世辞……

「楓……顔……紅い……なにかあった?」うわぁ!?凪!!いつの間に!?」

いつの間にか凪ちゃんが、一階に下りてきていた。

「凪ちゃんもう大丈夫ですか?」

「大丈夫……部屋……ごめん……」凪ちゃんは、私に頭を下げた

「良いんですよ、怪我とか無くって、本当に良かったですけど……

どこか、痛い所は、ありますか?擦り傷とか、打ち身とか……痛ければすぐに言ってくださいね!

女の子の大事な肌に傷が残ると大変だから……」

「それ……セクハラ?」

本当に心配して言った言葉なのに……セクハラと呼ばれ……私は……片膝を着いた……

「凪!!!心配してくれているのに……」

ああ、こんな私に楓さんが……フォローを……いや……待て私……これ以上……耳を傾けるな!!

「確かに、女の子の大事な肌とか、痛い所があれば、自分に言えとか、セクハラっぽいですけど……それは、好意あっての事ですから……って!!朱鷺さん!?蹲ってどうしたんです!?」

私は、胸を押さえた……産まれてこの方、此処までセクハラとか言われた事は無いですよ……

私は、涙を一滴流した……。



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